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第25話

眼帯さんの手を受け入れて、必死に悲鳴を堪え続ける。彼の腰に脚を絡ませて、逃げられないように捕まえた。


「そこまでして、私を離したくないんだね」


「好き……大好き……離れないで……」


楽しげに笑う眼帯さんの声を聞きながら、私はさらに体を密着させた。彼の手が、私の体を這う感覚に背筋が粟立つ。


「私が好きなんだね。もっと言ってくれ」


「好き……眼帯さんが好き……」


互いの吐息を感じながら、体を触れ合う。怖くて震えてしまうけれど、あと少しだと自分に言い聞かせた。


そのとき――


遠くの方から、凄まじい爆発音が聞こえてきた。


「鬼面か……」


眼帯さんは私から離れて、手早く着物を整える。余裕のある笑みを浮かべて、私を見下ろした。


「とても楽しめたよ。あの男を殺したら、最後まで付き合ってもらおう」


そう言って、眼帯さんは去っていった。私は思わずその場でえずく。耐えていた吐き気が一気に押し寄せてきて、体を丸めて必死に堪え続ける。


「っは……は、う……あ……」


懐から鈴を取り出そうとして、無くなっていることに気づいた。今度こそ、本当に息が止まる。


「まさか……眼帯さんに取られた?」


激しい爆発音を耳にしながら、はだけた着物をそのままにして走り出す。あの鈴だけは、取り返さないと。


「きゃっ……」


「マヨイ様……」


廊下の先で黒布さんにぶつかった。黒布さんは私の姿を見て、声を震わせながら謝罪した。


「マヨイ様、申し訳ありません。まさか、こんな……」


彼の言葉を無視して、私は問いかける。


「黒布さん! 鈴を取られたの。眼帯さんはどこにいるの?」


「眼帯様は……いえ、その前に着物を整えましょう」


黒布さんは私に背を向けてしまった。私は急いで着物を整えると、黒布さんに声をかける。


「眼帯さんはどこ?」


「あまりにも危険です。早く避難しましょう」


「ダメです! 鈴を取り返さないといけないんです!」


黒布さんの両肩を掴んで、声を震わせながら頼み込む。彼はゆっくりと頷いた。


「分かりました。眼帯様の所へお連れしましょう。私が全力であなたを守ります」


彼は私に背を向けて走り出す。私はその後ろを着いて行った。



廊下を走っていると、天井が崩れ落ちてきた。黒布さんが咄嗟に私を抱き上げて回避する。彼は私を抱き上げたまま、瓦礫の上を走った。


「許可なく触れてしまい、申し訳ありません。このまま、眼帯様の所へお連れします」


「大丈夫です。お願いします!」


私の言葉を聞くと、彼の口元が柔らかく緩んだ。黒布さんは、すごい速さで走り抜ける。その間にも、激しい戦闘の音が聞こえてきた。


やがて、鬼面さんと眼帯さんの姿が見えてくる。半壊している屋敷の庭で、二人は戦っていた。


「鬼面さん……」


鬼面さんが刀を振れば、その衝撃波で周囲の物が切れていく。メスを投げつけながら眼帯さんは距離を取っていた。


二人とも傷だらけだったが、鬼面さんの方はあまり怪我をしていない。


「鬼面さん、やっぱり強いんだ……」


「このままでは、鬼面様は負けてしまいますね」


私は黒布さんの言葉に耳を疑う。どう見ても、鬼面さんの方が傷は浅い。


「どういう事ですか?」


「眼帯様の特技は毒による幻覚です。鬼面様はお強いですが、そろそろ毒が回ってくるはずです。このまま戦い続ければ、眼帯様が勝利するでしょうね」


冷静に解説をしてくる黒布さんに、私は恐怖で固まってしまった。

 

「鬼面様……やはり毒が……」


黒布さんが悲痛な声を出す。彼の声で私は顔を上げる。そして、その光景に悲鳴が出そうになった。


鬼面さんが――


お面をずらして、血を吐き出した。


あの鬼面さんが刀を地面に突き刺して、膝をついている。いつだって強くて、弱った姿なんて見たことがなかったのに。


「鬼面さんっ!」


私は急いで鬼面さんに駆け寄る。彼の喉を血が伝っていった。


「おや、迷者。お前が愛しているのは、私のはずだろう?」


眼帯さんがいつの間にか、私の背後に立っていた。彼に後ろから抱き締められて、身動きが取れなくなってしまう。


「いやっ! 離して!」


「鬼面、迷者は私がもらうよ。私と彼女は情熱的に愛し合った仲だからね」


眼帯さんが私の胸元をはだけさせる。見せつけるように、キスの痕を指でなぞった。

 

「私に甘える彼女はとても愛らしかったよ。ああ、もうほとんど聞こえていないか」


鬼面さんは顔を俯かせて、荒く息を吐き出している。初めて見る鬼面さんの弱った姿に、私は動揺を隠しきれない。


眼帯さんは執拗に私の胸元を撫で回す。彼の腕の中から抜け出そうと、懸命にもがいていた。


そのとき――


眼帯さんが私を抱えて、横へ飛んだ。


直後、ノコギリが地面をえぐった。ノコギリを持った包帯さんが、冷たい目でこちらを見ている。


「そんな怪我でも、避けるんだね」


「久しぶりにしては、随分な挨拶じゃないか。私の可愛い弟子」


包帯さんはノコギリを突きつける。


「迷者ちゃんから離れてよ。ドブ野郎」


眼帯さんは、私を離してメスを構える。そして、楽しげに鼻歌を口ずさみ始めた。


「今度は右目をもらおうか」


「死ね、ドブ野郎」

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