表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/50

27

 ♪


 君崎が部屋から去った後、俺はじっとしていられなくて、ホテルの外に繰り出した。身体を動かせば気がまぎれると思ったが、ランニングをするほどの気力は残っていなかった。だから目的地もなく歩いていく。そのうちに、閑静な公園を見つける。なんだか歩く気力もなくなったので、ブランコに座り込んで、一人ぼうっとする。

 すると、甲高い声が聞こえてきた。小学生の集団が公園にやってきたのだ。

「あ!」

 キッズたちは俺に気がついて、指を指す。

「あれ、あれ」

「うわ、テレビに出てる人じゃん!」

「うぉーすげー!」

 そうだよ、俺があの世界王者の高橋勝也だよ。

 だが、今はキッズの相手をする気分じゃない。俺は、早々にそこから立ち去ろうとした。だが、その前にキッズ共は駆け寄ってきて、あっという間に囲まれてしまう。

「握手してよ!」

「俺も俺も!」

「仕方ないな……」

 ファンサービスも、王者の勤めだ。

「明日学校で自慢しよーぜ」

 おうおう、すればいい。

 だが、その時だ。一人の少年が首を傾げたのだ。

「あれ、でも名前何ていうんだっけ」

 おいおい、それはいくらなんでも、世間知らずじゃないかい。

「俺も知らねーや」

「誰か知ってる?」

 その質問に、誰も答えなかった。

 だが、代わりに、


「あれだよ、白河のライバルだろ」


 白河は知ってて、俺は知らないんですか……確かに、白河はCM王で、イケメンだけど……。少年たちにとって、俺は、世界王者という唯一無二の存在ではなく、“白河のライバル”でしかなかったのだ。

 俺はその場を無言で後にした。少年たちが後ろから「頑張れよー」と無責任な言葉をぶつけてきた。

 彼らのデカい声が聞こえない程度に離れたところで、俺はスマホを取り出して、いつものようにユキに電話をかけようとした。でも、気がついた。

「そうだ、絶賛嫌われ中だった……」

 いつでも俺の味方でいてくれた天使なユキは、今一言も口を聞いてくれないのだ。

 いや、そもそも電話をしてどうしようというのだ。もう、かつてのように誇るべき高橋勝也はいない。

「俺って、スゴくなかったんだ」

 ずっと自分はスゴいって勘違いしていた。自分が圧倒的な一番だって。だからライバルなんていないと思ってた。自分が一番なのは当たり前。俺にとっての問題は、自分という最強の敵に勝てるのか、ただそれだけなのだと。

 でも現実は違う。俺は唯一無二の存在などではないのだ。

 いいとこ、白河の対抗馬。それが現実だった。

 これ以上冬空の下で寒風に当たる気力もなくなり、俺は最後の気力を振り絞って、ホテルに戻る。

 部屋に帰ってテレビをつけると、四大陸選手権のダイジェストが流れていた。上位を争う選手だけ放送されていて、ちょうど白河の姿が映し出されていた――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ