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ラインハルト公爵領へ

 カッツェリア男爵領をでた馬車は、ラインハルト公爵領を目指し、北に向かって進む。

 御者台にはシフォンとトルテ。

 馬車の中では、カタリナとリスベルが、その向かいにアシュリーとすみれ姫が座っている。

 レーナとミシェルはそれぞれアシュリーとリスベルの膝の上だ。


「えっと、カタリナ」


 リスベルが、言おうかどうしようか悩んだ挙句、なんとか口にする。


「何?」

「もうすっかりお昼を過ぎたんだけど、忘れたものがあって」

「で、何?」

「食材を買っていない」

「……」

「制服が出来て嬉しくて、そのまま馬車に乗り込んでしまって」

「……」


 アシュリーはおなかを押さえる。

 お昼がないとわかると余計におなかがすく。

 すみれ姫は食べなくてもいいので、特に気にしない。


「で、どうするの?」


 カタリナがリスベルに尋ねる。

 何か案はあるのかと。


「西の森に入って取って来くるしかないと思うけど」


 というリスベルの返事に、カタリナは御者台のシフォンとトルテに声をかけた。


「昼に休めそうなところがあったら馬車を止めて。食材を狩りに行くよ」

「「はーい」」


 シフォンとトルテは大きな崖を見つけ、その脇に馬車を停めた。


「ここでいい?」


 と尋ねるシフォンに、


「えっと、崖よね。森に入りづらいんだけど」


 と、もっともなことを返すカタリナ。


 そこへすみれ姫がレーナの入れ知恵で発言する。


「食材は私とレーナが狩ってくる。だから、カタリナ達はミシェルと一緒に訓練でもしていたらどうだ?」


 この瞬間、ファイトアンドヒールの訓練が決まり、リスベルとアシュリーが目を細め、冷や汗を流す。


 だが、すみれ姫はそんなことは気にしない。

 自分は訓練には参加しない。


「それじゃ、行ってくる」


 と、すみれ姫は崖をぴょんぴょんと登り始める。

 それを見ていたカタリナ。

 思わず感想を漏らす。


「す、すごい。それに、ペチパンツを履かせておいてよかった」


 ちなみに、すみれ姫はクラシックロリータ調の制服を着てから、皆と同じ、茶系のブーツに履き替えている。

 そこもおそろいにしたかったらしい。


 崖の下ではカタリナを中心として訓練が始まる。

 ミシェルが見ているのだ。

 怪我など怖くない。

 ……いや、怖い。

 怖いが治療してもらえる。

 ……だが怖いことには変わらない。


 そのため、皆が実剣を使い、しかも魔法まで撃ちこみながらの実戦訓練を行っている。

 これも、カタリナ達が加わってからずっとやってきたことだが。

 そのおかげもあって、黒薔薇騎士団であるカタリナ、シフォン、トルテ直々に実践訓練を受けているリスベルとアシュリーは、みるみる上達していく。

 元々戦闘能力が高い元キザクラ商会支店長エルフのリスベルも、もともと戦士の家系で伸びしろがとにかく大きいアシュリーも。





 一方のすみれ姫とレーナ。

 レーナがどこであっても突っ込んでいくので、野草もキノコも果物も比較的簡単に見つかる。

 レーナはそれをすみれ姫に教え、すみれ姫が採集して袋へ突っ込んでいく。

 まずは、野菜類とキノコだ。

 肉は後。


 そうして、すみれ姫は袋いっぱいに野菜やキノコ、果物を詰め込んでいった。


 あらかた集まったところで、今度は肉を探すレーナ。


(すーちゃん、何を獲る?)

「おいしいやつ」

(私とミシェルは食べないからわからないけど、魔物でいいの? 野生動物?)

「わからないから両方」

(……まあ、余ったら寝かせればいいよね。肉も寝かせた方がおいしいって言うし)

「死んだ肉も寝るのか?」

(あ、ごめん。そういう意味じゃなくて、熟成させるっていうかね。すぐに食べるより置いておいた方がおいしくなることがあるみたいだよ)

「そうなのか」

(で、ホーンボアがいるけど……。あっちに野生の鳥もいるね)

「野生の鳥はレーナに任せていい?」

(うん。任された)


 とはいえ、レーナにとってそれは朝飯前の簡単なこと。

 精霊であるレーナは気配を察知されないまま野鳥に適度に近づき、そして、


 バチン!


 と、電撃を飛ばした。

 すると、感電した鳥が墜落する。


(すーちゃん、血抜きしておいて)

「わかった」


 レーナは同じように二羽、三羽と鳥を狩ってしまう。


 レーナは思う。

 これ、物語だったら何の面白みもないわね、と。


(すーちゃん、鳥はそろそろいいと思うけど、ホーンボア、どうする?)

「どっちの方向?」

(すーちゃんから見て二時の方向)

「わかった」


 すみれ姫は駆けだす。

 駆けて行けば当然のことだが、すみれ姫がホーンボアを見つけたと同時に、ホーンボアもすみれ姫を認識する。

 しかし、ホーンボアがすみれ姫に敵意を示すが早いか、すみれ姫が風の刃を放ってホーンボアの首を切り落としてしまう。


(すーちゃんもすごいね)


 すみれ姫は高位精霊。

 これくらいはできて当然だが、ほめられるとちょっとうれしい。


(それじゃ、みんなのところへ戻ろうか)


 レーナの声かけに、すみれ姫はスカートから取り出した槍の柄にホーンベアと鳥をくくりつけて担いだ。


(すーちゃん、ごめんね、全部持たせて)

「ん、問題ない」


 すみれ姫は非力なので、自分の力では持てはしない。

 風魔法で浮かせて、持っているふりをして運ぶのだ。


 すみれ姫は崖の上までやってくると、

 エイッ、と、飛び降りた。


 ふわり!


 すみれ姫はまるで天使が舞い降りるかのように、ゆっくりゆっくり地に降りる。

 それに気づいたリスベル達。


「あ、すーちゃんとレーナ。お肉と野草を取ってきてくれてありがとう」


 と、リスベルはまずは肉と野菜類を持って帰ってきた二人にお礼を言い、


「みんなでさばくよー」


 と、カタリナ達にも声をかけた。


 すみれ姫が飛びおりてくるところを見ていたカタリナは思った。

 やっぱりペチパンツを履かせて良かった、と。





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