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第三話

第三話

(下ネタ表現のようなものがあります。下ネタに耐性のない方はご遠慮ください。)





 女の子に逃げられてしまった。

 まさか逃げるなんて思わなかった。これは俺の判断ミスだろう。最初からケンタウロスをまともに相手にする必要はなかったのだ。戦闘経験を積むなんて考えるべきじゃなかったかもしれない。

 ケンタウロスの隙を見て女の子を取り押さえればケンタウロスも動くことはできず。ここから起こりうるであろう最悪の事態を防ぐことをできた可能性が高い。

 しかしケンタウロスを余裕で倒せるというのは自信の裏付けになる。この経験は決して無駄にならないはずだ。


 最後についしゃべってしまった言葉、距離は離れていたけど絶対聞こえていただろうな。

 ほんとついてない。

 しゃべれないキャラ設定というのが実現不可能になってしまった恐れがある。

 家に着けば彼女が俺の事を犯人だと親に伝えるだろう。そうすれば後の祭りだ。

 まぁ無理やりにでも痛み分けと前向きに考えたいところだ。


 終わった事をいつまでも考えていてもしょうがない。

 今できることを考えるべきだ。

 もうすぐ夕方だ。夕方になれば後は一気に視界は闇に染まるだろう。

 今すべきことは何か、寝床を確保することだ。夜移動することは視界が悪い以上危険極まりない。今のところ体力的には問題ないのだけど明後日の方向に無駄に移動する可能性もある以上避けるべきだ。

 それに今後何があるか分からない。休めるときに体を休めるべきだろう。ステータス的には問題なくても精神的には問題がある。

 

 俺は寝床を探すためにあたりを見回した。

 森の中で野宿するなんて体験は生まれて初めてだ。はっきりいってどこがベストな寝床なのかさっぱりわからない。ただ、モンスターの襲撃が考えられる以上、いつでもある程度開けた場所に移動できたほうがよさそうだ。

 となると――

 先ほどケンタウロスと戦っていた場所を見た。

 ここなら十分に開けている。モンスターが襲ってきたらすぐさま此方に距離をとって戦える。


 寝床をこの近辺に決めた俺は『アイテム』を思い浮かべ、何か使えそうなアイテムはないか探した。

 使えそうなアイテムは4つ。

 『一発熊の毛皮』

 『火打石』

 『探検キット』

 『羊の生地』


 まずは『一発熊の毛皮』だが、何に使うのかというと地面に敷くためにだ。さすがに毎日布団の上で寝ていた身としてはいきなり地面の上に寝るなんていうのはごめんだ。一張羅の服も汚れてしまう。

 『一発熊の毛皮』を取り出してみると大人二人が悠々と寝っころがることができるほどの大きな毛皮が出てきた。

 ――綺麗に剥ぎ取ってあるな

 虎のカーペットとか家で使っている金持ちどもが見たら大金だして買いそうだ。


 次に『火打石』と『探検キット』だ。この二つはセットで使うこと前提で、『探検キット』は薪のようなもの、『火打石』はその名の通り火をつけるために必要なものだ。

 ゲーム内では野外での『料理』、『ポーション調合』スキルや休憩での回復比率アップに使われていた。


 真っ暗闇の中モンスターに襲われるなんていうのはごめんだ。モンスターは夜目が効くかもしれないが人間は夜目なんて効かないのだ。

 少し開けた場所に『探検キット』を使い、更に『火打石』を使って火をつけた。

 簡易焚火の完成だ。

 中学生の時友達とバーベキューに行った時以来のようだ。こんな状況だというのに少しわくわくしている。

 そこから火の粉が飛んでこない程度に少し離れた場所に毛皮を敷き、俺はそこに座り込んだ。


 気づけば本当に夜中になってきた。

 辺り一面が次第に闇に染まっていき、静寂な森の中、パキパキという焚火の火花飛び散る音だけが響いていた。


 俺は『アイテム』からイチゴを5個、バナナを2本取出し、それらを食べた。残りのバナナは48本、他には小さな果物と生肉しか食料がない。『料理』スキルが発動する食材を持っていないことが悔やまれる。


 お腹も満足し、ある程度落ちつけたとこで先ほど疑問に思ったことと今後の事を考えよう。

 先ほど疑問に思ったこととは…………自分の体の事だ。レーダーを見て誰もいないことを確認し、ズボンを脱いでみた。黒いパンツをはいている。

 本当黒一色だな。典型的なセンスない人だ。

 自分で自分を馬鹿にしつつパンツに手をかけた。

 これは……!

 元の自分の体より数段でかかったという事だけ言っておこう。


 そのまま服を脱いだついでに『羊の生地』と『ポーション(小)』を取出し、この二つを用いて体を洗った。

 水を持っていないため、『ポーション(小)』を代用した。勿体なかったかもしれないが、少しとはいえ汗をかいた体でいるのは嫌だった。

 それにしても見事に割れている腹筋といい、この体で現実に戻ることができれば、思いつく限りの※ただしイケメンに限るを実行できただろう。

 その前に身分詐称でたいーほかもしれないが。


 そんなバカなことは置いておいて次の問題だ。

 この森に来て恐らく6~8時間くらいは経っただろう。未だに何の尿意も便意も感じない。試しに踏ん張ってみたが何も出なかった。

 便利といえば便利だが、明らかに人間やめてしまっていた。


 ――ちょっと待て

 ――もしかしてアレも出ないのか!?


 だとすると精神的に死んでしまうかもしれない。そう思った俺はすぐさま行動に移った。

 思い浮かべるのは先ほどのぷるぷる震えていた女の子。

 そして――



 ふぅ…


 はい、無事出ました。

 しかしこんな森の中で、しかも出会ったばかりの女の子でしてしまうとか、変態もいいところだ。まぁ半場現実逃避してしまっていることも否定できないが。

 先ほどの女の子には申し訳ないが、どうも記憶が曖昧で日ごろお世話になっている方々を思い浮かべることができなかったのだ。これは仕方ないと言ったがいいだろう。

 男として死亡することを避けることができたことに感謝した。


 さっぱりしたところで次の問題だ。

 『ハハッワロス』についてだ。

 ふと思ったのだが、これは所謂『チャットフィルター』というシステムなのではないかという事だ。

 『チャットフィルター』とは下ネタ表現や特定の言語をチャット画面で入力し発言しようとすると、この言葉は発言できませんと出るのではなく、別の言葉に置き換えられて発言してしまうというやつだ。


 有名どころでは『変態』と入力すると、『紳士』と変換されるものがあったはずだ。

 例えば


 Aさん「さっきの女の子かわゆす、俺の中のペロリストが発動する!」

 Bさん「お前変態だろ」


 という会話が


 Aさん「さっきの女の子かわゆす、俺の中のペロリストが発動する!」

 Bさん「お前紳士だろ」


 という会話になってしまうのだ。

 ちなみにこの会話の中でのBさんが俺だ。Aさんではないヨ。

 つまり、俺の『ハハッワロス』も似たような現象かもしれない。

 どんな言葉をしゃべろうと、どれだけ長い言葉をしゃべろうと、どれだけ小さな声でしゃべろうと、しゃべった時にはいつの間にか一定音量で『ハハッワロス』に変換されているのだ。


 まぁ『チャットフィルター』かもしれないと言うだけで、何の確証もない。

 『チャットフィルター』が原因だった際は詰んだも同然だ。むしろ何らかの呪いのような現象で『ハハッワロス』になっているのであってほしい。そうすればポーションのような薬で回復可能かもしれないのだから。


 疑問点もあらかた結論づいたので今後はどう行動するかだ。


 まず今のところの最終目標はこの『ハハッワロス』を治すことだ。

 この不可思議な世界から現実世界に戻りたいなんて考えは今のところない。戻ったとしても毎日会社に行き、家に帰れば『Life』の生活だ。まだこの世界に来て1日も経っていないが、現実ではありえないことの連続に、こちらの世界のほうが気に入ってしまっているとはっきり言える。


 この『ハハッワロス』を治す具体的な方法だが、はっきりいって見当もつかない。ならばどうするべきか、情報を仕入れるべきだ。情報を仕入れるには町や城、魔法学院に行くのがベストだろう。

 そのためには町かどうか分からないが、ここから近い人の多く集まる場所に行くべきだ。

 そこで地図や情報を手に入れるしかない。

 お金はこのヴォータル装備を揃えた時にほぼ使ってしまったのであまり残っていないが、多少なら残っている。なんとか交渉に持ち込むことができれば少なくとも地図は手に入るだろう。


 問題は俺が犯人だということだ。『薬草(赤)』を彼女の物とは知らず、たくさん抜いてしまったことを詫びて許してもらうしかないだろう。そのために『薬草(赤)×27』は返すべきだ。せっかく採取したのに残念だがそれしかない。

 しかし俺は彼女に対して『ハハッワロス』と言ってしまった。

 次に出会ったとして彼女が俺の言う事を聞いてくれるかどうか、いや、全うな手段では聞いてくれないだろう。


 ならばどうするか、彼女はここに『薬草(赤)』を採取しに来ていたのだ。

 つまり数日すればまたこの場に訪れる可能性が高い。このまま町を探して、仮に町を見つけたとしても犯人という仮面が着いたまま町中を出歩くと、警察のようなものが来てたいーほされる危険性が高い。

 しかしここで彼女が来るのを待てばどうだろうか、いや、別に彼女じゃなくてもいいのだ。ここに来るのが少人数であれば最悪動きを封じて、今度こそジェスチャーで説明することが可能だ。

 そして俺の説明を理解してもらえば、一緒に町に行ってなんとか誤解という事を説明してもらえるだろう。


 道は開けた。

 俺のやるべきことはこの近辺で人が来ることを待つことだ。


 そう言えばあの女の子、籠と可愛らしいピンクのポシェットを持っていた。籠は薬草を入れていくものだと考えると、この世界の人は『アイテム』を自由に収納できない可能性が高い。

 ならばこの付近に人が近づけばすぐさま『薬草(赤)』をすべて取出し、渡す準備をしておくべきだ。『アイテム』を自由に取り出す能力があると知れ渡れば、色々と面倒なことになるかもしれない。知られないようにすべきだ。

 その点ではあの女の子に動くなと言われ、『薬草(赤)』を取り出せなかった事もいいように思える。


 やることも大体決まったし、そろそろ寝るとしよう。

 人生で一番ハードな一日だったかもしれないな。

 とりあえず明日はこの近辺の位置情報を把握しよう。

 俺は何時でも剣を取り出せるように鞘に入った剣を体の上に置き、モンスターの襲撃がない事を祈りながら眠りについた。









 アザルドに背に乗せられたまま、私は町の近くまで送ってもらった。ここから先にアザルドが一緒に来てしまえば騒ぎになってしまう。

 私はようやく止まりだした涙を払うように服の袖でゴシゴシと目元を拭き、アザルドから降りてアザルドを見た。


 「アザルド……ありがとね」


 ここに来てようやくアザルドにお礼をいう事ができた。

 アザルドは気にするなとでも言いたげに笑いながら前足を上に上げ、後ろ足だけで器用に立って見せた。

 私も釣られてエヘヘと笑ってしまった。

 さっきの男の人の出会いが嘘のようだ。

 でも、アザルドの右手に石の槍がない事がそれを現実だと裏付ける。


 「ねぇ、アザルド、今度召喚するときには立派な槍をプレゼントするね!」


 贅沢するためにちょくちょく貯めていたお金だけど、アザルドのために使えるのなら別に悔しくない。

 アザルドは驚いた表情をして、首を横に振ったが、私は譲らなかった。

 私の欲に駆られて、アザルドを召喚し、結果として石の槍を失ってしまったのだ。

 だからこれは私のせいだ。

 私がしなきゃいけないことだ。


 「お金なら大丈夫。だから今度召喚した時受け取ってほしい」


 私はもう一度アザルドに言った。

 アザルドは私の目をじっと見てきて少し照れくさい気持ちになったけど、私は目を逸らさなかった。

 私の気持ちが伝わったのか、アザルドは目を優しく細めて頭を撫でてくれた。

 アザルドは撫でるのをやめると私から距離をとった。

 元いた場所に帰るのだろう。

 召喚に応じてくれたアザルドに改めてお礼を言って、アザルドが紫の光とともに消えるのを見送った。


 「協会に戻ってお金の確認しなきゃ」


 その前に遅くなったことで心配しているだろう神父様に謝って、お腹を空かせてぎゃーぎゃーと騒いでるだろう子供たちをなんとかして、夕食の準備に取り掛からないと。


 私は籠を抱きしめ、教会に向けて走り出した。


 どうしようか。

 神父様に今日有った事はたぶん言うべきじゃないと思う。

 だって余計な心配をされてしまうから。

 言うのはギルドの人にだけでいいだろう。明日はギルドに行って報告し、そのまま武器屋で槍を見てみよう。



 「ただいま! 寄り道して遅くなりました!」


 「おかえりアリサ、珍しく遅いものだから何かあったのかと心配したぞい」

 「あはは、すいません神父様。すぐに夕食の準備に入りますね」


 神父様は心配するも咎めるようなことは言わずそのまま部屋に行ってしまった。

 そして予想通り腹を空かせた子供たちがめしーめしーと集まってきた。ミュンも一緒になってめしーめしーと騒いでいる。日頃おとなしいミュンだけどみんなと一緒に騒ぐのは好きのようだ。


 「はいはい、すぐに作りますよ!」


 私は群がってくる子供たちを押しのけ、調理場へと向かい夕食を作った。

 その後、みんなと一緒に夕食を食べ、食器を洗い。ミュンと一緒にお風呂に入り、そのまま一緒の布団に入った。ほんの20分足らずの出来事だったけど、今日の出来事が何度も頭の中で繰り返し、なかなか眠りにつけなかった。


 「おねーちゃん、眠れないの?」

 「起こしちゃったかな、ごめんね」

 「ううん、大丈夫」


 いつの間にか眠っていたはずのミュンが起きていた。どうやら私が起こしてしまったようだ。心配してくれるミュンに心が温かくなって、今度は眠れそうな気がした。


 「おねーちゃんももう寝るから。ミュンも寝よ?」

 「うん……おねーちゃんおやすみぃ」


 今度こそ私とミュンは眠りについた。



 

 朝になって目覚めた私はミュンを起こさないようにこっそりと布団から這い出て、へそくりにお金がいくら入ってるか確認した。2年間ちょくちょく使いながらも貯め続けたお金だ。


 「13550Goldかぁ、槍っていくらするんだろ」


 薬草一束につき、道具屋では50Goldで買ってもらえる。今この町のギルドで働いていて、昔この教会にいた私のお姉さんの様なレインさんが月に3万Goldほど稼いでいると言っていたような気がする。

 槍買うのに足りなかったらお金貸してくれないかな?なんて思いながら朝食の準備をすることにした。


 いつも通り朝食を終え、後片付けを済ませたアリサは、神父様が子供たちに勉強を教えている間にギルドに向かうことにした。

 いつも午前中は神父様が中心となって子供たちに勉強を教え、午後からは外で遊ばせていた。


 「神父様、少し出かけてきますね」

 「午前中から出かけるとは珍しいの、分かった。行ってきなさい」

 「おねーちゃん、いってらっしゃい」

 「「「「「行ってらっしゃい!」」」」」

 「行ってきます!」


 神父様と子供たちにあいさつを済ませ、アリサはギルドへと向かった。



 ギルドは町の真ん中にある。町の自衛から旅の護衛、魔物の狩りまで幅広い仕事をやっている。大抵の町にある何でも屋と言っていい存在だ。正確には街の自衛を主体とした自衛団と依頼を受けて行動する人の2種類に分けられるようだ。


 ギルドに着き、中に入ると、ギルドの中には見たことのない装備を着た人が疎らに存在していた。

 奥の方でレインさんを始め、複数のギルド職員がギルドの人に依頼の説明をしているようだった。ギルドの中に入るのは初めてではないが、まだ数回しか入ったことがないため、依頼書が貼ってある掲示板や、恐らく同行PTを探しているのだろう、一人一人に話しかけている人など物珍しかった。

 辺りをきょろきょろ見回していると、依頼を説明し終え、私に気付いたレインが話しかけてきた。


 「アリサじゃないか、ギルドの中に入ってくるなんてどうしたんだい?」


 レインさんはとても元気なお姉さんで、姉御肌というべきか、いつも人を元気づける話し方で多くの人に慕われているらしい。何より胸が爆裂だ。


 「昨日色々あってね、ちょっとギルドに話しておかなきゃかなと思って」

 「情報提供ってわけかい、こっちに来て話しな」


 レインに呼ばれた私は昨日会ったことを説明することにした。


 「レインさん、3日前に隣町で黒髪に黒色の服を着た強盗って出ましたよね?」

 「ああ、出たね。容姿が分かっているのに未だに捕まらないんだから驚きだよ」


 びっくりだよとおどけて見せるレインさん。やっぱりまだ捕まっていないんだ。アザルドに打ち勝つような人だ。生半可な腕では返り討ちになってしまう。きっちり説明しとかなくては!


 「実は昨日、黒髪に黒色の服を着た人を見かけまして……」

 「なんだって? 本当かい?」

 「はい、それで私はその時『魔石』を持っていたので、その人に話を聞いたんですけど…答えてもらえませんでした…」


 昨日の光景が思い出される。アザルドの白い光を纏った攻撃が決まると思った瞬間、青い光がそれを覆いつくし、武器が粉砕されてしまった。


 「それどころか変な儀式の様なものをし始めたので、スキルかと思ってアザルドを召喚しちゃいました」

 「アッハッハ、変な儀式ってなんだいそりゃ。でもアザルド召喚したんならなんでその男を連れてこなかったんだい?」


 レインさんはアザルドの強さの事を知っている。ギルドの自衛団の人との模擬戦を持ちかけてきたのもレインさんだ。アザルドを召喚して、そのアザルドが負けるとこなんて想像できないのだろう。


 「その……その男の人が何にも答えてくれなくて、怪しい動きをするものだから動きを封じてギルドに連れて行こうと思ったんですけど、アザルド…負けちゃったんです」

 「なんだって…?」


 やっぱりレインさんにも信じられないのだろう。今この時になってもまだ、私はアザルドが負けたことを夢だと思っている自分がいるのだ。


 「詳しく話しな」


 レインの声のトーンが変わった。今まで話を聞くだけだったが、いつの間にか右手にペンが握られていた。

 それほどアザルドが負ける事なんてありえないはずなのだ。

 私はどんな戦闘が行われていたかすべて話した。動きが速すぎて目が追い付かず、間違っているのかもしれないけれど。

 そして全部話し終わった。


 「信じてないわけじゃないんだけどさ、嘘じゃ…ないんだよね? 」

 「はい」


 私はレインの目を見て答えた。

 これは嘘なんかじゃなく、間違いなく私にとっての現実だった。

 私の目をじっと見たレインは頭をくしゃくしゃと掻きだした。


 「アリサ、態々すまないね。こりゃ今からギルドマスターのところに行って恐らく会議だわ」

 「やっぱりそこまでしなきゃならない事態なんですね」

 「そうさねぇ。ケンタウロスに勝てる奴だってこのギルドにいないわけじゃない。数人だけどいるさ。だけど余裕を持って勝てるかというと話は別」


 すごい事態になってきた。でも泥棒犯を野放しにしておくことなんてできない。


 「しかしそうなると、なんでその男がアザルドの武器だけ破壊してアリサを見逃したかってことになるんだけど」


 私が考えても分からないかと笑いながら言いうレインさん。技とおどけて見せて私を元気づけようしてくれているのだろうだった。


 「それじゃアリサ、情報提供金は後でになるから今日はもう帰んな」

 「お金もらえるんですか!?」

 「そりゃ情報が情報だからねえ」

 「アリサ、分かってると思うけど、犯人が捕まるまで町の中から出るんじゃないよ!」

 「分かってますよ!」


 お金がもらえると聞いて気分が少し上がってしまった。嬉しそうな顔をしているのが分かるのだろう。 現金な奴めと笑いながらレインは部屋の奥に入って行った。


 これでギルドで説明できることは全部やった。次は武器屋さんだ。

 私は他のギルド職員に会釈をして、武器屋に向かった。








 私の名前はレイン、このギルドでギルド職員をやっている。ギルド職員ってのはギルドの依頼受付や説明、色々な書類整理、金銭管理などを仕事としている職員だ。いつものように依頼の説明を終えるとそこには同じ教会で育ったアリサが辺りをきょろきょろと見まわしていた。

 まるで子供のようだと笑みがこぼれてきたが、このまま眺めておく訳にもいかないので要件を窺った。


 話を聞いていると先日の強盗犯と対面して戦闘になったって言うんだから驚きだ。

 でも何より驚きなのは、アリサの持つ召喚獣、『ケンタウロス』のアザルドが負けたっていう事だ。ケンタウロスは人に友好な魔物の中じゃトップクラスに位置する戦闘力の持ち主だ。

 以前怠けていたギルドの自衛団の奴らをうまくそそのかしてアザルドと戦わせてみたが、隊長、副隊長を除いた全員で戦わせても自衛団は全滅という結果だった。

 そんな力を持ったアザルドがスキルを使った上で武器を破壊され、逃げることを優先した。

 それはつまり、アザルドより遥かに格上だという事の証明に他ならない。


 でもここで引っかかるのが一つある。それほどの力を持ちながら何故アリサもアザルドも殺さなかったのかという事だ。話を聞く限り常に回避と防御に専念し、攻撃したのは武器を破壊した1回だけという。アリサを見逃せばどういう事態になるか分からないやつじゃないだろう。


 何故だ…どうしてアリサとアザルドを見逃した?

 まさか…アリサをさらおうとした……?

 これなら説明がつく、アリサの持つ『召喚』スキルはレアなスキルだ。だがそのスキルは強力な魔物と契約した『魔石』があってこそ輝く。だからこそ技とアリサに召喚獣を召喚させ、その力量を確かめた!

しかし武器を破壊した直後、プライドの高いケンタウロスがまさか逃げるとは思わなかったのだろう。油断によってアリサを逃がしてしまった。


 『召喚』スキルは主人の精神状態に大きく依存するので、仮にアリサを手に入れ、何らかのものでアリサ脅して召喚獣を扱おうとしてもうまく扱えないはずだ。だから欲しがる人は少ないとお思うが、そんなことは実際分からない。

 現に先の大戦の引き金となったのはぼんぼん貴族の腐った道楽だ。


 そしてアザルドが逃げを決意し、アリサを載せ逃亡し始めた時に聞いたという一言「ハハッワロス」、 これはまんまと逃してしまった自分自身とプライドを捨てて逃亡を選んだアザルドを馬鹿にしているのだろう。

 だとすると全てのつじつまが合う!

 この考えは当たりかもしれない。


 私の考えが当たりならとんでもない話だ。

 私は情報料金がもらえると聞いてニヤニヤしているアリサに、町の外に出ないように念を押しギルドマスターの元へと向かった。








 お金いくらもらえるのかなと考えながら歩いているうちに武器屋さんに到着した。

 武器屋さんには初めて入るので緊張したけど、入口の前で棒立ちしている訳にもいかないので覚悟を決めて中に入った。

 そこにはべらぼーな値札のついた武器がたくさんありました。


 とりあえずどんな槍があるか見せてもらったけど、アザルドが使っていた槍に比べると全部小さかった。

 ケンタウロスが使う様な槍はないのかなと聞いてみると、特注で作るしかないと言われ、お金を聞いてみると、一番安い素材で8000Gold。だけど、ケンタウロスが使うとなるとある程度強固じゃないとたぶんいけないらしく、18000Gold位かかると言われた。           

 私のお金は13550Gold。とてもじゃないけど買える値段じゃなかった。


 でも、アザルドには次召喚するときいい武器をプレゼントすると約束してしまった。

 お金を稼ぐしかないのかな。

 レインさんにお金を借りるにしても金額が大きすぎし、今レインさんは会議の途中だろう。

 後4450Goldかぁ。

 こうなったら…色仕掛けで!


 「おじさん…私どうしてもその槍を作ってほしいの。でも、ちょっとお金が足りないの。

 少し安くならないかな……?」


 男の人は女の人の涙をためて上目使いでお願いする様に弱いとレインさんが言っていた。


 「うぐ……いや、こっちも商売だ。簡単に値下げするわけにはいかないさ。そうだなぁ。じょーちゃん、今予算はどれくらいあるんだ?」


 どもりながら値上げを拒否する店主さん。

 ダメだった…...だけど、手応えがなかったわけじゃない!


 「13550Goldです。足りない分は後で払いますから!」


 武器屋のおじさんは考えるような素振りを見せた。

 これはもしかして値下げ来る!?


 「初回利用として14000Goldに負けてやる。だけど次からは1Goldたりとも負けなしだ!」


 4000Goldも安くなった!これが色仕掛けの効果、初めてやってみたけどレインさんのいう事を聞いておいてよかった!

 残りは450Gold、薬草で9束だ。

 レインさんの情報料金は明日以降…

 9束くらいなら危ないかもしれないけど、森の中で摘んでこれる…?


 「それでお願いします! お金が貯まったらまた来ますね!」


 私はいくら必要なのか決まったので、店主にお礼を言って急いで武器屋を出て行った。

 朝食の準備を早めにして、レインさんには悪いけど森で薬草と摘んで来よう。

 まさかもう黒い人はいないだろうと思い、教会に駆けこんだ。


今回も読んで下さってありがとうございます。

一応筋書き的におかしくないように気を付けているつもりですが突発的に書き始めたものなのでおかしなところが出てくるかもしれません。

10話ほどまで書いたら全部チェックし、おかしなところを修正します。

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