第一部 最終話 あの一秒を超えて行け
箱根駅伝復路の翌日。一月四日。
昼間未明。場所は東京駅。
「本当に、蒼太には
会っていかれないんですか?」
コーチの櫛部川が、
応援にきていた蒼太のおかんに
尋ねる。
「はい!
これだけ素晴らしい仲間に
恵まれているなら、
きっと大丈夫です。
私が出る幕はありませんよ。
あの子は、
きっと立ち直れます。」
おかんは明るく答えた。
それでも、
本心は会いたかったに違いない。
新幹線にのる直前、
おかんは、櫛部川コーチに
頭を下げながらお礼を言った。
「この度は、
ご連絡いただきありがとうございました。」
ジョーダイでは、
たとえ、選手の身内であっても、
誰が何区を走るのかという情報を、
チーム外の人間に教えてはいけないことに
なっている。
しかし、蒼太の家の事情を知る櫛部川は、
あの時、どうしても蒼太の母親にだけは
伝えなければいけないと思った。
この行為は、コーチとしては失格かもしれない。
しかし、母親の応援が蒼太の
底力を引き出したのは事実だ。
「蒼太よ、もう一度復活してくれ。」
櫛部川は、強くそう願っていた。
第一部 最終話 あの一秒を超えて行け
一月五日、箱根駅伝が終わって二日目の
早朝未明。
あたりはまだ暗い。
蒼太は誰よりも早く起きて、
ジョーダイ陸上競技場のトラックで
軽いジョグを行っていた。
「もっと速く、
いや、もっと強いランナーに。」
蒼太は新たな決意のもと、
再び走り出していた。
すると、トラックのアウトレーンから、
同期の石川涼介が現れ、
蒼太と並走を始めた。
「走るんやったら、俺らも誘いーや。」
さらに外側のレーンから
同じく同期の荻久保圭佑も顔をのぞかせる。
「そうそう、抜け駆けは水くさいよー。」
三人で笑いながら
ジョグをしていると、
三人の前に同じ出立をした
二つのシルエットが現れる。
やはり同期のレンとシュウだ。
「蒼太ー!モテモテだなー。」
「ま、俺らほどじゃないけどなー。」
と、茶化しにかかる。
石川が蒼太に話しかける。
「なんだかんだ言っとるけど、
みんな、お前の走りで
本気になったんや。
ホンマに、お前と一緒に
箱根駅伝を走りたいって。」
あの日、蒼太は、
あと一秒を超えることはできなかった。
しかし、
蒼太のあの日の頑張りは、周りに伝播し、
ジョーダイを変貌させたのた。
一人一人が悲しみも喜びも
全てを分かち合うことができる
最高のチームに!!
『あの一秒を超えて行け!』
この日、城西拓翼大学駅伝部の
新たなチームスローガンが誕生した!




