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第八話

第八話


 俺とローザさんはギルドに向かうために、大雨の中、森の中を走っていた。

 本来なら魔法使いのローザさんではなく、剣使いの俺が先頭を行くべきなのだが、俺の移動速度ならどこから魔物に襲われようと対処できることもありローザさんが先頭で進むことになった。

 いやまぁ最初俺が先頭で進んでローザさんを置いてけぼりにしようとしたせいなんだけどね。

 ペースが速すぎると言われ、ローザさんに合わせて進むことになったんだ。


 そのお蔭で、素晴らしきかな桃源郷。

 雨で濡れることにより、ローザさんのローブは次第に体に張り付くような形になっていった。

 多少の雨なら弾くのだろうが、この土砂降りの中じゃ意味をなさないようだ。

 できるだけ木の下を通っているが、あまり意味をなしていない。

 俺は町に着くまでローザさんの後ろ姿を堪能しながら進んだ。


 「見えてきたね」


 木々の数が段々と減ってきて、次第に街並みが見えるようになってきた。

 暗くて良く分からないが、町の外装は木ではなく石のようなものが主なようだ。

 日本のように明らかに木で作ってますよ。と言う家はぱっと見見当たらない。


 「それじゃ、予定通りギルド本部に行くから着いてきて」


 俺は頷くことで答えた。

 街中に入ると、地面は長方形の石のブロックが敷き詰められ、それが町一面に広がっていることが分かる。

 日本のようにアスファルトではないようだ。

 ローザさんの後を追うようにして進むと、町の中心部だろうか、一際大きな建物が見える。

 どうやらここがギルド本部のようだ。


 「着いたよ。ここがこの町のギルド本部だ。……恐らくギルドマスターと話すことになるからそのつもりでね」


 やっぱりギルドマスターさんなんているんですね。

 ギルドマスターと言われて頭に浮かぶイメージはひげ面のおっさんだ。

 うまく対応できるだろうか。

 いや、ローザさんがちゃんと説明してくれれば誤解は解けるはずだ。

 

 俺はローザさんの後を追うようにしてギルド本部の中に入った。

 ギルドの中はどこかの酒屋のようにいくつものテーブルがあり、正面にはカウンター、内飾はほとんど木でできているようだ。

 足元の木のタイルの様なものに雨で濡れたこの体から、水の滴がぽたぽたと落ちていく。

 周りに視線を向けると銀、金、茶色、色んな髪の色をした奴がいるが黒髪はいないようだ。


 「先ほど増援を要求したローザ・クィンエルです。増援を取り消しをお願いします。後ギルドマスターに会うことはできませんか?」


 ローザさん、俺と話した時より言葉が丁寧になってるよ。

 同時に周りからの視線が強くなる。

 黒髪で黒服の男が強盗犯で、しかも女の子を襲ったなんて話がもう周りに伝わっているのかもしれないな、すごく騒がれています。


 「え? ローザ様ですか!? しょ……少々お待ちください!」


 ギルドの受付っぽいところで働いているこれまた青い服を着たお姉さんは、奥の部屋へと慌てるように入っていった。

 ギルドで働いている事務員さんは全員青い服で統一されているようだ。


 ギルドの事務員さん以外の周りのギルドに入ってる方々達は色んな色の装備している。

 全身真っ赤のやつが俺をちらちら見ながら話しているが大丈夫なのかあれ……。

 どう見ても俺より怪しいだろ。

 ゲームで良くいた装備品をすべて原色の色で染めつくす、原色厨という奴にそっくりだ。


 「あの……これをお使いください」

 「ありがとう」


 別のギルドの事務員さんが、びしょ濡れの俺とローザさんのために、タオルを4枚持ってきてくれた。

 さすがに濡れたままだと床がびしょびしょになってしまうしね。

 俺は会釈をすることでありがとうと伝えた。

 ここで話せば……めんどくさいことになること間違いない。

 華麗にスルーしてくれるかもしれないが。


 お互いに2枚ずつタオルを取り、タオルで全身をを拭きながら待っていると、奥の部屋に来るように言われた。

 いよいよギルドマスターさんとやらと対面のようだ。

 大きなの緊張と少しの安堵がある。

 これを乗り越えればようやく自由に動けるはずだ!


 大きな部屋に入ると、そこには茶色の皮でできた鎧を纏った不精髭の生えた渋いおっさんがいました。

 まんまじゃないか。


 「ローザ、良く戻って着てくれた。現場には俺が向かったんだが、戦闘痕だけあって誰もいなかったからな、色々と心配したぞ」

 「ご迷惑おかけしました」


 ギルドマスターさんはローザさんを呼び捨てにしている、まさかできてるのか!?

 いや、現実逃避している場合じゃない。

 おっさんの鋭い視線はローザさんではなく俺を捉えている。


 「とするとそこにいるのが例の男という訳か。ローザ説明してくれるか?」

 「はい、まずこの男ですが、ケンタウロスを力で圧倒したことは認めていますが、アーサム港で強盗を犯したことは否定しています」


 おお、ローザさんよく言ってくれた。

 このまま俺の誤解を完膚なきまでに叩きのめしてくれ!

 俺は何度も頷いてローザさんお言っていることを肯定した。


 「なるほどな……だとすると何故女の子を襲ったんだ?」

 「その前に、彼の……体質と言いますか。それに問題があるのでそちらを説明します」

 「体質?」

 「彼は口から出る言葉がすべて『ハハッワロス』になってしまうそうなんです」

 「なんだ……それは?」


 改めてローザさんに説明してもらっているが、『ハハッワロス』しか話せない人なんですとかいう説明恥ずかし過ぎる。

 しかもおっさんの目線がさらに鋭くなっている。

 信じられませんよね。俺も未だに信じられないです。


 「信じられないかもしれませんが、どうやら本当の様です。そのため、彼は女の子に対して地面に字を書くことで対話を図ろうとしました。しかし女の子に理解してもらえず、『魔石』を使おうとしてきたのでそれを取り上げ、再度説明しようとし、偶然に偶然が重なり押し倒してしまった。という事らしいです」

 「となるとやはり……あぁ続けてくれ」


 今思い返してみても女の子を押し倒すなんてすごい偶然だよな。

 俺はまだこの体に慣れていないためか咄嗟の状況になるとかなり力加減ができにくくなる。

 10あるうちの1か10のカしか使えないのはダメだ。


 「その現場を見た私は、彼が女の子を襲おうとしていると判断し、彼に魔法を放ちました。そして女の子と引き離し、その時またしても運悪く……彼が女の子を引き留めようとして服を破いてしまいました。」

 「運悪くか……」


 あの女の子は今どうしているだろうか。

 最初は自己防衛のためだったとはいえ、女の子からすれば本当に襲われたも同然だ。

 今頃親の元で泣いているのかもしれないな……。


 「そして私一人では彼に勝てるか分からないと判断し、増援を要求しました。が、結局私は簡単に無力化されてしまいました。その後洞窟で雨宿りしながら、地面に文字を書いて誤解だという事を説明され、誤解を解くためにここに来ました」

 「なるほどな……しかしローザはそれを信じたのか?この男が嘘をついている可能性もあるだろう?」

 「私自身慰み者にされると思いましたが、この通り手も出されませんでした。それにわざわざ犯罪者がギルドに行きたいと言うとは思えませんでした」


 ローザさんが手を広げて何もありませんでしたとアピールする。

 確かに犯罪者がその取締りをやっているところにわざわざ顔を出すとは考えにくいな。

 ちょっと位お触りしてもいいんじゃないかと思ったが、我慢してよかった。

 いや、あの時は気に掛ける余裕がなかったが、今思えば洞窟にお運びするときに色々と触ったりもしたな……。

 不可抗力だが。


 「ちなみに『魔石』は今あるのか?」


 念のために『アイテム』から取り出しておいてよかった。

 俺はポケットから『魔石』を取出し、鷹っぽいエンブレムのついてる机の上に置いた。


 「たしかに『魔石』だな」


 おっさんは机の上に置いた『魔石』を手に取り、手に持った『魔石』を色んな角度で見た後そう言った。

 これで誤解も解けたのだろうか……。


 「まぁ大体分かった。例の女の子からも話を聞いていくつか疑問点があったが、大体解消された。偶然と言うのが何とも言えんが、どうやらすべて誤解だったようだな」

 「ご理解感謝します」


 よかった……。

 誤解解けてよかった!

 俺はその場で何度も会釈し、感謝を伝えた。

 ローザさんもありがとう。

 ほんと……ローザさんが誤解を解くの手伝ってくれてよかった。

 A級冒険者がどの程度上の位置に値するのか分からないが、恐らく高ランクで、その人の発言という事もあり信憑性は高いと判断されたのだろう。


 「後で正確な報告書を出してくれ。強盗犯が誤解だという事も含めて対処しておこう」

 「ありがとうございます」


 ありがとうおっさん。

 さすがにギルドマスターと言うだけはあるな、頭が固くなくてよかった。

 これで当初の目的だった情報収取ができるな。


 「それで『ハハッワロス』と言う言葉についてだが、精霊の森にいたのはそれを治す方法を探していたのか?いや、そもそもそれはいつから始まったんだ?」

 「紙とペンを用意してもらえないでしょうか」

 「あぁ、そうだったな」


 おっさんは机の引き出しからメモ帳のようなものとペンを取出し、机の上に置いた。

 やばい、どう説明すればいいだろう。

 治す方法を探して各地を転々としていたと言うか?

 しかし俺のゲーム内の知識とこの世界は所々違う様なのできっとぼろが出てしまう。

 それにいつからか……実際はこの世界に来た昨日からなんだが、それを言うと治す方法を探していたというのに矛盾が出る。

 さすがに生まれた時から『ハハッワロス』なんて言ったらどんなことになるか予想がつかない。


 最近になって頭を強く打った拍子に、記憶が曖昧になった。しかも、口から出る言葉がすべて『ハハッワロス』になってしまったというのはどうだろう。

 そして今後は『ハハッワロス』を治すという事を目的として行動すると伝えるか?

 ……長時間考えると怪しまれてしまう。他にいい案があるかもしれないがそれで行こう。


 「(最近になって頭を強く打って、気が着いたらあの森にいて、『ハハッワロス』しか話せなくなっていたんです。)」

 「……どこで頭を打ったんだ?」

 「(頭を強く打ったせいか、記憶がかなり曖昧になっていて……)」

 「頭を強く打つことにより記憶障害や言語障害が出ることは聞いた事はあるが……」


 いい感じ?

 おっさんもローザさんも俺が紙に書いたことを見ながら何か考えている。

 ……。

 いや、ものすごく長い時間考えていらっしゃる。

 やばい、怪しまれているのか?


 「となると今後はその状態を治すために活動するのか?」

 「(そうしようと思っています。)」

 「記憶が曖昧とのことだがどこかに所属していたのか?」


 とりあえずセーフなのか?

 どこにも所属していないと答えるべきだな。

 下手に所属していたなんて言っても説明がめんどくさくなるだけだ。


 「(どこにも所属していなかったと思います。)」

 「……そうか。ならこの町のギルドに所属しないか?探す方法においてメリットもあるぞ」


 願ったりかなったりだがどうするべきか。

 そもそもギルドという事がどういうものか良く分からない。

 メリットもあればデメリットもあるはずだ。

 情報は確かに入りやすくなるかもしれないが、各地を回って情報収取に徹底したほうがいいかもしれない。

 とりあえず保留にしておこう。


 「(ギルドの事詳しくは知らないので、とりあえず保留という事で。)」

 「それなら後でうちのギルド職員に説明させようと思うが、どうする?」

 「(お願いします。)」


 これは運がいい。

 ローザさんに後で聞こうとも思ったが、教えてくれるのなら素直に教えを乞おう。


 「そういえば名前を聞いてなかったな。名前はなんて言うんだ?」

 「みりんと言うそうです」

 「…………そうか、いい名前だな」


 絶対そんなこと思ってないだろう。間違いなく調味料の味醂を頭に浮かべたはずだ。

 でないとその沈黙はありえない。

 憐れむような目はやめてくれ。


 「まぁいい。とりあえず『ハハッワロス』についてだがむやみやたらと言おうとするな。今回周りへの説明はみりんが喉に障害を持っていてうまく話せないという事にしておこうと思うが、それでいいか?」

 「私もそのようにした方がいいと思いますが……」


 おっさんとローザさんが俺に問いかけるように視線を送ってくる。

 さすがに『ハハッワロス』しか話せないなんて説明を大多数の人間にしてもほとんど信じてくれないだろう。しかし全く話せないという事にしてしまうと咄嗟に『ハハッワロス』と言ってしまったときの対処がややこしくなる恐れがある。

 おっさんの言うとおりうまく話せないという事にしておいたがよさそうだ。


 「(それでお願いします。)」

 「わかった。今日は終わりにするか。二人ともびしょ濡れの中きついだろ?今日は宿屋にでも泊まって明日また来てくれ」

 「分かりました」


 これで一休みできるな。

 たった一日野宿しただけでふかふかのベッドが恋しく思える。

 いやまて、宿屋ってどこにあるんだ。


 「(宿屋ってどこにあるんですか?)」

 「私が泊まっているから一緒に行こう」


 ローザさんと一緒の宿屋か。

 なんでか分からないけど何か嬉しい。


 「あぁ、後襲われたと勘違いしている女の子だが、こちらから説明をしておく。後日会ってやってくれ。お互いのためにもなる。ローザも一緒に着いて行ってやってくれ、お礼をしたいそうだ」

 「分かりました」


 あの女の子か、確かに会っておいたがお互いのためになりそうだ。

 誤解の解けた状態なら俺との会話にも応じてくれるだろう。


 その後俺とローザさんとおっさんは部屋を出て、ギルドの受付にやって来た。

 そしておっさんはテーブルに座っている冒険者の方々にも聞こえるくらい大きめの声で、ギルドの事務員さんに俺の事を紹介してくれた。

 誤解が解けたと言っても未だに誤解し続けてる人にとっては俺は犯罪者になりえるしな。

 こういう対処は嬉しい。


 そしてギルド本部を出て再びローザさんの後を追うようにして宿屋へ向かった。

 なんというか高級ホテルみたいだな……。いや、泊まったことないけどさ。

 さすがにエレベーターなどは見当たらないが、内装からすると和風と洋風のまじりあった宿と言うべきか。


 「お帰りなさいませ、ローザ様」

 「店主、部屋はもう1つ空いている?」

 「ええと……206号室、ローザ様の部屋の前ならちょうど空いておりますね」


 ローザさんが俺の代わりに店主と交渉してくれている。

 今思えば俺はお金を一切取り出していなかった。ばれないようにお金を取り出そう。

 しかし一体いくら取り出せばいいんだ。

 5000G位取り出しておけば足りるだろうか。

 『アイテム』をイメージし、アイテム欄の右下の186580Gと開かれているところを指で押した。すると『いくら取り出しますか?   0G』とでた。

 待て、俺はこの世界のお金の価値が分かっていないじゃないか。取り出したところで不自然にお金が溢れ出たら言い訳しようがない。

 そもそもどのお金の単位でお金が出てくるのかが分からない。

 仮に5000円と入力して1円玉が5000枚溢れてきたらどうするよ。マジックで食っていけるぞ。

 やばいどうしよう。無一文という事でローザさんにお金を借りるか?

 『アイテム』が扱えることは誰にも知られない方がいいはずだ。


 「そうだね。とりあえず1週間分払っておこう」

 「4900Gになります」


 え?

 そう言ってローザさんは俺の代わりに金色の硬貨4枚と銀色の硬貨9枚を払った。

 俺がローザさんをぽかんと見ていると


 「君には迷惑かけたからね。せめてものお詫びだよ」


 ローザさんまじ女神。

 俺が何度も会釈して感謝を伝えると、ローザさんが少し笑ったような気がした。

 そして食事の時間や部屋を使う際の注意点などを聞き、206号室の部屋の鍵を受け取った。

 食事は6~8時、11~13時、18~20時に奥の食堂で食べれるとのこと。さらに部屋にある物は自由に使っていいらしい。

 俺がうまく話せないことはローザさんが店主に説明してくれたので、今後のコミュニケーションはとりやすそうだ。


 その後ローザさんと一緒に部屋の前までやって来た。

 さっき一瞬違和感を感じたような気がするがなんだったのだろうか。


 「……みりん君。今日はほんとに迷惑かけたね。改めてすまなかった」


 部屋の前に着くと同時にローザさんが謝ってきた。

 俺は上司に謝ることには慣れているが、謝られることには慣れていない。

 俺は全然気にしてませんと言うつもりで首を横に振った。


 「ありがとう。あんまり引き留めても悪いからね。今日の所はお互いに部屋で休もう」


 俺は肯定するように頷いた。

 その後ローザさんと分かれ、俺は部屋の中に入った。

 とりあえず部屋の中にあるものを確認すると、トイレ、お風呂、ベッド、タンス、変な機械、大きな鏡があった。

 やっぱりトイレとかあるよね……排泄を全くしなくていい俺は人間じゃないのだろうか。

 いや、そんなこと気にしても分からないのだが、俺が人間として生きているうちは人間だろう。

 便利機能と思いたい。


 変な機械みたいなのが気になるが、ベッドを目にすると一気に疲れが溢れてきた。

 俺は服を全て脱ぎ、タンスの中にあったハンガーに服を掛け、タンスを開きっぱなしで乾かすことにした。

 そしてすっぽんぽんになった俺は思考を放棄し、ベットの上にダイブした。

 肌に触れる布団のふわふわ感と柔らかさは気持ちいい。

 そして俺はそのまま眠りについた。








 みりん君と別れた私は、部屋の中で着替え、ハンガーに装備をかけ、乾燥機の中に入れた。

 この乾燥機は貯めこんだマナによって擬似的に熱を起こし、中の物を乾燥させるものだ。

 使う際にはマナを乾燥機に込めなければならないため、マナをかなり消耗している私にとってはちょっとだるく感じる。


 しかしメンドクサイことになった。

 未だに彼は信用できないが、女の子を襲ったという事と強盗犯に関しては完全に此方の勘違いだったとみてよさそうだ。

 『ハハッワロス』という事と言い、記憶が曖昧という事と言い、彼は謎だらけだ。

 どこからどこまで信用していいのか、あの顔から読み取ることは難しい。

 でも


 ―――俺の味方になってください。


 彼の書いた言葉が思い出される。

 この言葉とその時の彼の顔が何度も頭の中にちらつく。

 そもそも私が精霊の森に行くのがもう少し遅かったら、あの女の子にも文字を書いて説明できていたのかもしれない。そうすればあっさりと勘違いも解けてしまったのかもしれない。

 終わった事に対して何を言っても意味はないけど、罪悪感を感じてしまう。


 「だあああ!」


 私は思考を切り替えるためにベッドにダイブした。

 このままいつも通り寝て、本を読んで、寝ての生活に戻りたいけどまだしばらくはできなさそうだ。

 周りの迷惑にならないように枕を口に押し当て、頭のむかむかを吹き飛ばすために、思いっきり大きな声を出した。

 そしてすこしすっきりした私は起き上がり、服を着て再びギルド本部へ向かうことにした。


 あのギルドマスター、とんだタヌキだ。

 ギルドから出て行く際、私の短剣をちらっと見せ、彼を宿に案内した後、再び来るようにほのめかしてきた。

 あの髭燃やし尽くしてやろうか。

 私も彼の言ったことにいくつか疑問点がある。

 意見交換のために呼び出したのだろうか。

 とにかく行ってみるしかない。

 私は店主に一言入れ、宿屋を出てギルド本部へと向かった。

 

 ギルド本部へ向かうと、すぐさま先ほどの部屋へと直行となった。


 「よく来てくれたな。クィンエルの銘、ローザの短剣だ」


 部屋に入るとすぐにギルドマスターは私に短剣を返してきた。

 私は受け取った短剣を鞘に入れ、腰のベルトフォルダーに差した。

 ここからが本題だろう。いったい何を聞いてくるのか。


 「それで、何のためにこんなことをやったのですか?」


 私は若干怒りを込めながら言い放った。

 自分の短剣を人質のように扱われれば誰でもいい思いはしないだろう。


 「それに関してはすまなかったな。少々聞いておきたいこととお願いがあってな」

 「一体どんな?」


 聞いておきたいこととは私の疑問点と同じことかもしれない。

 しかしお願いと言うのは……いざとなれば命令を出すことだって可能なはずだ。


 「まぁ今回の件と強盗の件はこちらの勘違いという事で間違いないだろう。しかしだ。『ハハッワロス』としか言えないことについてどう思った?そんなことがあり得るのか?」

 「はっきり言うと彼が嘘をついていると思いました。しかし、彼が咄嗟に言っていることも『ハハッワロス』になっているように思えました。咄嗟に出る言葉までわざと『ハハッワロス』と言う事ができるとは思えません」


 彼は私との戦闘中に2回、『ハハッワロス』と言った。それも『フレイムドラゴン』を突破した際と『フレイムランス』の片割れを左手一本で打ち消した際だ。

 あのタイミングでなら咄嗟に何か言葉が出てしまうのも頷ける。いくら彼が強いと言っても、あの攻撃を受けて呻き声の一つも上げなかったとは考えたくもない。

 仮にあの攻撃が彼にとって何の意味もない攻撃だとしたら、咄嗟にではなく自ら思考してわざと『ハハッワロス』と言っていることも考えられるけど……。

 さすがにそれはないと思う。


 「では考えられるのは……」

 「本当に彼が言っていることが本当か、人間の皮をかぶった魔物なのか、それとも魔族の生まれ変わりなのか、でしょうか?」

 「そうなるな。できればあいつの言っていることが本当だと信じたいがな。俺は黒髪のやつらとも何度もPTを組んだこともあるからな、黒髪だからと言って魔族の生まれ変わりと言うのはまずないと思うが」

 「それは私も同意です。周りの人がどう見るかはわかりませんが」


 私は頭に浮かんだ意見を言った。

 魔族の生まれ変わりと言うのは、結局のところ突然変異の様なもので産まれるときは生まれるし、産まれないときは生まれないのだと思う。

 現に過去の文献を見ると、魔族との戦争が始まる前はそのような事は言われていなかった。

 要するに身近に憎しみの対象がほしかったということだろう。

 多くの人の命が奪われ、奪い返した。しかし中には復讐がしたくても相手がいなかったり、自分の力じゃ歯が立たない相手もいた。その憎しみの矛先が向かったのが、魔族と同じ髪の色をした黒髪の人間と言う訳だろう。


 「そうか。となると人間の皮をかぶった魔物か……。そうするとあいつの戦闘能力もある程度理解はできるし、同じ言葉しか話さないと言うのも分かる。これと同じようなことかもしれん」

 「確かにそうも考えられますが、彼の書いた字を見てどう思いますか?」

 「それだな……。幼少期から文字を書く教育を受けていたとしか思えん。一朝一夕で身に着くものでもないし、大人でもここまで綺麗な字を書ける奴は少ない」


 確かに似たような言葉しか話さないという所は低能な魔物には良くあることだ。

 実際は色んな言葉を話しているのだろうが、その聞き訳は同族にしかできないだろう。

 そして彼の書いた文字、はっきり言って綺麗すぎる。

 文字と文字の空間のとり方、文字の大きさ、漢字の使用回数。すべてにおいてここのギルド職員と言われても何ら違和感はない。

 紙と言うものは安いもので1枚10G、高いものになると1枚100Gする。

 とてもじゃないけど裕福な家庭じゃない限り、文字の書き取りを教えるのに紙を使ってやるところはないだろう。


 「てっとり早く確かめる方法はあいつを殺す事だ」


 人間や動物、魔族なら死んでも遺体が残るが、魔物は死ぬと何かしらアイテムを落として消えていく。

 だから彼が魔物なら死んだあと消えていくだろう。


 「本気……ですか?」

 「いや、冗談だ。真っ向手段であいつを殺せるとは思えないしな」


 私は一瞬安心してしまった。

 やっぱり彼に対する罪悪感が残っているのだろうか。


 「まぁ結論が出ない事は分かっていた。あいつの言ってることが本当ならそれで良し。人間の皮をかぶった魔物でも敵対しないのなら俺は良いと思っている」

 「……大胆ですね」


 ほんと……とんだタヌキだった。

 結局のところ彼を冒険者として欲しいという事だろう。

 ここ数年段々と山から魔物が襲来する回数が増えているらしい。彼ほどの戦闘力を持っているのなら欲しがるのも分からないことではない。


 「そこでだ。ローザにお願いがある。あいつが冒険者になりたいと思うように思考を誘導してやってほしい」

 「なんと?」


 私に彼が冒険者になる様に思考を誘導しろだって?

 そんなものはギルド職員に任せればいいじゃないか。


 「ギルド職員に任せればいいのでは?」

 「それじゃ駄目だ。更にローザにはあいつとPTを組んでもらいたい。Cランクに上がるまではPTを組むことが必須だからな」

 「何となく言いたい事は分かりますが……」


 ある理由からD~Fの間は各ランクごとにPTを数回組んで依頼を受ける必要がある。ランクアップしたくないのならPTを組む必要はないけど、ランクが上がらないと受けれない仕事がたくさん有る事もあり、多くの人が上のランクを目指している。

 私に彼とPTを組むことをお願いしてくると言うのは


 「彼の現状を理解しているのが私とギルドマスターだけということですか?」

 「理解が速くて助かる。そうだ。俺とローザのみがあいつの状態を知っている。が、あいつの状態を広めることはあいつにとって得策じゃない」

 「確かにそうですが……」


 彼は色々本当の事を言っていない気がするけど、私は彼がむやみやたらと敵対しない存在だとは思っている。

 だけど黒髪にまつわる嫌な噂を信じている人にとっては彼は憎しみの格好の的になってしまう恐れがある。

 

 「もちろん無料と言うわけじゃない。長期契約として報酬も払うし、この町のギルドマスターがローザに借りを作ったと考えてもらっていい」


 そこまで彼がほしいのかこのギルドマスターは。

 確かに低ランク任務をこなすだけでその報酬とは別に報酬がでるというのはかなり楽な仕事でもある気がする。

 それにギルドマスターに貸しを作るというのはかなりいい話だ。何かあって助けが必要な祭や此方が不祥事を起こした際に手助けしてくれるという事だ。

 しかしお金には全く困っていない。

 依頼を受けなくとも以前のように本を読んでは寝る生活に戻るだけのお金は余裕である。 

 どうする?

 彼自身の戦闘力を考えれば戦闘系の依頼に関しては問題ないだろう。

 しかし低ランクの依頼は悪く言うと雑用のような仕事の方が多い……どうする。


 「更に考えているとこ悪いが、定期的にあいつに関して報告してきてほしい」

 「……一緒に行動して彼を探れという事ですか?」

 「そうだ。記憶が曖昧とかどこからどこまで本音か分からんしな。ないとは思うが、あいつが人に害成す存在だった場合どんな手を使ってでも殺すしかない」


 私に彼をスパイしろということなのか。

 しかもどんな手を使ってもという事は、もしその時私がある程度親しくなっていたら毒でももって私に殺させるという事なのか!?

 確かに彼は本当の事を言ってはいないと思うが、誰にだって本当のことを言いたくない事はあるだろう。

 いやまて、この思考は私が彼の言ってることを信じているという事なのか?

 それにギルドマスターとしては正解なのかもしれないけど、私は……


 「まぁ深く考えるな。もう一度言うとローザにしてほしい事はあいつが冒険者になるよう思考を誘導する事、Cランクに上がるまであいつとPTを組む事、その間の出来事を定期的に報告する事の3つだ。受けるか受けないか、どっちだ?」


 ―――俺の味方になってください。


 どうして彼の書いた言葉ばかり頭にちらつく!?

 私にどうしろって言うんだ。

 この依頼を断っていつも通り本を読む生活に戻ればいいじゃないか。

 お金のために依頼を受ける必要なんてないじゃないか。

 彼には迷惑かけたけど、これを機に綺麗さっぱり忘れたらいいじゃないか。


 「ローザ、誰も理解者がいない状況で治す方法を探すのはつらい思わないか?」


 ―――誰も味方がいないんです。


 どうして彼の言葉がちらつくんだ!

 会って一日も経ってないだろう!?

 どうして!


 「最後にもう一度聞くぞ。無言は拒否と受け取る。依頼を受けるか受けないか、どっちだ?」


 くそ……。


 「受けるよ……」

 

今回も読んで下さってありがとうございます。


誤字脱字、変な表現。毎回気を付けてはいるのですが毎回ありますね。

申し訳ないです。


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