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しがないブロンズコレクター

この世界の人口の七割は冒険者である。

冒険者は皆それぞれ違ったスキルを持っていて、それらは全てスキルガチャで手に入れることができる。

ギルドの依頼をこなしたり、魔物を討伐したり、ダンジョンを攻略することでガチャポイントをため、スキルを手に入れるのだ。

スキルガチャは3つのランクに分けられていて、最高位のスキルが手に入るゴールドスキルガチャ、上級のスキルが手に入るシルバースキルガチャ、下級のスキルが手に入るブロンズスキルガチャがある。

皆、強いスキルを求めてシルバースキルガチャやゴールドスキルガチャを引きに来るが、中には一つのランクにこだわり、そのランクのスキルだけを集めるスキルコレクターもいる。

かくいう僕も、ブロンズスキルマニアだった父の影響を受けて、ブロンズスキルコレクターをやっているのだが。


「おーい!ユウリ!まーたブロンズガチャ引きに来たのかよ!」


ベテランの冒険者の男が声をかけてきた。


「うん!もちろんさ!」


僕の名前はユウリ。

アステノン王国にある大都市ケスティアで冒険者をしてるんだ。

僕の家は代々冒険者を生業としていて、先祖の中にはギルドの壁に肖像画が飾られているほど有名な人も多くいた。

祖父もその内の一人でとても有名な冒険者だったらしい。

僕の父もある意味有名な冒険者で、決して強くはなかったけど、下級のブロンズスキルしか集めない変人で通っていたんだって。

父は毎日のように言っていた「ブロンズスキルには夢とロマンがつまっている」のだと。

そんな父にあきれていた祖父から鍛え上げられた僕はそこそこ強い自覚はある。

ゴールドスキルやシルバースキルのガチャを引けるほどのポイントは軽く集められるけど、父の言葉が忘れられず、祖父の言いつけも守らずにブロンズコレクターとして、毎日ブロンズスキルガチャを引いているんだ。


「うーん、またスキルが被っちゃったよ、父さんは一日に三回ガチャが引けたらいい方だったから、スキルの被りはなかったけど、僕は毎日10回以上ガチャを引いているからなー」


ガチャの前でブツブツと呟いていると、後ろから声をかけられた。


「オイ!そこのお前!はやくどけないか!」


振り返ると煌びやかな甲冑を身にまとった若い青年とその仲間らしい人物が立っていた。


「すみません、もう少し待っていただけますか?あと3回は引けるので」


青年たちはフッと鼻で笑い、見下したような目で見て言った。


「笑わせるな!ブロンズスキルガチャしか引けない様な下民の分際で、Bランク冒険者であるこの銀翼の騎士団の団長、ケイン様を待たせようというのか?」


青年の仲間たちもクスクスと笑っている。


「順番ですので、冒険者ランクが高いからと言って変わる理由にはなりません。それに、それだけの高ランカーなら、ゴールドスキルガチャをお引きになられては?」


僕の言葉を聞いた青年の顔がカっと赤くなり、声を荒らげた。


「馬鹿にするな!僕はもうすでにゴールドスキルガチャを引いた後なのだ!ポイントを余らせまいとブロンズスキルガチャを引きに来てみれば、こんな下民なんかに馬鹿にされるなんて、なんという屈辱だ!」


「なぁ、ケイン!こいつ気に食わねぇし、ボコボコにしちまおうぜ!」


後ろにいた仲間が青年に提案した。


「ふん!そうだな!そうしよう!この僕を侮辱したことを後悔させてやる!」


青年たちはにじり寄り、僕の周りを囲った。

その時、騒ぎを聞きつけたギルド長のアーノルドが奥の部屋から顔を出した。


「随分と騒がしいが、何事だ?」


「これはこれはギルド長殿、今からこの無礼者に正義の鉄槌を下そうと思い、決闘を挑んでいたところなのですよ」


「お前たちが、此奴にか?」


ギルド長はユウリとケイン達を交互に見比べている。


「やめておけ、お前が敵う相手ではない」


ギルド長は首を横に振りながら言う。


「どうか許可をお願いします!この下民に鉄槌を下さなければ僕の気が済まない!」


青年は顔を真っ赤にして憤っている。

その様子を見たユウリは、ギルド長の顔を見てニコリと笑いながら言った。


「僕はかまいませんよ」


ユウリの返事を聞いたギルド長は深くため息をつきながら言った。


「はぁ、いいだろう。だが、ここではやるな。決闘場を開けてやる。やるならそこでやれ」


「わかりました。後悔しても遅いぞ下民!人前を歩けぬような惨めな姿にしてやるからな!」


ユウリと銀翼の騎士団はギルド長に連れられ決闘場に向かう。

騒ぎは大きくなり、噂を聞きつけた冒険者たちが決闘場に集まった。


「アイツ、運が悪いっスね。銀翼の騎士団に目を付けられるなんて。ギルド長もギルド長っスよ!こんな結果のわかりきった決闘を容認するなんて!」


決闘の噂を聞いた若い冒険者が一緒に来たベテランの先輩冒険者に不満を漏らした。


「あん?お前、ユウリのこと知らないのか?運が悪いのはむしろ銀翼の奴らだぜ?」


「どういうことっスか?」


若い冒険者は不思議そうな顔をしている。

ベテラン冒険者はその顔をみてフッと笑い、言った。


「まぁ、見てりゃわかるぜ」


ユウリと銀翼の騎士団がギルド長を挟んで対角の位置に着いた。

ギルド長が片手を突き上げ、開会の合図をする。


「これより決闘を開始する!」


ギルド長の掛け声と共に決闘が開始した。


「最後情けだ下民!先に攻撃してもいいぞ?まあ、当たらないだろうがな!」


銀翼の騎士団たちは団長のケインの言葉に大きな口を開けて笑っている。


「いいんですか?それじゃあ、遠慮なく」


ユウリはその場に立ち尽くし、何かブツブツと唱え始めた。


「俊足、忍び足、脚力上昇、腕力上昇…」


「どうした?まさか、怖気づいて動けないのか?」


ケインはニヤニヤと意地の悪い笑顔で馬鹿にしている。


「よし!じゃあ、行くよ!」


ユウリはそういうと、目に見えぬ速さでケインの後ろに回り込み、ショートソードを振り下ろした。


「ハッ!」 キンッ!


ケインは間一髪持っていた剣でユウリの攻撃を防ぐ。


「おっ!やるね!でも、まだまだだよ!」


ユウリは空中で体制を変え、ケインの脇腹に蹴りを入れる。


「グフッ!」


ケインは避けられず、脇腹にモロに蹴りをくらい、数メートルほど飛ばされた。


「ケイン!」


ケインがやられたのを見て、銀翼の騎士団の仲間たちが一斉に攻撃を仕掛けてきた。


「くらえ!」


ユウリの後ろから、大男が巨大なハンマーを振り下ろす。

ユウリは攻撃を手で払いのけ、攻撃と共に下がった大男の顔面に膝蹴りをする。


「ぐおおおー!」


大男は痛みに悶え、後ろに倒れた。

その隙に、魔術師と思われる女と、シーフと思われる男が同時に攻撃を仕掛けてきた。


「ファイアーショット!」


魔法と同時にシーフの男がナイフで切りかかってくる。

ユウリはのけ反り、魔法とナイフを同時に避けると、シーフの男の鳩尾に蹴りを入れる。


「ゴフ!」


シーフの男はその場に倒れ、ユウリは魔術師の女の元へと飛びかかる。

ユウリが女の喉元にショートソードを突き立てたところで、ギルド長の大きな声が響き渡った。


「そこまで!!!!」


ユウリはそっとショートソードをおろし、服に着いた砂を払った。

魔術師の女は腰が抜けたのか、その場に座り込んでしまって動かない。


「まったくお前は!手加減というものを知らぬのか!」


ギルド長はユウリを大きな声で怒鳴りつけた。


「だっ大丈夫ですよ!致命傷は与えてませんし」


「そういう問題じゃない!だからやめておけと言ったのに!」


ギルド長はカンカンに怒っている。


「な、何が起きたんだ」


ケインは放心状態のまま、膝をついている。


「ふん!世間知らずの若造が!どうせ此奴のチンチクリンな見た目に騙されたのだろうが、此奴は国唯一のSランク冒険者だぞ」


「えっSランク冒険者だと…」


冒険者ランクは一番下のFランクから始まり、最高はSランク。

その中でもSランク冒険者は世界的にも珍しく、片手で数えられるほどしかいない。

ユウリは放心状態のケインの前に行き、声をかけた。


「僕の攻撃を防ぐ実力があるんだから、弱いものイジメなんてしてないで、しっかり腕を磨くんだよ」


ユウリはそう言うとケインの頭をポンっと撫でた。

ケインの側を離れたユウリは倒れている銀翼の騎士団の仲間たちの元へと向かい、助け起こし、介抱して、謝った。


「なんなんだ」


ユウリの後ろ姿を眺めていたケインの元にギルド長がやってきて言った。


「変わっているがいい奴なんだ、強い癖に威張らないし、力を誇示しようともしない。お前もああいう人間を目指せ、そうすればもっと強くなれるだろうな」


それだけ言ってギルド長は決闘場を後にした。

介抱を終えたユウリも決闘場を後にし、たった一人の冒険者に負けた無様な姿の冒険者だけが残った。


「すっすげぇ!ものの数10秒で全員を伸しちまうなんて」


「だから言ったろ?今まで何人もの冒険者がユウリの見た目に騙されて決闘を挑んできたが、誰一人としてユウリに敵う奴はいなかったからな」


「知ってたなら教えてくださいっスよ!心配して損したっス!」


「俺らベテラン冒険者の中では有名だぜ?なんたってあの有名な冒険者バングの孫だからな!」


「ええ!あの白銀のバングの⁉」


白銀のバング、ユウリの祖父であり、現役時代はユウリと同じくSランク冒険者だった人物だ。


「そりゃあ、強いわけっスね」


二人が話していると背後からギルド長が現れた。


「よ!アーノルドさん!今回もユウリは大暴れだったな!」


ギルド長がは大きくため息をつく。


「はぁ~、まったく、バングに似て加減を知らないからな。調子に乗っている新人共の性根を叩き治してくれるのはいいが、使い物にならなくなっては元も子もないだろう」


「まあまあ、あれもアイツなりの優しさなんですよ!」


「分かってはいるがな、どうしたものか」


三人は遠くに見えるユウリの後ろ姿を見て、ため息をつきながら困った顔で笑った。

《登場人物紹介》

ユウリ

この物語の主人公。

有名な冒険者バングの孫であり、ブロンズコレクターの父をもつ冒険者。

冒険者としては最高ランクのSランクでありながら、ブロンズスキルばかりを集めるブロンズコレクター

Sランク冒険者とは思えない見た目から、新人冒険者に舐められる事もあるが、その度に性根を叩きなおしている。

自身のことは”しがないブロンズコレクター”だと言っているが、周りの人間は誰一人としてそんなことは思っていない。


銀翼の騎士団

ケイン

銀翼の騎士団の団長。

若くしてBランクに成り上がり、調子に乗っていた貴族出の冒険者。


ギルド長アーノルド

ケスティアにある冒険者ギルドのギルド長。

昔はユウリの祖父であるバングと共に冒険者をしていた。

ユウリのことはユウリが幼い頃から知っており、何かと気にかけているが、祖父ゆずりの強さに手を焼いている。

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