表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/27

第21話

最近、鬼面さんからのスキンシップが多い。今だって、彼に抱き締められながら本を読んでいる。膝の上に座らされて、髪に触られていた。正直、緊張しすぎて本の内容が頭に入らない。


あの告白された日から、明らかに鬼面さんの態度が変わった。髪を撫でていた手が首元に移動する。顎のラインを指先が滑っていく。


「んっ……」


感触を確かめるように、人差し指で唇をなぞられた。逃げようとした腰を、しっかりと片手で押さえられてしまう。恥ずかしいを通り越して、なんだか腹が立つ。私ばかり振り回されて、ドキドキさせられてズルい。


意趣返しのつもりで、私は鬼面さんの指を甘噛みした。彼の指を、唇で軽くついばむ。


「っ……」


背後で息を飲む音が聞こえてきた。勝利を確信した私は、振り返って鬼面さんに抱きつく。


「んふふ、びっくりしましたか?」


ピクリとも動かない鬼面さんに首を傾げる。少しやり過ぎてしまっただろうか。


「鬼面さん……?」


「ふぅ……」


彼はゆっくりと息を吐き出して、私をそっと抱き締めてくれた。本を抱えながら、鬼面さんに体を預ける。


不意に、鬼面さんの肩がピクリと跳ねた。


彼は私の体を押して、立ち上がる。すぐ側にあった刀を手に持って、障子を開けて廊下に出た。


「何だろう……」


何だか、とても嫌な予感がした。私は迷わず、鬼面さんの後を着いて行く。


廊下を歩いた先には、倒れた見知らぬ半妖さんと腕を振る彼岸さんがいた。


「彼岸さん!?」


「迷者、褒めてくれ。刺客を倒したぞ!」


二本の角が額から生えた半妖さんは白目を向いて倒れている。彼岸さんは誇らしげに私の方へ這いずってきた。


「どうやって倒したんですか?」


「それは秘密だ」


にこにこと笑う彼岸さんは、一瞬だけ怪しく瞳を光らせる。鬼面さんの方を見ると、彼は半妖さんの頭を掴んで引きずっていた。


「彼岸、迷者の傍で守れ」


「ふんっ、貴様に言われずとも守る」


鬼面さんはそう言って、角の生えた半妖さんを引きずりながら、どこかへ向かっていった。


「眼帯も必死だな。あの程度の雑魚を送り込んでくるとは滑稽だ」


「さっきの半妖さんは、私を狙っていたんですか?」


「そうだ。あのドブ医者め。俺の迷者を狙うとは許せぬ」


彼岸さんは私の足元で、暴言を吐き捨てる。私は一気に顔が青ざめていくのを感じた。思わず、首元を手で擦る。首筋を這う、眼帯さんの舌の感触を思い出してしまった。


そのとき、鈴の音が聞こえてきた。


懐かしい鈴の音。親友とお揃いで買った鈴の音だ。私は目を見開く。


リィン――


今度はハッキリと聞こえた。私は鈴の音の方へ無我夢中で走り出す。


「迷者っ!!」


彼岸さんに呼び止められたけれど、私の足は止まらない。ただ必死に走り続ける。涙を拭いながら、もつれる足を動かした。


玄関を開けた先に――


彼女はいた。


焦げ茶色の長い髪。澄んだ青色と灰色がかった白色のオッドアイ。高校の制服を着て、懐かしい微笑みを浮かべている。


「真理ちゃん……」


頬を一筋の涙が伝う。縋るように手を伸ばせば、彼女はくるりと背を向けて門の向こうへ行ってしまった。


「待って! 真理ちゃん!」


私は慌てて、彼女の背中を追いかける。頭の中は真っ白で、ただ真理ちゃんのことしか考えられない。だから、門を通り抜けてしまった。


「捕まえた」


眼帯さんの声が聞こえて、口を塞がれた。真理ちゃんは、目の前でドロリと黒い泥になっていく。


リィン――


お揃いの鈴の音を聞きながら、私は意識を失った。



初めて会った中学校の頃から、ずっと大好きなあの子。少し恥ずかしがり屋で、可愛らしくて優しい真理ちゃん。


「お揃いだね……」


照れくさそうに渡されたハートの形の鈴。私の大切な宝物。私の鈴は真理ちゃんの鈴よりも低い音を奏でる。


リィン――


この音を聞く度に、心が落ち着いていく。学校に行く時も、制服の胸ポケットに入れて持ち歩いていた。


「大好きだよ……」


頬を染めて笑う真理ちゃん。私も大好き。


「ずっと一緒にいようね」


約束と言いながら、お互いの小指を絡ませた。彼女は高校に入っても、違うクラスになっても、ずっとそばに居てくれた。


「〇〇ちゃん……」


私の名前を呼ぶ、真理ちゃんの綺麗な声。高めの女の子らしい声。懐かしくて、泣きそうだった。


私の名前……


あれ、私の本当の名前は……何だっけ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ