第一話
第一話
森の中を歩き続けて数分が経っただろうか、太陽が真上から西に傾き始めている。良く分からない森の中で野宿なんていう事はできるだけ避けたいところなのだが。
歩きながら考える。
ポーションの効果を検証した時に剣で指を少し切ったが、血も出ていて中の肉も少し見えていた。
つまりゲームのように生命力が減ろうと全力で戦えるなんていうのは無理な話だということだ。現実世界と同じように怪我をすれば怪我をする、生命力だけ減るなんてことは起こらないのだ。
モンスターと戦うことになったとして俺はそいつを殺せるのだろうか、間違いなくグロ注意な光景になってしまう。
それ以前にいくらモンスターとはいえ生き物を殺すことができるのかということだ。頭に血が上って逆上しているときなら可能かもしれないが、ある程度平静を保っている状態で殺すことができるのかは分からない。こればかりは一度モンスターと相対してみないと分かりそうにない。
剣での素振りやスキルを使ってみた感じからすると、現実世界の熊とかライオンとかなら襲いかかってきても一撃で殺すことができると思う。
問題は俺がそのグロ注意に耐えられるかどうかということだ。俺の攻撃方法は剣、つまり近接攻撃だ。相手を切る感触が手を通して伝わってくるに違いない。
ゲームの中では敵を倒すと数秒後、少しの黒い光のエフェクトとともに消えていき、ドロップアイテムをランダムで落としていった。
それと同様にモンスターを殺したとしても数秒後には死体も返り血も消えてなくなればいいのだが、遺体そのまんま、返り血そのまんま、ドロップアイテム欲しかったら遺体から剥ぎ取ってね♪という展開になれば精神的におかしくなるかもしれない。
こればっかりは実戦あるのみで考えていても仕方ない。俺は『MAP』をイメージし、レーダーを注意深く確認しながら進むことにした。
さらに森の中を歩き続けて数分、レーダーに赤い点が映った。初戦闘になるかもしれない、どんな相手が出てくるか分からないが最悪逃げよう。
自分で自分に活を入れ、ヴォータルソードを鞘から抜き、森の中を注意深く見まわした。
森の一点に黒い体毛が見えている。距離は大体30mといったところだろうか、つまりレーダーの感知できる範囲は半径30m程度ということだろうか。
モンスターを殺すか殺さないかの瀬戸際なのにえらく落ち着いて思考することができる。
これなら躊躇なくモンスターを殺すことができるかもしれない。
襲ってくる気配はない、此方に気付いてないのだろうか、ゆっくりと近づいてみることにした。しかしなかなかでかい。頭隠して尻隠さずという状態だが2m位はありそうだ。
30m…25m…20m…15m! 距離を詰めていくと相手がこちらに気付いたようで姿を現した。
ゲームでは相手の名前と生命力ゲージを見ることができたのだが、見ることはできないようだ。出てきたモンスターはイノシシっぽい奴、ゲームの中ではなんとかボアという名前だった気がする。
ボア系のモンスターは初心者や魔法使い泣かせと言われている。
ボア系モンスターは『突進』と通常攻撃でしゃくりあげのような攻撃しか使ってこないが、『突進』し始めたボアを殺しても、死体が数秒残るように、当たり判定も数秒残っている場合があるのだ。そのため、敏捷をあげていないプレイヤーや魔法使い特化のプレイヤーは移動速度が遅いので避けきれず、殺したのにダメージを食らって死ぬことがある。
一番の倒し方は相手が『突進』してきたら左右どちらかに避け、スキルを叩き込むことだ。
お見合いしたかの状況が数秒続いたが、イノシシもどきが耐えきれなくなったのか予想通り『突進』してきた。
突進し始めると小回りは効かないので、ある程度近づかれたら左右どちらかに避けスキルを叩き込む。この距離とスピードなら『ステップ』のスキルを使う必要はない。
ブヒィ!という雄叫び?とともに突進してきたイノシシもどきを左に余裕を持って避け、相手の後ろを追いかけるようにして『スラッシュ』を放った。
イメージの通りに右手に持ったヴォータルソードを左肘に引き付け、遠心力を使いながら切り払う。
同時に青いエフェクトが発動し、イノシシもどきをまるで鋏みで紙を切るかのように綺麗に横に両断した。
吹き出る血、なんか色々臓器のようなものも見えるが、剣圧のお蔭かあまり返り血はかからなかった。
――グロ過ぎじゃないか!
グロ注意のイノシシもどきを眺めていると黒いエフェクトと共にイノシシもどきの死骸は消え去った。 消え去ると同時に返り血も綺麗さっぱり消えていた。消え去った場所には、お肉ですよ♪といわんばかりの赤ん坊くらいはありそうな生のお肉が転がっていた。
ここまででかい肉の塊を生で見たのは初めてだわ。
モンスターを殺しても死体はちゃんと消えることに安堵しながらドロップアイテムであろうお肉を触ってみた。
触ってみると『ウッドボアのお肉を収納しますか?はい/いいえ』というディスプレイが表示された。イノシシもどきの正式名称はウッドボアという名前のようだ。『はい』を選択すると、白い光のエフェクトと共に目の前にあったお肉はなくなった。『アイテム』を見てみると、たしかに『ウッドボアのお肉』が追加されていた。
初戦闘を無事に切り抜け、少し気持ちが楽になった。
意外なことにモンスターを殺したことによる罪悪感なんてものは欠片もわかなかった。
見た目はイノシシだったのだし、多少はあるかと思っていたが時間が少し経った今でも何の感情もわいてこない。
分かったことは、モンスターは死亡するとゲーム同様消えてなくなる。でも消えるまではグロ注意。
モンスターのドロップアイテムに触ると『アイテム』として収納するかどうかの選択肢がでてくる。といったところだろうか。
しかしまぁ分かっちゃいたが、俺かなり高スペックだな。
一応レベル的には126と準廃人クラスのレベルまで育てているからというべきか。
ウッドボアがどれだけの強さに位置するのか覚えていないが、強さの違いすぎる敵が同じMAPにいるなんてことはまずないのでこの森の中では戦闘になっても問題ないだろう。
中にはボスモンスター、同じMAPの中だが飛びぬけて強い敵というのもいるが、先ほどのウッドボアの雑魚さ位からすると出てきたとしても問題ないと思われる。
グロ注意の光景で少し気分が悪くなったが、死体処理などに困らなくていい事や、無双プレイ確定なんじゃないかという事が沈んでいた気持ちを綺麗さっぱり拭い取った。
気持ちがかなり軽くなった俺は歩きから走りに変更し、森の中を駆けて行った。
神聖な場所であるかのような、建物のほとんどが白一色で塗られている教会がある。そこは神父の元、親の不幸で身寄りがなくなった子供や親に捨てられた子供達が生活している場所だった。
「神父様!それでは私は薬草を摘んできますね」
そこで会話していたのは白い衣服を身にまとい、いかにも私神父です。と言わんばかりの神父の格好をした神父と、白い服にピンクのエプロンをつけ、頭に赤い頭巾をかぶった少女から女性に成長しようとしている女の子だった。
「いつもすまんの。滅多なことで魔物が現れることはないが、出たら迷わず『魔石』を使って逃げるんじゃぞ」
「分かってますよ!」
私の名前はアリサ、今年で15歳になる。今この教会にいる子供の中で一番年上のお姉さんだ。
神父さんは私のような身寄りのない子供を引き取って、学問や生きる術、命の大事さを教えていた。
ギルドや、教会で育ち巣立っていった大人たちから援助金は出ているものの、戦争の弊害や魔物の襲来で援助金の額自体はあまり多くなく、常に生活は質素なものだった。
だから私は毎日ポーションの元となる薬草を森に摘みに行っては道具屋に売りに行っているのだ。少しでも贅沢ができるようにと!
準備は万端!『魔石』も持った!籠も持った!忘れ物はないぞ!
私は神父に森に行くことを伝え、教会の扉を開けた。
教会の外には私より小さな子供達が鬼ごっこをしているようで、一人の少年から笑いながら逃げ回っていた。すると私がいつも通り森に行くことに気付いたのか、一人の女の子が近づいてきた。
「おねーちゃん行ってらっしゃい!」
「行ってくるね、ミュン」
私は見送りに来てくれた女の子、ミュンの頭を撫で教会を後にした。
この森は古くから精霊の加護がかかっていると言われており、時折精霊が姿を現すことから精霊の森と言われている。精霊は自然の多いところに生きているようで、こちらから手を出さない限り人間に害はなく、困っているところを助けられたなんて言う人も多いようだ。
私はいつも通り精霊の森に入り、薬草が生えている場所へ向かった。
町の周りには薬草が生えていないので少し森の奥に入らなければならない。森の奥に行くと魔物が出てくる可能性もあるので、そんなときのための『魔石』だ。
薬草はマナの多いところでしか生えないため、ある程度どこに生えているかは検討が着くのだ。前回生えていていたところの近くに生えるのだ。場所を覚えればいつでも摘みにいくことができた。
子供のころは庭に植えたら摘みに行く必要ないんじゃないのと思ったけど、庭に薬草を植えたところで次第に痩せていき、最後には枯れてしまうのだ。
そうこうしているうちに薬草が生えているポイントその1に到着した。私の把握している場所は全部で7つ、摘んでもいつの間にか生えているので日に日に場所を変えながら摘んでいるのだ。
「ん~ここには生えてないなぁ」
ポイントその1の周辺を探ってみたが薬草は生えておらず、普通の草しか生えていなかった。いつもなら生えていておかしくないのだが。
生えていない所にいつまでもいても意味がないので、ポイントその2に移動することにした。
「ここにも生えてない……」
ポイントその2の周辺も薬草は見当たらない、ついてないなぁと思いながらもポイントその3に向けて移動した。
「ここもダメ~?」
全然まったく生えてない!いつもなら生えているはずなのに…ポイント1,2,3が全滅とはついていない。時間をあまりかけると心配されるのであと2つほど回ったら、今日は諦めて帰るしかないだろう。
ポイントその4に到着。もしかしてと思う気持ちはあったけど、やっぱり生えていない。
これは困る、今日だけ運よく生えていなかったというのなら分かるけど、もしかして私以外の誰かがこの採取ポイント見つけて摘んでいっちゃったのかなぁ。
くそう…仮に同業者がいるとして、ばったり同業者と遭遇して薬草の取り合いになったらどうしよう。 説明したら今度から諦めてくれないだろうか。別のポイントを探すというのも手間がかかるし、町から離れすぎると魔物に遭遇する危険が増えるかもしれない。
悩んでいてもわからないし、最後にポイントその5まで見に行ってみよう。
―――生えててよね!
私は焦る気持ちを抑えながらポイントその5へと急いだ。
俺はレーダーをちょくちょく見ながら走っていた。
するとレーダーに赤い草のようなマークが映っているのに気付いた。こんなマークはゲームにはなかったけどどうしたものか。赤色はモンスターの色だが草のマークというのが気になった俺はレーダーを頼りに草のマークの場所に近づいてみた。
進んでみると赤い草が生えているのが見えた。
これは…薬草(赤)か?
このゲームには『薬草学』というパッシブスキルがあり、スキルレベルを上げることでどの草が薬草として利用できるのかが一目でわかるスキルだった。もしかして『薬草学』スキルを上げていることでレーダーに赤い草のマークが映ったのかもしれない。
しかしこれは・・・検証する方法はなさそうだ。
試しに赤い草に触ってみると『薬草(赤)を収納しますか? はい/いいえ』という選択儀が出てきたので『はい』を選び『薬草(赤)』を収納した。
『薬草(赤)』は生命力系のポーションを調合する際に必要な材料アイテムだ。
――こりゃうめえ!
俺は手当たり次第に『薬草(赤)』を触っては収納し、触っては収納した。
回復魔法が使えない今、これはありがたい。町でポーションを買うにしても町によっては『ポーション(小)』しか買えない町もあったし、コミュニケーションが『ハハッワロス』状態では筆談で店主と交渉するしかない。
ゲームでは薬草は抜いてから1日経過することで生える設定になっていた。ゲーム内では1日の設定は48分だったが、この世界ではどうなっているだろうか。
ポーションはいくつあっても困ることはないからな!そう考えた俺はその後も周りを走り回ってレーダー頼りに『薬草(赤)』を収納していった。
いや~大量大量♪その後も採取しまくったお蔭かアイテム欄には『薬草(赤)×27』とある。
ゲーム内で採取した薬草はゲームをやめる前に全部調合していたので、1本も薬草が残っていなかったのだ。
これだけあれば『生命力ポーション(小)Lv3』なら27本作れるはずだ。俺の『ポーション調合』スキルはレベル28で、レベルを上げることで作れるポーションの数と質が上昇していくのだ。
アイテム名の横のLvに応じて通常のポーションより効果が高くなる。通常のポーション回復量×1.XでXのところにLvが入るシステムになっていたはずだ。
『生命力ポーション(小)』なら回復量は30、『生命力ポーション(小)Lv3』なら回復量は30×1.3の39になる。
大分寄り道をしてしまったので、また走って小道を進むことにした。
アイテム欄ばかり見ていたせいか、レーダーに映る青色のマーカーに気付くのが遅れた。
「あなたは・・・・誰?」
俺の目の前には美少女と言って過言ではない女の子が不安げな表情をしながらこちらを見ていた。 女の子が手に持った変な石を此方に向けているのが印象に残った。
第一話目はおそらくそのうち加筆修正します。




