第九話
第九話
俺は誰かが部屋の戸をノックする音で目が覚めた。
「みりん君、……もう寝てしまったかな?」
ローザさんが俺の部屋に来ただと……これはもしかしてもしかするのか?
いや、過度な期待をすると裏切られるのが世の常だ。
心を穏やかにして慎重に事を進めよう。
俺は半乾き状態の装備一式を身に纏い、急いで部屋の戸を開けた。
「こんばんは、みりん君。起こしてしまったのならすまない。ちょっといいかな?」
ローザさんにあまり元気が感じられないが、断る理由もない俺は頷くことで肯定した。
「まずこれを受け取ってくれ」
ローザさんはそう言うと、大きめのメモ帳と黒いペンを俺に渡してきた。
これって俺が明日にでも仕入れなきゃいけないと思っていたものじゃないか!
「これがないと今後不便だと思ってね。ちょっと買って来たんだ」
ローザさん気が利く女ですね。
俺は今ものすごく嬉しいです。
と言うか女の子にプレゼントなんてもらったの何年振りだろうか、彼女に振られた後は会社の同僚が義理チョコくれただけのような気がする……。
俺は早速もらったメモ帳とペンを使って感謝の意を表した。
「(ありがとう!)」
「……どういたしまして」
無理やり笑みを作る様にして笑うローザさん。やはりいまいちローザさんに元気が感じられない。
もしかしてお金が意外とピンチなんだろうか……。
俺への罪悪感のために宿屋代として4900Gを支払い、いくらするのか分からないがメモ帳と黒いペンを買ってきてくれた。
自分の生活を犠牲にしてまで俺に贖罪しようとしているのかもしれない。
もしくは単に疲れているだけか……。
いや、疲れているだけにしてはなかなか俺と顔を合わせようとしないと言うのがおかしい。
やはりお金がピンチなのか?
「(何かあったの?)」
「いや……ね。ただみりん君は冒険者になるのかなと思って」
これはどう答えればいいんだ。
ローザさんが俺が冒険者になることを望んでるともいえるし望んでいないとも受け取れる返答だ。
ここは一か八かだがローザさんはどうしてほしいのか聞いてみよう。
「(ローザさんはどうして欲しい?)」
「……っ、あぁそうだね。みりん君が冒険者になってくれたら心強いかな」
これは期待されているのか……!こんな可愛い子に期待されるのならなってもいいかもしれない。
まぁ確かに今後この世界で生きていくことを考えると、ちゃんとした職業についておいた方が良いはずだ。その場に縛られるかどうかを考慮しなければ。
どう答える?
そもそもこの場に縛られると決まったわけじゃない。ここで地盤を築いて情報を仕入れ、その後可能性のある方法を試すというのもいいかもしれない。
「(良かったらローザさんが冒険者になった理由教えてもらえませんか?)」
「私の……? 私は元々この国の魔法学院の生徒だったんだ。そこの生徒になったのは生まれながらにして魔法スキルの才能があったからなんだけど、そこで多くの本を読んでいたせいか本好きになってね。でも魔法学院内の本を読むためにはどうしても研究して位を上げることが必要になってくる」
魔法学院と言うのは俺が当初行く予定を立てていた場所だ。しかし、そこで大事な本を読むためには研究をしなきゃいけないという事か。
うん、無理だ。
本読みたいから入れてくれと言って無絶対無理だろうし、入学したいから入れてくれと言って入れてくれるものでもないだろう。それに『ハハッワロス』すぎて研究どころじゃない。しかしこの流れから行くとギルドに入ればその条件を無視できるという事なのか?
それにこの国のってどの国だ。
『Life』の舞台となったのはクリム王国だったはずだが、あくまでそれはゲームの中であってそれが現実となると他の国もあってしかるべきか。
さらに生まれながらにして魔法スキルの才能があったという事はやはりゲームの中と大きく違う。
ゲーム内でプレイヤーがスキルを覚える方法は3つ。
特定の行動を『スキル』なしで行う事と特定スキルのレベルをある程度上げる事、特定NPCに師事し、クエストを貰い、そのクエストを完了する事で覚えることができた。
『スキル』は遺伝すると言う事なのか……?
「だけど私は研究自体は好きじゃなくてね。他に本の閲覧条件を上げる方法としてギルドに所属して冒険者ランクを上げると言うのがあったからね。私はそれを選び、本の閲覧条件を上げる為だけに軽い気持ちで冒険者になったんだ」
本の閲覧条件を上げる。
それはつまり高ランクの冒険者になれば本から情報を仕入れることができるという事か。
これはいいかもしれない。
他に何かいい方法が浮かぶものでもないし、もし冒険者になれば、この世界で俺の状態を知ってくれているローザさんが力になってくれる可能性もある。
しかし軽い気持ちでって……戦闘にそれだけ自信があったという事なのか。
「……まぁこんなところだね」
「(ありがとうございます。ローザさんは本が好きなんですね。)」
「うん。本は読むだけで楽しいからね」
ローザさんはようやくここで少し楽しそうに笑った。
本当に本が好きなんだな……。
さすがに今は怪しまれるが、いずれ俺の持っている『スキル本』をあげてもいいかもしれない。『スキル本』は1冊に付き一度しか使えないが、特定スキルのキャップ解放に必要な本だ。
だから『スキル本』は常にプレイヤーから需要があり、中には『スキル本』集めPTを作り、『スキル本』をドロップする敵を狩り続けるというものもあった。
そんな中俺はソロで狩り続け、収入源として『スキル本』を結構集めていた。
まだ相場が値上がるかもしれないと思って売らずにとっておいた奴が何冊もある。
「みりん君がもし冒険者になるというのなら、本の閲覧上限を上げるというメリットは大きいものだと思う。それに冒険者になれば……私も何かと力を貸せる事が多いはずだ」
ローザさんは俺が冒険者になることを歓迎しているようだ。
美少女がそばにいて協力してくれるというものはそそられるものがある。それに俺には何のコネもない。協力してくれる可能性のある人を無為に扱うような事はしないほうがいい。
それにローザさんと仲良くしておけばローザさんも色々と調べてくれるかもしれない。
明日ギルドの事務員さんから聞くかもしれないが、冒険者になっても自由に動けるのかという事だけ聞いておくか。
「(前向きに考えておきます。後質問なんですが、冒険者になっても世界を回ることは可能なんですか?)」
「ギルドカードと言うのはそれだけで身分証明書になる。だからそれがあれば冒険者を受け入れている国には簡単に入国できるはずだよ。後冒険者には2種類あってね。一つは自衛団と言って一つの町に留まり、名前の通り町の警護などを担当する人がいる。もう一つは依頼をこなすために世界を……とまではいかないけど国中を回ったりする人がいる、こちらの方を冒険者と呼ぶことが多い。」
「(なるほど。)」
ギルドカードはつまりパスポートの様なものか。身分を証明するものが何一つない俺にとってはかなり必要なものだな。簡単に冒険者になれるのならなって手に入れておいた方がよさそうだ。
そして俺がなるとすれば自衛団ではなく冒険者の方だな。
自衛団と言うのは恐らく地元民ばかりでよそ者は入りにくいだろうし、俺の目的からすると一か所に留まっていては解決しないかもしれないからな。
治った後なら考えてもいいかもしれないが……。
「(ローザさんは冒険者に該当するんですか?)」
「そうなるね。ただ何となく居心地がよくて4カ月くらいこの場に滞在しているんだけどね」
やはりローザさんも冒険者に分類されるわけか。
明日、ギルドの事務員さんに詳しい話を聞いてよほど俺にとってデメリットがなければなった方がよさそうだな。
「もしみりん君が冒険者となるなら、下積みのために半年ほどはこの町で活動した方がいいんじゃないかと思う」
半年か……確かにすぐさま『ハハッワロス』の治し方を探すというのは無理があるし、何よりこの世界の世界観を知らないとまた変な誤解を生んでしまう恐れがある。ひとまずこの町に滞在してこの世界に慣れた方がよさそうだな。
「(結論を出すのはギルドの事務員さんに説明を聞いた後になると思いますけど、今の話を聞く限り俺は冒険者になろうと思います。)」
「そうか……。私は歓迎するよ」
「(ありがとうございます。)」
「それじゃ、私は部屋に戻るよ。みりん君、また明日」
「(ありがとうございました!)」
こうして俺とローザさんは分かれ、互いの部屋の中へと入って行った。
うん……冒険者になろうかね。
メリットとして身分証明書ゲット、閲覧可能な本が増えていく、ローザさんが協力してくれそう、お金稼ぎ、比較的安全にこの世界の世界観を知ることができる。といったところか。
……もう悩まずに冒険者になった方がいい気がするな。
そして俺は再び服を全て脱ぎ、タンスの中にあったハンガーに服を掛け、タンスを開きっぱなしで乾かすことにした。
服買わなきゃな……。
今思えばこの服、ウッドボアの『突進』受け止めたり、炎の龍の中突っ切ったり、炎の矢を左手で打ち払ったりしたけど、傷一つついてないな。
どういうことだ……? ゲームの中には装備に耐久度なんてシステムはなかった。だから常に新品状態という事なのか? しかしそうするとあの女の子の服を破いてしまったという事はおかしい。
……まさか俺が装備している物だけ耐久度がないなんてことは……有り得そうだな。
この世界は謎だらけだ。
ん……また何か違和感を感じたような。
もしかして……。
俺は検証のためにヴォータルスーツを触ってみる……が、何も起きない。ヴォータルスーツはアイテムとイメージして再び触ってみる。
すると『ヴォータルスーツを収納しますか? はい/いいえ』というウィンドウが出た。
やはりそうだ。
違和感の正体はこれか!
洞窟の中に運ぶまでローザさんを運ぶためにローブを触っていたが何も起きなかった。ギルド本部で紙とペンを触った時も何も起きなかった。この宿屋に来て鍵を受け取った時も何も起きなかった!
試に『鍵』とイメージして『鍵』を触ってみると『206号室の鍵を収納しますか? はい/いいえ』というウィンドウが出た。
やはりこれは間違いない。
俺が『アイテム』だと意識することで『アイテム』として収納できるという事だ。
『魔石』もそうだ。俺は始めからあれをアイテムだと思い込んでいた。その結果収納してしまった。
便利だが、これは気を付けないといけないな。
常時全ての物をアイテムから切り離して考えて、どうしても収納が必要な場合だけ一人の時に収納しよう。
しかし窓の外を見る限りもう暗い。雨も未だに降り続いており、いつ止むのか不明だ。
明かりのついている家がまだ多いことからそこまで遅い時間ではないと思うが、明日寝過ごすなんて事態は避けたい。
部屋の中の確認もしておきたいが素直に寝ておこう。
俺は再びベッドにダイブし、寝ることにした。
翌朝、俺はローザさんのノックの音で再び目が覚め、共に食事をし、一緒にギルド本部へ向かうことになった。朝食はパンとスープとタマゴサラダみたいなのだった。洋風の様な朝食だ。
そこで宿屋の受付にカレンダーがかかっていることに気付いた。
ゲーム内でも宿屋に『カレンダー』がかかっており、その『カレンダー』は現実世界のカレンダーと時間がリンクしていた。
ゲーム内の『カレンダー』ではメンテナンス時間や、イベントの期限を公式HPを開くことなく見ることができた。
この宿屋にかかっているカレンダーを見ると時間が全く一緒だ。1週間は7日、12カ月で1年、1年は365日。歩んできた文化が違うはずなのに日本にあった普通のカレンダーと変わらない……。
この世界があって『Life』があるのか、『Life』があってこの世界があるのか良く分からない世界だ。
外に出ると今日もまだ雨が降り続いており、止む気配はない。
宿屋に置いてある傘を借りてギルド本部へと向かった。
ギルド本部に着くと、今までに雑誌の中でしかお目にかかった事のない爆乳と言うべきか、Fランククラスの武器を備えた銀髪のお姉さんが出迎えてくれた。
そこで俺はお姉さんから説明を聞くことになり、ローザさんはギルドマスターに呼ばれて奥の部屋へと入って行った。
「わたしの名前はレインって言うんだ。説明を始めるから好きに呼んでおくれ」
俺は頷くことで返答した。なんだか姉御とか呼ばれてそうだな。
その後しばらくレイン姉さんの説明を聞いた。
まず聞いたことは事はギルドができた理由だ。
特にギルドができた理由から推測すると俺は過去の『Life』の世界に来ている可能性が高い。
まずこの国の名前は『Life』の舞台となったクリム王国と同じ名前のようだ。
P.I780年、今から180年前に人間と魔族との戦争があり、人間側が大きな被害を出しながらも勝利した。
騎士団のある城は甚大な被害を受けることはなかったが、小さな町や村はそうもいかず、中には壊滅した所もあったそうだ。
そこで国同士が結託し、再び魔族との戦争になった時に備えて町ごとにギルドを設置し、戦力の強化を図ったのがきっかけらしい。
そして22年前、再び魔族との戦争がはじまり、20年前に戦争は終わった。今度はギルドと言う自衛手段を持ち合わせていたため、被害は出たが、壊滅するような事態にはならず、比較的小さな被害で勝利したらしい。
『Life』には種族間PKと言うものがあり、これをONにしている者同士だとと、いつでも人間は魔族に攻撃ができ、魔族は人間に攻撃ができた。
この常時人間VS魔族なんていうシステムはあったが、妖精は中立で種族間PKに参加できなかった。
しかしこの種族間PKシステムを考慮すると、過去に来ているのか……? 過去戦争があったという設定があったからこそ、そのなごりとして種族間PKというシステムが成り立った可能性は十分ある。
それに妖精は今までめったに姿を現す事はなかったらしい。つまり今までは妖精が街中を徘徊するなんてことはなかったということだ。
俺がプレイしていた『Life』では、プレイヤー、つまり人間と魔族と妖精がともに街中を歩いていた。だから『Life』は和平を結んだ未来の世界だとも考えられる。
それにプレイヤー同士でギルドを作ることができたが、180年より前はギルド自体が存在していなかったんだ。
今あるギルドと言うシステムが次第に変化してプレイヤー同士でギルドが作成できるようになったとも考えられる。
うん……過去に来ている可能性が高いな。それか『Life』の世界によく似た別世界かだ。もしくはその両方か。
もっとゲーム内の設定に目を向けていれば分かったのかもしれないが、別段ゲーム内の設定にそこまで興味がなかったからな……。
「次にギルドシステムについて説明するよ」
続いてギルドシステムの説明だ。
要約するとランクはS.A.B.C.D.E.Fの7段階あり、D~Fの間はPTを組んで依頼を受けることが必須らしい。これは魔族との戦争が始まった時、PTを組んだことがなくて右往左往する人間を出すことを可能な限り減らすためらしい。
依頼は横の掲示板に貼っている依頼用紙を取って受付に持ってくることで依頼を受けれるようだ。
俺ランク上げられないんじゃないか……?
後レイン姉さんの話によると、メリットは俺が予測していた通りだ。
ギルド本部の地下には大量の本が貯蔵されており、そこからランクごとに決められた本を借りることもでき、魔法学院でも同様に借りることができるらしい。
聞いた話の中でデメリットとなりうるものは、緊急依頼だ。
緊急依頼は絶対に受けなければならず、拒否すると場合によってはランクダウン、罰金などが発生するらしい。
結論として、やはりギルドに入ったがよさそうだ。
後はPTをどうするかだな……。
ローザさんが手伝ってくれたりしないかな、しかしローザさんはAランク、Fランクから始まる俺とPTを組んでくれるのか?
「ざっとこんなところさね」
レイン姉さんはふぅ……息を吐きながら答えた。
「そのさ……お願いがあるんだけどさ、あんたはこの後アリサに会うことになってる。だけどアリサを許してやってほしいんだ! アリサがああも勘違いしてしまったのには私にも責任があるし、私自身あんたを危険人物だと思っていた。だから責めるなら私を責めておくれ!」
レインさんは爆乳をテーブルに押し付けながら頭を下げてきた。何この展開。
アリサってあの『魔石』の女の子の事だろう。
しかしテーブルよって胸が潰れている。ここまで形が変わるものなのか。……ぜひ責めたいです。
「黒いの!」
俺は後ろから声がして振り返ってみると、俺を睨みつけてくる金髪の冒険者らしきおっさんがいました。
身長は俺より高いが、その分横も出ている。
どことなくお酒のにおいが漂ってくるし、顔もちょっと赤い。朝からビールなんて贅沢な生活してるな。
「てめえレインさんに頭下げさせて何やってんだ!」
ぐおおおおお!
唾を飛ばしながらしゃべってくるな!顔にかかった!唇にかかった!
別に謝らせるつもりなんてこれっぽっちもなかったんだってのに!
俺は右手で顔をぬぐい、つい唇付近についた唾を跳ね除けようと軽く唾を吐いた。
「ハハッワロス(プハッ)」
「ルーキーが調子のんなよ!!!」
「ちょ……ちょっとやめなよ!」
これまで『ハハッワロス』になるのね。
逆上した金髪の男は右手で俺に殴り掛かってきたが、動きも見えるし殴られるつもりのない俺は自然と体が動き、男のパンチを右手で受け止めた。
「ぐ!?」
「やめなって!」
レイン姉さんが必死に止めようとカウンター越しに言葉をかけているが、酔っ払っている状態のこの男には意味をなさないようだ。
しかしどうする。この状態だと紙に書いて説明する余裕はない。
殴られるのを我慢すれば紙に書いて説明できるが、殴られるまでして酔っ払い男の相手をする気は起きない。
「がら空きなんだよ!」
「やめな!」
今度は左足で俺の腹を蹴ろうとしてきたが、今度は左手で蹴りを受け止めた。
「なに!?……ぐ」
とりあえずレイン姉さん、カウンターから出て来て直にこの男を止めてくれ。
レイン姉さんに頭を下げさせたことでこの男は怒ってるんだ。あなたなら止められる。
俺が動きを止めているうちに!
俺は伝わるかどうか分からないが、首だけ後ろに向け、レイン姉さんを見た。
しかしレイン姉さんは目を見開いて何も反応してくれない。
その後ろからギルドマスターとの話が終わったのか、ローザさんがカウンターを飛び越えてきてくれた。
「みりん君、(言葉に)気を付けてくれ」
ローザさんは即座に合間に入り込み、男を引き離し、俺の両肩に手を置き、言葉にという所だけ小さな声で言った。
「お前は……朝から酒なんて飲んでいないで働け!」
そして金髪男の方を見てそう言い放った。
すると酔っ払い男はそのまま走ってギルド本部を出て行った。
ローザさん、止めに入ってくれてありがとう。言葉にできるだけ気を付けていたんですけど、おっさんの唾が唇にかかるなんて俺には耐えられませんでした。
ただ俺の両肩に手を置いて、俺を見つめるように咎めるのはキス10秒前のような気がしてたまりません。
俺は酔っ払いを追い払ってくれてありがとうと言う意味で会釈した。
とりあえず終わった終わったと思いたいが、周りの空気はそうもいかない。
まだ朝という事もあるせいか、周りの冒険者の数は少ないが、全員が全員此方をちらちら見てきている。明らかに注目の的だ。
どうしたらいいだろう。
後ローザさんもう離してもらっていいですよ。
俺はローザさんの手を優しく持って肩から手を離させ、レイン姉さんの方を向いた。
「みりん君……?」
「あぁ……すまないね。本当だったら私が止めなきゃいけなかったのに……しかし本当にすごい力を持ってるんだね。びっくりしちまったよ」
だてにケンタウロス先生と力比べをしていませんよ。
とりあえず先ほどの返答を紙に書いて伝えることにした。
「(アリサちゃんに対しては別に怒っていませんよ。自分も悪いところが有りましたし、子供のしたことですから。敢えて言うなら今後気を付けてください。)」
「ぁ……ああ、ありがとう。今後……絶対に気を付けるよ」
レイン姉さんは息を飲むように答えた。
酔っ払い男とのやり取りで怯えさせてしまったのか?
その後しばらく何とも言えない沈黙した空気が続いたが、俺がギルドに入ることを伝えるとレイン姉さんに3日後にはギルドカードができるからここに自分の情報を書いておくれと言われた。
俺は言われるがままに自分の情報を書き、レイン姉さんに渡した。
何歳なのかはとりあえず現実世界で27歳だったことからそのまま27歳と書いておいた。
ローザさんの反応を見ると嬉しいような嬉しくないような微妙な顔をしていた。しかし、ここで止まっている暇はないので迷惑かもしれないがPTのお願いをしてみることにした。
「(ローザさん、ご迷惑じゃなければCランクに上がるまでPTを組んでくれないでしょうか? もちろん恩は必ず返します。)」
「……! 私は全然かまわないよ。みりん君と私なら相性がいいからね」
ローザさん、それはどういう意味でしょうか?
まぁ前衛と後衛と言う意味ですよね。
その後俺とローザさんは場所を変え、ローザさんからPTにおける注意点を聞き、アリサちゃんのいる教会に向かうことになった。
私はギルド本部に来てみりん君と別れ、ギルドマスターの元へと向かった。
いったいこの髭タヌキ、今度は私に何を言うつもりだろうか。
私としては昨日、紙とペンをプレゼントし、冒険者になりたがるように不自然じゃないようにアピールしたつもりだ。
私は髭タヌキの部屋の前に来てノックし中に入った。
「今日も来てもらってすまんな。うまく誘導できたか?」
「不自然じゃないようにアピールしたつもりです」
そんなことを聞くために私を呼んだのか?
「まぁ後はなるようになるだろ。今日呼んだのは成功報酬を渡すためだ」
「成功報酬……?」
私は何か依頼を達成していただろうか? そもそも成功報酬をこの部屋で渡すことなんてありえない。
いったいこの髭タヌキ……何を考えている。
「色々あったがあいつと無事コンタクトを取り、ギルドに連れてきてくれただろう?」
「しかしそれは! 誤解を解くためであって……」
「まぁ受け取れ。結果としてお前は依頼を達成したんだ」
「……分かりました」
誤解を解くためであっても結果としては成功したのと同じね……。
……貰える物は貰っておこう。
しかし、この場で渡すという事は彼の前で渡すとあまりいい気持ちをしないだろうと言う考慮から?
よほど彼がこのギルドに欲しいようだ。
しかし彼が冒険者になっても長期間このギルドに留まるとは限らないのに……。
「分かっていると思うが、あいつには言わない方がいいぞ。さすがにいい気持ちしないだろう」
「そうですね。しかし何故そこまで彼を欲しがるんです? この町に長期滞在してくれるとは限りませんよ?」
「なんでと言われりゃ強いからとしか言えんな。それにこの町に長期に滞在してくれなくても構わん。どのみちCランクまではこの町で活動するだろう。Cランクになった直後に緊急依頼を出して終わりだ。まぁその後もいてくれた方が嬉しいがな」
良く考えろ。
何故髭タヌキは私にこんな事までべらべらと話した。
それに緊急依頼を出すことが決まっているとはどういう事?
私にも同行させるという事……?
「私にも出すつもりですか?」
「そうなるな」
「一体どんな?」
「山狩りを行う。もちろん大規模に招集をかけてだ。もちろん俺自身参加する」
山狩り……大規模な魔物狩りの事ね。しかしあそこには馬鹿みたいに強いと言われる龍種がいたはずだ。その龍種の行動のせいで魔物が山から下に降りてきている可能性が高い。
「あの山には龍種がいます。下手な寄せ集めでは刺激して被害を被る事だけになりますが……」
「そのためのあいつだ。ケンタウロスどころかローザをも簡単に無力化する腕前、これを逃しておく手はない」
「私がこの町を離れることは考えないのですか?」
「離れるのか?」
この髭タヌキ、質問に質問で返すな。
確かに彼がいてくれるなら心強いけど、中途半端な戦力だと死んでしまう。
……逃げたいと思う気持ちと同時に彼がいれば問題ないと思う自分もいる。複雑だ。
「何故その事を私に話したのです?」
「理由を知っておいたが余計な気を使わずに済むだろうと思ってな」
確かに今後彼とPTを組んで依頼をしていくにあたって、そのうちに彼を欲しがる理由が気になってくるかもしれない。その点においては素直に感謝しておくべき?
「お心遣い感謝します。他には何かありますか?」
「まぁこんなとこだな。よろしく頼むぞ」
よろしく頼まれても困る。
最悪彼と二人でCランク前にこの町を離れればいいんだ。
私はその後しばらく今後の事について正確に知るために髭タヌキと話をし、予定がある程度決まった所で部屋を出て、ギルドロビーへと向かった。
ギルドロビーに出ると何かを叫んだ金髪の男と『ハハッワロス』と言うみりん君がいた。
それとダブルメロンを持ったお姉さんが何とか止めようとしている。
一体なんでこんな状況になったのか呆然としていると、顔を真っ赤にした男がみりん君に殴り掛かり、それを受け止めた。続いてみりん君に蹴りを放ち、それも受け止めた。
しまった!
私とギルドマスター以外にはみりん君は喉に障害を持っていてほとんどしゃべれないという設定だったはずだ。
どういう意味で言ったのかは分からないが、周りの人間にとっては金髪の男を嘲笑ったように聞こえたはずだ。
あの状態では紙に書いて説明できないし、みりん君が誤解を解くこともできないはずだ。
ギルド職員や他の冒険者たちも……誰もがそちらを見ているだけで止めるような気配はない。
ダブルメロンさんもさっきまで止めようとしていたのに固まってしまっている。
私が……止めに行くしかないか。
私は一歩目で加速し、2歩目でさらに加速し、3歩目でカウンターを飛び越えた。
「みりん君、(言葉に)気を付けてくれ。」
そのまま即座に合間に入り込み、男を引き離し、みりん君の両肩に手を置き、言葉にという所だけ小さな声で言った。
「お前は……朝から酒なんて飲んでいないで働け!」
そして金髪男の方を見てそう言い放った。
すると男もみりん君の強さが分かっていたのか逃げるようにギルド本部から出て行った。
みりん君がちょっと迂闊過ぎるんじゃないかという事で咎めるようにみりん君の顔を見上げる。
残念ながらみりん君の顔からは何も読み取れないが、会釈によって感謝を伝えてきた。
するとみりん君は私の手を優しく持って肩から手を離させ、ダブルメロンさんの方を向いた。
「みりん君……?」
「あぁ……すまないね。本当だったら私が止めなきゃいけなかったのに……しかし本当にすごい力を持ってるんだね。びっくりしちまったよ」
本当にその通りだ。ギルド職員が止めなくて誰が止めるんだ。ダブルメロンでも使って止めろ。
そのままみりん君は紙に何かを書き、ダブルメロンさんに見せた。
「ぁ……ああ、ありがとう。今後……絶対に気を付けるよ」
紙になんて書いたのだろう。
ダブルメロンさんの表情が少し険しいような……。
なんて書いたのか気になっていると、冒険者になることを決めましたと書いた紙を私に見せてきた。
私も誘導したとはいえ本当になるとはね。
そして事務的な手続きが終わると、再び紙に何か書いて私に見せてきた。
「(ローザさん、ご迷惑じゃなければCランクに上がるまでPTを組んでくれないでしょうか? もちろん恩は必ず返します。)」
「……! 私は全然かまわないよ。みりん君と私なら相性がいいからね」
まさか私から切り出そうと思っていたことを言ってくるなんて……Cランクに上がるまでPTが必須なことを考えれば当然なのかな。
最強クラスの前衛と魔法使いのPTか、相性はいい。
髭タヌキに乗せられたことが癪だけど、これでいよいよみりん君の味方をしなきゃいけなくなったわけだ。
後は……みりん君が人と敵対するような存在でない事を祈るばかりだ。
今回も読んで下さってありがとうございます。
とりあえず報告ですが、あと1,2話書いてきりのいいところで一旦更新停止になります。
7月から忙しすぎて恐らくほとんど書く暇がありません。
楽しみにしてくださっている方々には申し訳ありません。
後更新再開するときは全話加筆や修正をして改訂版として出します。




