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泡雪物語  作者: 稚児嬰児
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サミヅキの達観



サミヅキは帰路に就いていた。ハヅキも一緒で在る。

小川の畔の桜並木は、柔らかな春の午後により一層倦怠感を与える。

総てが舞い落ちる花弁の拍子に合わさっていく。


「高等学校になっても、余り代わり映えしないものだね」


ハヅキは云った。確かにその通りだ、と僕も云った。



そういえば鈴はどうしたのだっけ。そうだ、鞄の取手に付けたのだった。

鈴は、取手の傍で大人しくゆらゆら振れている。なのに、音は鳴らなかった。やはりサミヅキの聴き違いで、音は鳴らないのかもしれなかった。


サミヅキは指先で鈴にそっと触れてみた。


瞬間、しゃりん、しゃりりん、と鈴は大きな音で、咽び啼いた

サミヅキは驚いて、慌てて鈴から指を離した。鈴は啼きやんだ。

ハヅキに驚いたね、と声を掛けようとして、黙った。彼には何も訊こえていない様だった。


「彼処に何か見えないか?」


彼の指差す方向を見ると、確かに、何か在る。



満開の、桜の樹だ。柔らかな白だ。絶え間なく、ぼとり、ぼとりと花冠が剥がれ落ちて、地面には真っ白な櫻溜りと、人がゐた。


駆け寄って良く見ると、詰襟の学生服の、鳩尾から腹にかけて、無数の櫻の花が、零れ落ちるほどわあつと溢れ出してゐた。濡れ羽色の髪の毛と、華と、開ききった瞳孔とが、艶かしい美しさを造り出してゐる。花冠はひらひらと積もる。



向こうの橋に、あのメレンゲの頭がちらりと見えたような気がしたが、直ぐにわからなくなった。

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