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『汗』『土』『月』それから『青春』それが僕の香りです
そういう終わらせ方をしても、作文用紙は半分くらいしか埋まらない
序論、本論、結論
その序論の部分しかまだ書けていないみたいだ
オイラは部屋の勉強机に座り、考え込む。
『汗』『土』『月』
『汗』『土』『月』
そして『青春』
オイラの香り
オイラが"こうだ"と感じている香り、皆が"こうだ"と感じている香り
さぁ、何を書こうか
「うーん…」
「なぁにを、悩んでるの寿」
後ろから、酔っぱらいの様な呂律の回らない女の声がする
姉ちゃんだ…
勝手に入るな、とは言えない。ここは姉ちゃんの部屋でもあるのだ
その証拠にオイラの勉強机のすぐ隣に、姉ちゃんの勉強机がひっついている。
「別にぃ」
「あ、作文か」
姉ちゃんが勝手に上から覗き込む
「勝手に見んな!」
「いいじゃんよぉ。減るもんじゃなしぃ〜」
それが減るんだよ
その、色々…
「ま、がんばれよ」
そう言って姉ちゃんは部屋を出ていった。
これからお風呂に入るらしい
ご機嫌な鼻唄が、オイラの耳に届く
姉ちゃんは悩みが無さそうでいいな、なんて思った瞬間、オイラの携帯が唸りを上げた
なんのひねりの無い電話の音
開くと癒菜の名前が大きく書かれていた
ボタンを押して、電話に出る
「癒菜、どうしたの」
『あ、寿!今何してた?』
「んー?課題の続き考えてたけど」
オイラは2枚の作文用紙を手に取りペラペラと左右に動かした
この行動が癒菜に見える訳じゃないけど
『私も同じ事してたよ。
お兄ちゃんに作文の内容覗かれたけど』
「オイラも同じ事姉ちゃんにされた…」
似た者同士だったのか
あの2人仲良いもんな。
類は友を呼ぶ……
『そんな事よりさっ明日も一緒に課題やらない?
1人で考えても何も浮かばないよ』
癒菜が机にへたり込んだ
……気がする
「そうだね、1人より2人だよ」
あぁ、そういえば
宿題にも手を付けておかないと
「図書館行かない?
宿題もやっちゃおうよ」
あそこなら静かだ
『うん、いいよ』
癒菜が明るく笑っている
ような気がする




