第25話
眼帯さんの手を受け入れて、必死に悲鳴を堪え続ける。彼の腰に脚を絡ませて、逃げられないように捕まえた。
「そこまでして、私を離したくないんだね」
「好き……大好き……離れないで……」
楽しげに笑う眼帯さんの声を聞きながら、私はさらに体を密着させた。彼の手が、私の体を這う感覚に背筋が粟立つ。
「私が好きなんだね。もっと言ってくれ」
「好き……眼帯さんが好き……」
互いの吐息を感じながら、体を触れ合う。怖くて震えてしまうけれど、あと少しだと自分に言い聞かせた。
そのとき――
遠くの方から、凄まじい爆発音が聞こえてきた。
「鬼面か……」
眼帯さんは私から離れて、手早く着物を整える。余裕のある笑みを浮かべて、私を見下ろした。
「とても楽しめたよ。あの男を殺したら、最後まで付き合ってもらおう」
そう言って、眼帯さんは去っていった。私は思わずその場でえずく。耐えていた吐き気が一気に押し寄せてきて、体を丸めて必死に堪え続ける。
「っは……は、う……あ……」
懐から鈴を取り出そうとして、無くなっていることに気づいた。今度こそ、本当に息が止まる。
「まさか……眼帯さんに取られた?」
激しい爆発音を耳にしながら、はだけた着物をそのままにして走り出す。あの鈴だけは、取り返さないと。
「きゃっ……」
「マヨイ様……」
廊下の先で黒布さんにぶつかった。黒布さんは私の姿を見て、声を震わせながら謝罪した。
「マヨイ様、申し訳ありません。まさか、こんな……」
彼の言葉を無視して、私は問いかける。
「黒布さん! 鈴を取られたの。眼帯さんはどこにいるの?」
「眼帯様は……いえ、その前に着物を整えましょう」
黒布さんは私に背を向けてしまった。私は急いで着物を整えると、黒布さんに声をかける。
「眼帯さんはどこ?」
「あまりにも危険です。早く避難しましょう」
「ダメです! 鈴を取り返さないといけないんです!」
黒布さんの両肩を掴んで、声を震わせながら頼み込む。彼はゆっくりと頷いた。
「分かりました。眼帯様の所へお連れしましょう。私が全力であなたを守ります」
彼は私に背を向けて走り出す。私はその後ろを着いて行った。
◇
廊下を走っていると、天井が崩れ落ちてきた。黒布さんが咄嗟に私を抱き上げて回避する。彼は私を抱き上げたまま、瓦礫の上を走った。
「許可なく触れてしまい、申し訳ありません。このまま、眼帯様の所へお連れします」
「大丈夫です。お願いします!」
私の言葉を聞くと、彼の口元が柔らかく緩んだ。黒布さんは、すごい速さで走り抜ける。その間にも、激しい戦闘の音が聞こえてきた。
やがて、鬼面さんと眼帯さんの姿が見えてくる。半壊している屋敷の庭で、二人は戦っていた。
「鬼面さん……」
鬼面さんが刀を振れば、その衝撃波で周囲の物が切れていく。メスを投げつけながら眼帯さんは距離を取っていた。
二人とも傷だらけだったが、鬼面さんの方はあまり怪我をしていない。
「鬼面さん、やっぱり強いんだ……」
「このままでは、鬼面様は負けてしまいますね」
私は黒布さんの言葉に耳を疑う。どう見ても、鬼面さんの方が傷は浅い。
「どういう事ですか?」
「眼帯様の特技は毒による幻覚です。鬼面様はお強いですが、そろそろ毒が回ってくるはずです。このまま戦い続ければ、眼帯様が勝利するでしょうね」
冷静に解説をしてくる黒布さんに、私は恐怖で固まってしまった。
「鬼面様……やはり毒が……」
黒布さんが悲痛な声を出す。彼の声で私は顔を上げる。そして、その光景に悲鳴が出そうになった。
鬼面さんが――
お面をずらして、血を吐き出した。
あの鬼面さんが刀を地面に突き刺して、膝をついている。いつだって強くて、弱った姿なんて見たことがなかったのに。
「鬼面さんっ!」
私は急いで鬼面さんに駆け寄る。彼の喉を血が伝っていった。
「おや、迷者。お前が愛しているのは、私のはずだろう?」
眼帯さんがいつの間にか、私の背後に立っていた。彼に後ろから抱き締められて、身動きが取れなくなってしまう。
「いやっ! 離して!」
「鬼面、迷者は私がもらうよ。私と彼女は情熱的に愛し合った仲だからね」
眼帯さんが私の胸元をはだけさせる。見せつけるように、キスの痕を指でなぞった。
「私に甘える彼女はとても愛らしかったよ。ああ、もうほとんど聞こえていないか」
鬼面さんは顔を俯かせて、荒く息を吐き出している。初めて見る鬼面さんの弱った姿に、私は動揺を隠しきれない。
眼帯さんは執拗に私の胸元を撫で回す。彼の腕の中から抜け出そうと、懸命にもがいていた。
そのとき――
眼帯さんが私を抱えて、横へ飛んだ。
直後、ノコギリが地面をえぐった。ノコギリを持った包帯さんが、冷たい目でこちらを見ている。
「そんな怪我でも、避けるんだね」
「久しぶりにしては、随分な挨拶じゃないか。私の可愛い弟子」
包帯さんはノコギリを突きつける。
「迷者ちゃんから離れてよ。ドブ野郎」
眼帯さんは、私を離してメスを構える。そして、楽しげに鼻歌を口ずさみ始めた。
「今度は右目をもらおうか」
「死ね、ドブ野郎」




