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君崎が部屋から去った後、俺はじっとしていられなくて、ホテルの外に繰り出した。身体を動かせば気がまぎれると思ったが、ランニングをするほどの気力は残っていなかった。だから目的地もなく歩いていく。そのうちに、閑静な公園を見つける。なんだか歩く気力もなくなったので、ブランコに座り込んで、一人ぼうっとする。
すると、甲高い声が聞こえてきた。小学生の集団が公園にやってきたのだ。
「あ!」
キッズたちは俺に気がついて、指を指す。
「あれ、あれ」
「うわ、テレビに出てる人じゃん!」
「うぉーすげー!」
そうだよ、俺があの世界王者の高橋勝也だよ。
だが、今はキッズの相手をする気分じゃない。俺は、早々にそこから立ち去ろうとした。だが、その前にキッズ共は駆け寄ってきて、あっという間に囲まれてしまう。
「握手してよ!」
「俺も俺も!」
「仕方ないな……」
ファンサービスも、王者の勤めだ。
「明日学校で自慢しよーぜ」
おうおう、すればいい。
だが、その時だ。一人の少年が首を傾げたのだ。
「あれ、でも名前何ていうんだっけ」
おいおい、それはいくらなんでも、世間知らずじゃないかい。
「俺も知らねーや」
「誰か知ってる?」
その質問に、誰も答えなかった。
だが、代わりに、
「あれだよ、白河のライバルだろ」
白河は知ってて、俺は知らないんですか……確かに、白河はCM王で、イケメンだけど……。少年たちにとって、俺は、世界王者という唯一無二の存在ではなく、“白河のライバル”でしかなかったのだ。
俺はその場を無言で後にした。少年たちが後ろから「頑張れよー」と無責任な言葉をぶつけてきた。
彼らのデカい声が聞こえない程度に離れたところで、俺はスマホを取り出して、いつものようにユキに電話をかけようとした。でも、気がついた。
「そうだ、絶賛嫌われ中だった……」
いつでも俺の味方でいてくれた天使なユキは、今一言も口を聞いてくれないのだ。
いや、そもそも電話をしてどうしようというのだ。もう、かつてのように誇るべき高橋勝也はいない。
「俺って、スゴくなかったんだ」
ずっと自分はスゴいって勘違いしていた。自分が圧倒的な一番だって。だからライバルなんていないと思ってた。自分が一番なのは当たり前。俺にとっての問題は、自分という最強の敵に勝てるのか、ただそれだけなのだと。
でも現実は違う。俺は唯一無二の存在などではないのだ。
いいとこ、白河の対抗馬。それが現実だった。
これ以上冬空の下で寒風に当たる気力もなくなり、俺は最後の気力を振り絞って、ホテルに戻る。
部屋に帰ってテレビをつけると、四大陸選手権のダイジェストが流れていた。上位を争う選手だけ放送されていて、ちょうど白河の姿が映し出されていた――




