4月 入学式 13
がらりと扉を開けて入ってきたのは、やわらかな茶髪の髪をお団子にした小柄な少女だった。可憐な佇まいに、生徒会室にいる皆が釘付けになる。
がたり、と麻子の横に座っていた円が顔を赤らめながら椅子から立ち上がった。
「ばぁんりちゃあ〜んっを「はなせ」
運動神経の良さをこんなところで発揮しなくたって。驚くべきスピードで少女の横へと移動した円は、その小柄な身体を両腕の中へ閉じ込めた。無表情にそんな円を腕で押しのけようとする少女は嫌そうにしながら抵抗している。
生徒会室に騒然としたざわめきが起こった。
「え、円の誘った子って…その子?」
円の変わりように若干顔を引きつらせながらも、代表として麻子が恐る恐る口を開く。
「おー、そうそう。やばいっしよ、めっちゃ可愛いっしょ?」
整った顔をこれでもかとゆるゆるに緩めながら、円は頷いた。
「なんかロリコンみたいだな」「しっ、それ言ったらおしまいだと思うよっ」「ショタコンよりマシじゃないっすか」
脇で好き勝手に言い始める役員たちをガン無視して、麻子は未だ逞しい腕の中にいる少女を見つめた。綺和、駿河と続いてこの無表情の少女。見覚えのあるその顔に、麻子はゆるりと首を傾けた。何処で、見たのだったっけ。
「……霧ノ森、卍里…。見学に、きた……」
「霧ノ森……?あ、」
「わぁ、凄いねこの学校と同じ名字なんだね。珍しー」
惺がからからと笑った。おそらく場を和ませるためのジョークなのだろう。しかしそれはこの場合に対してはなんら意味を持たない。
「この学校の理事長のお孫さんだもの。同じ名字なのも当たり前よ」
「…………ぇええっ⁈」
足を踏まれて、痛みでしゃがみこんでいた円が同意するようにへらりと笑顔を浮かべた。抱きしめられるのに嫌気がさして、強行手段に出たようだ。
「てことは、お嬢様、なのですか?」
「霧ノ森グループは日本を代表する世界的な財閥だものね」
夕映こ疑問に麻子が答える。彗銀や駿河、惺たちが感心したように卍里を見つめた。
一般家庭で育った駿河や綺和にとって、お嬢様という言葉は耳慣れず真新しい響きを持っている。
霧ノ森高校はお金持ちの集まる学園だとは知ってはいたが、俗に言うこのような”本物”に会えるとは想像の域を出ていなかっただけに驚きを隠せない。
ぐきゅるるるり……。
突然、なんとも気が抜けるような音が生徒会室に内を満たした。3時間目の静まり返った授業中によく響くような、そんな音。
「え、誰?」「俺じゃないぜ」「私でもないのです」「私もちがうよー」
全員が否定していく中、再びきゅるると音がなる。皆の視線が、涙目でお腹をさするコに集まる。
「お腹……すいた…」
庇護欲を誘うようなか細い声で、霧ノ森卍里はそう宣ったのであった。




