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「なんてね」
そう言って、桜はクスリと笑った
"なんてね"などと言うくらいなのだから、きっと冗談だ。
冗談、なのかな?
もう昼過ぎで、気温も汗が涌き出るくらい暑くて、それでも城の様なこの橋の中は涼しかった。
昨日、癒菜と待ち合わせした場所。
座るところもあるし、ここなら誰にも聞かれずに相談事が出来る。
相談相手は幼なじみであり、先輩であり、そして昔からの親友だ。
「寿、珍しいじゃないか相談ってなんだ?」
背の高い黒髪のイケメンがオイラの肩を軽くたたく。
「夏院。今日は先輩じゃなくて親友として相談したい事がある」
「おう、いいぜ。相談しろよ。しまくれよ」
夏院は爽やかな笑みをオイラに見せて、近くにある木製の長椅子に座る。
「なにかあったのか?」
「……」
オイラが沈黙を作ると、夏院から笑顔が消え、真剣な表情へと変わる
「実は、桜に告白……された」
「あ、へー…」
夏院は了承したように頷く。てっきり、もっと驚かれると思っていたのに、意外だった。
「で、寿はどうしたい?
付き合う?」
真剣に、惑うことなく真っ直ぐとオイラを見上げ、夏院は言う。
「オイラ、桜は友達だと思ってたし……今はなんとも"なんてね"なんて言って誤魔化されてしまったから、正直返事して良いのかも分からなくて……困ってる。」
オイラは胸の内を隠すことなく夏院に伝えた。
さすがに内容が内容なだけに、照れくさくて目を合わせて話すことは出来ないけれど……
「ほぉ。でもさ寿」
「なに?」
「そんなこと言われたら意識せざるを得ないだろ」
真剣な顔が一変してニンマリと、からかい楽しむ様な笑顔になった。
「……そりゃそうだろ!どうしてくれるのさ!!」
オイラが顔を赤くして、力の限り叫ぶと、夏院は声を上げて笑った。
ちくしょう、他人事だと思って
「まぁ良いじゃん!返事は夏休み中に考えろ」
そう言って笑う夏院からは、なんだか、爽やかなミントの様な香りがした。




