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第二話

第二話

 

 ―――青年と少女が出会う2日前


 ドンドンドン!教会の扉がノックされる。

 神父は来客に対応するために扉を開け、訪れた人に眉間にしわを寄せた。

 訪れた人は銀色に輝くハーフプレートメールを身にまとい、肩に鷹のエンブレムが刻まれたギルド直属の自衛団だった。


 「こんな朝早くにどうなされたのですかな?」


 こんな朝早くから町の協会に人が、それも自衛団の人が訪れるなどろくな話ではない。

 神父は自衛団の人の顔を窺うように扉の前で話を聞いた。


 「朝早くに申し訳ない、実は昨日隣町の街中で強盗があってな、そいつがこの町に来ないとも限らないので注意を呼び掛けていたんだ」

 「なんとまぁ、それはいかんですな」


 町の外では盗賊による強盗も起きない話ではないが、ギルドがある街中で強盗するとはよほど自信があるのか、それともただの馬鹿か。


 「強盗にあった人の話だと犯人はこのあたりじゃ珍しい黒髪で黒い服を身にまとった男らしい」

 「そこまで分かっているならすぐに捕まりそうですな」

 「全くです。それでは朝早くから失礼しました!もし何かあればギルドによろしくお願いします!」


 そう言うと男は敬礼し、足早に去って行った。

 これから他の家にも同じことを言って回るのだろう。朝早くからご苦労なことだ。


 「おはようございます神父様、いったい何のお話だったのです?」


 影から様子をうかがっていたのだろう、アリサが未だに眠そうな顔をしながら此方に向かってきた。


 「おはようアリサ、どうやら隣町で強盗が出たらしくての。髪も黒で衣装も黒ずくめの男が犯人のようじゃ」

 「黒髪なんですか?珍しい人もいるんですね」

 「そうじゃのう。まぁないとは思うが見かけたら注意するんじゃぞ」

 「分かってますよ、神父様!」


 用件を聞き終わったアリサは調理場の方へと向かっていった。今から朝食の準備に入るのだろう。

 もう大分体にガタがきており、食事を準備してくれるアリサには非常に助かっている。

 まだまだ若いものに負けんぞと思いながら教会の裏に飼っている牛から乳を搾るために教会を後にした。






 もうすぐポイントその5だ。

 ここにも生えていなかったら諦めて帰るしかない。

 ダメな考えを振り払いながら小道を駆けていくと、ポイントその5に黒い人影が見えることに気付いた。


 ――誰かいる!


 私はそこにいる人物を確かめるために木々に隠れながらひっそりと近づいた。

 近づいて気付いたけど全身真っ黒な男の人だ。腰に剣が備わっている。しかもこの辺りじゃほとんど見ない黒髪の人だ。身長も高くて顔も結構かっこいい気がする。動物のしっぽのような後ろ髪が少し可愛い。


 しかし――先ほどから何もない空間を指でなぞったり、ニヤニヤ笑っている。怪しい人かもしれない。

 怪しい人―?

 最近どこかで……あ!


 ――どうやら隣町で強盗が出たらしくての。髪も黒で衣装も黒ずくめの男が犯人のようじゃ。――


 何日か前神父さんが言っていた。思い出してみれば黒髪で黒ずくめの男の人、強盗の犯人にそっくりだ。


 ゴクリ…自分で息を飲むのが分かった。胸がすごくドキドキしている。

 犯人なら捕まえることができれば….ギルドから報奨金が出て贅沢ができるかもしれない!

 それに今の私には『魔石』がある。

 本当ならそっとここを離れるべきだと思うのだが、興奮した私は冷静な判断などできず、相手を捕まえることを考えた。


 問題はあの人が犯人のそっくりさんだった場合だ。その時は謝って許してもらおう。でも自衛団の人がこの話を広めているはずだし、そんな中犯人のような格好をするなんていうのはおかしい。

 結論が出た私はポシェットから『魔石』を取り出した。幸いここは森の中だ。動きを封じてしまえば木のツタで相手を縛って無力化できる。

 『魔石』をいつでも使えるように準備し、相手が何者なのか確かめるために木の陰から出て一歩踏み出した。


 「あなたは……誰?」


 私の声に気付き、こちらを振り返った男の人は、鋭い赤色の眼をしていた。

 男の人はねっとりと下から上まで私の全身を見た。視線は私の顔の位置で止まり、いやらしい笑みを浮かべていた。

 男の人の笑みに体が震えるのが分かる。

 私は男の人の視線に負けないように『魔石』を突出し、相手からの返答を待った。








 目の前にいる女の子、右手に石を構えてプルプルしています。

 緊張しているようで、顔がこわばって不安げな表情をしている。

 髪色が茶色という事もあるせいか、赤頭巾がチャームポイントになっていて非常に可愛らしい。

 何だこの可愛い生き物は、『ハハッワロス』状態にも関わらず、思わず笑みがこぼれてしまう。


 この世界に来て初めての人との遭遇が美少女なのだからテンションが上がるのも仕方ない。

 それに相手が日本語を話していることが非常に嬉しい。日本語じゃなかったら言葉を覚えるまでぼっち生活だ。

 しかしこのまま相手の顔を観察している訳にもいかない。

 といってもここで話してしまう訳にもいかない。


 俺は想定していた通り、口がきけないキャラ設定で、ジェスチャーをすることにした。

 俺はまず右手で数回喉をトントン叩いた。その後右手を口のところまで持っていき、口を再現するかのように親指と4本の指をパクパクと動かした。最後に両手をクロスさせ、話せませんアピールのために×を作った。


 ――これでどうだ!


 我ながら中々のジェスチャーのような気がする。

 しかし――


 「動かないでください! 次動いたら『魔石』を使いますよ!」


 女の子には理解してもらえなかった。

 これ以上動いたら魔石を使うとか言ってきているが、どうしたものだろう。

 会話できない以上ジェスチャーで話ができないことを伝えるのがベストだと思うのだが….

 というか魔石って何だろう。名前的に魔法系のアイテム、それも攻撃アイテムである可能性が高い。だけどゲーム中に魔石なんてアイテムは存在していなかった気がする。実際使われたとしても対処はできると思うが、何とかこの状況を切り抜けなければならない。

 ひとまず動くなと言われたので相手の対応を見るとしよう。







 黒髪の男の人は私の返答に答えることはなかった。

 それどころか男の人は怪しげな動きをし始めた。右手で喉を叩いたのかと思うと動物の口でも表しているかのようにパクパクと動かし、その後両腕をクロスした。

 私の問いに答えず、何の言葉もしゃべらず、ただ怪しげな儀式を行なっているみたいだ。

 もしかしてこれって、何らかのスキルを発動させようとしているんじゃないだろうか。

 スキルが発動するかもしれないと思った私は、脅しをかけることにした。


 「動かないでください! 次動いたら『魔石』を使いますよ!」


 相手の動きは止まり、今度はこちらを探るような目で私を見てきた。

 まさか何にも答えてくれないなんていうのは予想外だ。どうしよう。

 最後にもう一度問いかけてみよう。それで駄目だったら『魔石』を使って無理やりギルドに引っ張っていくしかない。

 でもあなたは犯人ですか?と聞いて犯人ですなんて答える人はいるのかな。他に何言っていいのか思いつかないし、聞いてみるしかない。

 怪しい動きをした時は迷わず『魔石』を使う!


 「あなたが犯人ですか?」


 私は相手の返事を待った。

 が、相手は何時まで経っても何一つしゃべらず、それどころか右手を動かそうとしてきた。


 「動かないでください! そして答えてください」


 私の言葉に相手の動きは止まったが、未だに何もしゃべろうとしない。

 それどころか私の顔を見つめてきた。顔が赤くなっていくのが分かる。私だって女の子だ。男の人に見つめられれば少しはドキドキするものだ。

 しかし私の問いに答えず見返してくるなんて

 やはり…..怪しい!

 『魔石』を使ってギルドまで連れて行く!


 『魔石』は召喚獣を呼び出すために必要なもので、『召喚』スキルを持った人にしか扱えない。『魔石』に刻まれたこの世界のどこかに生きている特定の魔物を呼び出すもので、召喚者を主人と認めた魔物が『魔石』に自分のマナを注ぐことで正式に契約が完了する。そして契約が完了した魔物を召喚獣と呼ぶのだ。

 契約できたのは偶然だったが、今では大事なパートナーだ。


 このスキルはなかなかレアなもので、『魔石』を使えるとなればギルドでも重宝される。

 私はギルドに登録できる18歳になったらギルドに入るつもりだった。


 私は相手の動きを封じてもらために『魔石』にマナを込めた。

 ――相手を捕まえて!アザルド!

 『魔石』が紫色に光り、その光が『魔石』から目の前の何もない空間に移ったかと思うとそこにはケンタウロスの一種、アザルドが相手を威嚇するように佇んでいた。

 人間の上半身に茶色い馬の体、岩を削って作ったかのような大きな槍を持っている。


 危ない時にいつも私を守ってくれたアザルド、ケンタウロスの一種ということもあり力がものすごく強く、この森で魔物に出会ったときいつも倒してくれた。魔物の中でも上位に位置していたはずだ。でもそのアザルドがものすごく相手を警戒している!

 相手に油断はできないけど、ここはアザルドに任せるしかない。

 私はアザルドを撫でると正式に命令を出した。


 「あの人を捕まえるから動けなくして!」


 アザルドはウォォォォン!と威嚇し、男の人に向かって走り始めた。








 女の子の言葉を待つこと数秒。

 手に持った『魔石』という石を強く握りしめ、こちらを威嚇するように言葉を放ってきた。俺を強く睨みつけてきているが、美少女にぷるぷるしながら睨みつけられても全く怖くない。むしろ可愛さ余っていけない性癖に目覚めてしまいそうな気分だ。


 「あなたが犯人ですか?」


 犯人…?

 この女の子は俺を何かの犯人と勘違いしているようだ。俺は今日この世界に来たばかりで犯罪者になるような事は一切やっていないし、今のとこやるつもりもない。

 しかし話すわけにもいかず、動くなとも言われている。


 ん…?

 待て待て待て待て、俺は今までここで何をしていた。

 ハイテンションで『薬草(赤)』を採取しまくっていました。

 この場にいて犯人扱いされるってことは、もしかしてこの近辺に生えていた『薬草(赤)』ってこの子の物だったのか?いや、状況的にみて間違いないだろう。


 それは悪いことをしてしまった。『薬草(赤)』を返せば許してくれるのだろうか。なんせこの世界に来てから初めてのファーストコンタクトだ。美少女ということもあり是非仲良くしておきたい。

 動くなと言われているが仕方ない。この世界の人が『アイテム』を自由に出し入れする能力を持っているかどうか分からないが、まずは『薬草(赤)』を取り出して誠意を見せるべきだろう。

 俺は『アイテム』をイメージし、アイテム欄を呼び出したので右手でそれを操作しようとした。


 「動かないでください!そして答えてください」


 女の子は俺の動きに反応してきた。困ったことにこのままではアイテムを取り出すことができない。

 何か解決策はないだろうかと女の子を見つめていると、女の子の顔が赤くなった。これは強力だ。


 何も解決策が浮かばず、さらに彼女を見ていると『魔石』とやらが紫色に光り始めた。


 ――ついに『魔石』とやらを使うつもりか!


 俺は何時攻撃が来てもいいように身構えた。こうなってしまったら彼女を無理やりでも捕まえてアピールするしかない。


 逃げるという方法も考えたがこの場合悪手だ。彼女は俺を犯人だと言っている。仮に俺が逃げ出したとしても彼女は家に帰ったら親に伝えるだろう。

 『薬草(赤)』泥棒の犯人を見たと!

 そうなったら最後、『ハハッワロス』の俺が弁明することは非常に困難だ。人は先入観で物を見てしまう。いくらジェスチャーをがんばろうと筆談で説明させてくれるかどうか分からないしな。

 だからこそやるしかない。彼女を捕まえてアピールする。

 しゃべれないんですと!


 紫色の光が石から離れ、彼女の前方に移動したかと思うと、身の丈3mはあろうかというくらいのケンタウロスさんが佇んでおられました。

 石でできた槍を此方に向け、ものすごく威嚇されている。能力的には俺より遥かに下だと思うのだが怖すぎる。

 日本で生活していれば暴力沙汰なんてめったに起こらない。精々口げんかで終わるのが大半だ。 森の移動の中でこの俺のアバターみたいなのに大分体がなじみ、先ほどウッドボアを殺したとしても戦闘に慣れた訳じゃない。ステータスとスキルに頼った攻撃で殺しただけだしな。

 恐怖心が隠し切れない。これは自由に体を動かすことができないかもしれない。攻撃は余裕を持って対処しよう。

 

 彼女がケンタウロスさんの横腹を撫でると、彼女に向けてほほ笑んだ。俺にもにこやかな対応してくれよと思ったが、彼女がついに戦闘開始を宣言した。


 「あの人を捕まえるから動けなくして!」


 ケンタウロスさんはウォォォン!と雄叫びを上げるとこっちに突っ込んできた。体がでかいだけあって迫りくる圧迫感というものは恐怖心を駆り立てる。迫りくる問題はどう対応するかだ。


 『ステータス』で見た俺の攻撃力は445、防御力は403だ。

 手加減した攻撃と本気の攻撃なら本気の攻撃のほうが威力高いと考えるのが当たり前だ。ゲーム内では常に全力で攻撃していたと考えられるだろう。

 だから正確な攻撃力は0~445あるべきだろう。

 問題は防御力だ。

 体のすべての部位が防御力403あると考えられるだろうか。これもまた現実的に考えると考えられない。

 同じ攻撃を腹と頭にくらったとしたら、ゲーム的には受けるダメージは同じになるはずだが、実際は頭にくらえば一撃で死ぬ可能性が出てくるし腹にしても臓器を傷つけられれば大問題だ。


 だから俺は正確な検証ができるまで、相手からの攻撃を一発ももらってはいけない。

 相手が捕まえると宣言している以上、死に至るような過剰な攻撃はしてこないはずだ。

 それにいざとなれば木々に囲まれている場所に逃げればケンタウロスさんは動けないはずだ。


 だからこそケンタウロスさんには練習台になってもらう。

 俺の検証と戦闘慣れのために!

 俺はケンタウロスの石の槍に対応するために剣を抜き、防御と回避に専念することにした。


 雄叫びを上げてこちらに向かってくるケンタウロスは右手で石の槍を持ち、前に突き出している。

 最初の一手は大事だ。


 向かってくるケンタウロスの石の槍による突きを持っている剣で横からはじき、それと同時に『ステップ』を使い余裕を持って槍を持っている手とは逆の位置に移動し、巨体を使った『突進』を回避した。

 避けられたケンタウロスはそのまま体を横に向けながら石の槍を横に一閃してきた。その攻撃も視覚できた俺はしゃがみこんで石の槍を避け、さらに折り返して迫りくる石の槍を斜めに剣を構えることで上に受け流した。

 体をうまく回転させながら石の槍で攻撃してきたケンタウロスは俺に後ろを見せていた。

 相手の隙なのかと思ったのは一瞬、ケンタウロスは体を一瞬屈め、地面が抉れるほどに前足で強く地面をけり、後ろ足で蹴り飛ばそうとしてきた。ドッ!という音とともに強力な蹴りが向かってきたが、流れに逆らわず後ろに跳びながら何とか剣の腹で蹴りを受け止め、吹き飛ばされながら相手との距離を確保した。

 強力な蹴りだったと思うのだが蹴りを受け止めた手に痛みはない。


 怖すぎる、が相手の攻撃も良く見えるためか対処できる。恐怖心よりも先に体が興奮しているのが分かる。あんなでかぶつ相手に対処できているという結果が何とも言えない興奮を産んでいるようだ。漫画やアニメでよく出てくる戦闘狂になんてなるつもりはないが自然と笑みがこぼれてくる。


 ケンタウロスが姿勢を正し俺と睨みあうこと数秒、再びケンタウロスが突進してきた。

 今度は先ほどよりも走ってくるスピードが遅い。

 再び石の槍を横に薙ぎ払い攻撃してくる。今度は敢えて真正面から石の槍受け止めた。一瞬火花が散り、手に衝撃が走るが、受け止めることができた。

 鍔迫り合いの様な状況が続いたが、完全に力負けをしていない。押し返そうと思えばいつでも押し返し、攻撃に転じることだって可能だ。

 力では勝てないと悟ったのか、今度はケンタウロスが後ろに跳び距離をとった。敢えて俺は追撃をせず、相手の動向を見守った。


 「アザルド!……負けないで!」


 女の子の声援まであるなんてケンタウロスが羨まし過ぎる。

 女の子の声援を受けたケンタウロスは体を少し屈め、左手を前少し突出し、石の槍を持った右手を後ろに引き、攻撃体制を作っていた。明らかに『突進』と突きによる攻撃だ。それとも突き系のスキルだろうか。

 ケンタウロス系が持つ攻撃スキルで思い出せるのは『バニシングストローク』名前の通り消える突きだ。ゲーム内では威力もそこそこ高く、スキル発動中無敵になり、発動後は相手の後ろに回り込んでいるというスキルだった。クールタイムが長いため連発することはできないが、かなり優秀なスキルだったはずだ。俺もまだレベルはそれほど高くないが覚えている。


 ケンタウロスが突進し始めた瞬間、右手に持つ槍から白色の光のエフェクトが出ていた。


 ――やはりスキルか!


 通常攻撃や『突進』スキルならなんの問題もなく対処できそうだが、完全な攻撃スキルとなると未知数だ。

 ケンタウロスが使うスキルなので『バニシングストローク』の可能性が高い。しかし、実際どんな攻撃なのか分からないので防御するより避けに徹するほうがいいだろう。

 足に力を籠め、いつでも『ステップ』が使えるよう身構えた。


 ケンタウロスが向かってくる。何も真正面から迎え撃つことはないのでケンタウロスの動きに注意しながら横に移動した。

 しかし槍から出る白いエフェクトが強くなったと思った瞬間、向きを完全に此方に変えたケンタウロスが槍を突出し目の前に移動していた。


 ――予想以上に速い!


 俺は『ステップ』を使用し、攻撃を避けようとしたが、ケンタウロスは上半身だけをうねり、右手を更に突出し、光のエフェクトが発生している石の槍を突きだしてきた。


 『ステップ』は高速で移動できるスキルだが、一直線に大股で2歩分程度しか移動できず、更にスキルに1秒ほどのクールタイムがあるせいか、連続使用はできなかった。


 そのため、『ステップ』を使用し攻撃を避けることはできなかった。

 これ以上下手に避けても戦闘慣れしていない俺では攻撃を食らうと判断し、ケンタウロスではなく石の槍を標的とし、攻撃することを選んだ。

 『スラッシュ!』

 頭に移るのは相手の石の槍に対し、真正面から斜め下に断ち切るイメージだ。

 俺はイメージを体でなぞった。右手に持った剣を左肩に乗せるように引き、そのまま石の槍の先とぶつかるように右斜め下に振り下ろした。

 青いエフェクトがヴォータルソードを纏い、白いエフェクトを纏う石の槍にガンッ!という音とともにぶつかった。

 拮抗は一瞬、ヴォータルソードが石の槍を粉砕した。


 ケンタウロスはスキルの反動のためか俺の前を通り過ぎ、そのまま女の子の元に駆けて行った。  どうするつもりかと思った直後、ケンタウロスは女の子を抱え、森の中へ消えて行った。


 「ハハッワロス(ちょっと待てよ!)」


 なんていう咄嗟に喋ってしまった俺の制止に答えるはずもなく、見えなくなってしまった。







 アザルドは私の命令を聞いて、雄叫びを上げて男の人に向かっていった。

 最初はすぐに決着がつくと思った。

 アザルドは、ケンタウロスは魔物の中でも高い知能と力を持ち、巧みな戦術と力で魔物の中でも強い部類に入り、町の自衛団の人に頼まれて模擬戦をした時もあっさり勝ってしまったくらいだ。

 それなのに……あの男の人は未だに戦っている!


 アザルドの強靭な足の筋肉を武器に使った強力な蹴りでさえあの男の人は剣で受け止め、痛みは全くないとでも言いたげに身構えている。

 それどころかアザルドと真正面からぶつかり、アザルドを押し返してしまった。

 嘘だ。アザルドより力があるなんて信じられない。

 このままじゃ負ける…..?アザルドが負ける?

 嫌だ…嫌だ…アザルドが負けるなんて……嫌だ!


 「アザルド!……負けないで!」


 言葉は簡単に口から出た。アザルドが負けないように必死に祈った。

 もはや強盗犯捕まえたら報奨金で贅沢できるなんて考えはどこにも残っていなかった。

 アザルドは私の期待に応えるように全力で突進した。右手に持つ石の槍から白い光が出ている。何かの スキルを発動しているようだ。アザルドがスキルを使うところを始めてみた。

 綺麗な白い光だ。

 これならアザルドは負けない!

 瞬きした瞬間にアザルドは男の人の前におり、白く光る石の槍を突き出していた。


 だけど次の瞬間。

 男の人の剣が放つ青い光の前にアザルドの石の槍は……粉砕されてしまった。


 「うそ…」


 私はアザルドが負けたという現実の前に呆然としていると、アザルドが駆け寄ってきて私を抱き上げ、森の中へ入って行った。

 ケンタウロスは非常にプライドが高く、戦闘で負けたら死を選び、背を向けて逃げることを良しとしない種族だったはずだ。だけど自分では勝てないと分かったのだろう。主人である私を守るために、敵に背を向けて逃げている。

 自分のプライドより私の命を優先してくれているのだ。私はせめてお礼を言おうとアザルドの顔を見ようとした。


 「ハハッワロス」


 だけどお礼は言えなかった。

 悔しかった。

 私よりアザルドはもっと悔しいだろう。負けた上に逃げることを笑われているのだ。

 だけど私はアザルドに抱きつきながら泣いてしまった。私なんかよりアザルドはもっと悔しいはずなのに。だけどそんなこと気にしないと言わんばかりに、アザルドは武骨な大きな手で頭をなでてくれた。

 アザルドの顔を見ることはできなかったけど、アザルドの手からやさしさが伝わってきた。


 「アザルド…次は勝とうね…」


 無茶なお願いだと分かっていても言ってしまった。

 だけどそんな私をアザルドは優しく撫で続けてくれた。


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