なぞ多きキザクラ商会
レーナと美鈴が立ち去ったことを感知したリスベル。
すっと立ち上がる。
「リスベル、どうしたの? 精霊? この馬車を動かしてくれたの、精霊なの?」
アシュリーが近づいて来て、リスベルに尋ねた。
「はい。大きな自然エネルギーを二つ感じました。二人の高位精霊様がいらしたと思います」
リスベルは断定する。
高位精霊が二人だと。
なぜなら、低位、中位の精霊は、意思を持って人に手助けをしたりしない。
むしろ、高位精霊であっても、人には関心が薄く、このようなことめったにしないはずだが、するとしたら意思がある高位精霊ということだ。
「その精霊はどちらに?」
アシュリーが空を仰ぐ。
しかし、レーナも美鈴もすでに立ち去った後だ。
「もう、立ち去られてしまいました。先ほどまで馬車の後ろにいらっしゃいましたが」
「そう、それが本当なら残念だわ」
「私は、精霊様を感じられただけでも幸運だと思っております」
むしろ、精霊様に助けられるなど、エルフの里にいても言い伝えくらいにしか聞いたことがない。
精霊は人に、人のやることに興味を持たない、それが普通だ。
「そうね。馬車を動かしてくれて、助けてくれて。自慢話が出来たわ」
ただし、リスベルはなぜか怪訝な顔をしている。
その様子にアシュリーが尋ねる。
「どうしたの、リスベル。何か腑に落ちない?」
「なぜこのようなところに精霊様がいらしたのか」
そう。精霊はそれぞれの居所から動こうとしない。
だから、その周りにエルフの里が出来るのだ。
こんなところを移動している精霊など、そうそういるわけではない。
「精霊なんて、どこにいるかわからないんじゃないの?」
「いえ、精霊様は自分好みでかつ、自然エネルギーの集まるところ、水辺や森にいらっしゃいます。このように何もないところにいらっしゃることはほとんどありません」
「そうなのね。たしか、エルフは精霊を崇めているのよね」
「はい。そうです」
「じゃあ、なぜ、貴方は森を出てしまったの?」
「キザクラ商会に勤めたかったからです。キザクラ商会のトップはハイエルフ様という噂。ハイエルフ様も私達エルフが崇める種族。そして、そのハイエルフ様達の周りには、大精霊様や高位精霊様が何人もいらっしゃると聞いています。つまり、キザクラ商会は、我らエルフの憧れの商会なのです」
へぇ、と、アシュリーが感心する。
キザクラ商会とは想像もつかない商会だな、と。
ちなみに、ここで言うハイエルフとは、グレイスの妻、ラナとルナのこと。
ハイエルフであれば長寿であろうし、もしかしたら今も現役かもしれない。
しかし今はグレイス同様に表に出てこない。
だから不在、もしくはよくわからない、となる。
アシュリーは、イングラシア聖王国の過去の出来事から知識を絞り出す。
王女として無知ではいられない。
「確か、そのキザクラ商会の会長が、これから行くグリュンデールの何代か前の国王だったわよね」
「はい、初代国王です。それに、未だにキザクラ商会の中心はグリュンデールとローゼンシュタインにあります」
「イングラシアの何代か前の女王もキザクラ商会の会長についてグリュンデール王国に亡命したと。あれ、その初代国王とキザクラ商会の会長が同一人物ってことある? その人が未だに会長をしているとか?」
もしかしたら、キザクラ商会の会長もエルフの様に長寿なのだろうか。
「いえ、現在は会長は空席になっているという噂です」
そう。
グレイスはすでに引退の身だ。
「じゃあ、キザクラ商会のトップっていうのは?」
言うなれば、会長とトップは違うのだろう。
「先ほどハイエルフ様が、と言いましたが、実は、わからないのです。トップ組織があることは否定できません。私達とのつなぎとして役目を与えられた統括がおりますので。ですが、私どものようなものが、トップの皆様にお目通りできることはありません。ですので、わからないんです」
たとえ引退したとはいえグレイスの思い付きと言う名のわがままはあるし、妻達のためにと、グレイスはあれこれ注文することもある。
その妻達も、日用品もなんでも注文するのはキザクラ商会なのだ。
つまり、トップは不在にしても、キザクラ商会がグレイス達に振り回されることには変わりはない。
「わからないって、恐ろしいわよね。キザクラ商会は、この世界中に展開しているし、その経済力も影響力もあるし」
「いえ、私どもは社会に貢献することをモットーとしておりますので、敵対しない限りはごく普通の商会です」
「そうね、そうあって欲しいわ」
とはいえ、アシュリーが言うように、この世界を経済的に牛耳っていることには違いがない。
馬車を追い越し、先を進むレーナと美鈴。
ぽよぽよと街道を北へと向かっていく。
(あれ、でも、さっきのエルフの人に、どこに精霊がいるか、聞けばよかったかなぁ)
(どうやって? 意思は伝わらないわよ?)
(文字を書くってどう?)
(地面に、とか?)
(そうそう)
(それはいいわね。戻る?)
(うーん、先を目指そうかな。他の人になるかもしれないけど、またエルフさんには会えると思うし。それに、私達が向かうのは森。あの人たちとは行き先が違うよね)
(そうね。そうしましょう。いずれにしろ、私達の存在はエルフにばれると理解したわ)
レーナと美鈴がさらに進んでいくと、村が見えてきた。
(村よ。そろそろ遅くなってきたし、あそこで休む?)
(そうね。でも、私達精霊だし、ご飯はいらないし)
(寝るところよね。宿を借りるわけにもいかないしね)
(とりあえず行ってみましょう)
レーナ達精霊は自然エネルギーで活動している。
よって、特に食事をとる必要はない。
実のところ、睡眠も必要ない。
脳もないのだ。
こればっかりは、レーナと美鈴の習慣である。
どこかで寝たい。
(あなたーをさがしてー、旅にーでるのー)
(わわわわー)
(あなたーをうしないー、わたしーは虚空―)
(わわわわー)
(わたしーのこころはー、からあっぽなのよー)
(だけどー、からあっぽーのものは、ほかにーもあるわー)
(あーあーーー、かなしーきー、(いーちーもーんーーー、なぁーーーしぃーーー))
(あの、お金あっても、食事もいらないだけだからね。使い道がないだけだからね。だからなくてもいいんだからね)
レーナは誰に対してかわからない言い訳をする。
もちろん、ネタだ。
((あはははははは))




