初見殺し時間稼ぎ
「すみません、負けました」
「アレは仕方ない、相性が悪過ぎる」
「突入まで行けたら上出来だよ」
突撃する場所に待ち構えていた、相手が一枚上手だった。
「思い詰めすぎです。そういうのはチームが負けてからにして下さい」
「髪が砂まみれよ。といてあげるわ」
「……サンキュー」
ジュズが紅茶を持ってきて、シュヴァリィがブラシで髪を整える。
彼女が落ち着いてから、作戦会議を始めた。
「さて……どうする?」
一敗して、2回戦。
後がないこの状況で、タッグマッチに出場するのは、俺とイースの二人だ。
「……相手は相性最悪の人が来ると見ていいわ。けど、ラギナ君なら手札の数で対抗できる」
「オウ」
今俺が使える芯界は、「アメ」「火竜」「金属魔王」「刀」の四つだ。
相手がどれだけメタって来ようとも、どれか一つは通用するだろう。
ゴリ押しされるとキツいが、出力勝負をした場合、最後に立っているのはイースだ。
「あなた達ならやれるわ、勝ってきなさい」
「ウッス!」
「うん!」
シュヴァリィから激励を頂き、控室を出て、入場門へと向かった。
相手は……アメフト選手のようにガッシリした少女と、ピンク色のサングラスをした少女だった。
アメフトが反重力使いで、サングラスが念力使い。
俺をメタるのは諦めたようだが、代わりにイースをかなり手厚く対策している。
コレは……俺の働きで決まるな。
「イース、始まったらすぐ溜めろよ」
「分かってる」
最終確認をしてから、新たなアメ口に入れ、気合を入れ直し試合に臨む。
審判の女性が、チームの間で手を振り上げ、試合の開始を宣言した。
「開始!」
「Dream of bandy」
「Demetrular」
「Froatt heavyn」
「Empty s-psychit」
今回選択したのはアメの世界。
コレとイースのデメトルーラー以外は本戦で使っているので、まだ見せていないアメで、確実に対策をすり抜ける。
全てがアメの空間に、実家に帰ったような安心感を覚えつつ、アメの海を作っていく。
そして、相手の能力を検証するため、とりあえずジャンプをしてみた。
「おう」
まともに重力が機能しない、水中にいるかのような感覚。
これが、アメフトの能力、反重力のルール。
(能力的には、空気の比重を重くするいう方が正しそうだ)
俺は少し機動力が下がるくらいで済むが、問題はイースの方だ。
デメトルーラーは体が大きい分、影響を受けやすく、とても動きにくそうにしている。
(なるほど、こうして動きを鈍らせて――)
その時、世界の色が変わった。
俺を中心に、周囲数メートルがピンク色に色付いている。
「ヤベッ」
瞬時にアメの糸を張って自分を引っ張り、ピンク色の空間を抜け出した、直後。
色付いていた空間にあったアメが、消えた。
コレが、サングラスの能力。範囲を指定し、その中にある物を消滅させる。
指定から消滅まで少しラグがあるが、当たれば一発で即死だ。
一つ前の試合では、逃げれなかった選手を、審判が間一髪で助けていたけれど、もしものことを考えると、絶対に当たりたくない類の能力だ。
そして、こういった防御無視系の能力は、イースととても相性が悪い。
ブゥン
今度はデメトルーラーの胴が消失対象に指定された。
逃げようにも、地面と胴が繋がっているデメトルーラーは動けず、まともに消失を喰らう。
「ギアア!」
「抑えて! すぐ回復!」
胴が太いおかげで、半分程度は残り、地と魔王を繋いでいる。
そして、開始と同時に金属を食べて蓄えていたエネルギーを使い、再生した。
しかし、再生した側から、消失で削られていく。
「イース!」
完全に手詰まりになったイースを助けるべく、サングラスを叩こうと駆け出した瞬間。
「オメーの相手はオレだ」
アメフトが、重い空気を感じさせない動きで突っ込んできた。
即座にアメの壁を作ろうするが、アメの動きも遅いせいで間に合わず、腕でガードしたものの、あまりの威力に吹っ飛ばされた。
「チッ」
アメフトとの間にアメの壁を作って時間を稼ぎつつ、近接戦用にアメ型のハンマーを形作る。
「来い」
「オラァ!」
アメを突き破ってきたアメフトの拳を、ハンマーで迎え撃つ。
その衝突は、一瞬拮抗したが、勢いの差によって競り負け、体勢が崩れた。
「終わりだあ!」
「ッ!」
妙にフワッと浮き上がり、上から拳を叩き込まれそうになった瞬間、圧縮されたアメ玉を取り出した。
パァン!
圧縮から解放されたアメが炸裂し……相手の瞼がアメで固まる。
「なっ!?」
「食らえ!」
急な視界の暗転に戸惑った隙に、ハンマーを叩き込もうと振り上げ……範囲指定。
「チッ」
すぐにバックステップを踏むことで消失は回避した。
折角のチャンスタイムが終わり、相手の目が開く。
「……」
大量のアメ爆弾を見せつけ、アメフトの突撃を牽制して、一旦状況把握に努める。
デメトルーラーは金属ドカ食い中。
サングラスはデメトルーラーを削りつつ――しっかりとこちらを向いていた。
(デメトルーラーを抑えながら、こっちの援護までしてくるのか)
状況は、1vs1.5といったところ。
さらに、芯界の奥に押し込まれてるせいで、押し合いも部が悪い。
(こうなったら……初見殺しでアメフトを瞬殺するか)
幸い、この芯界なら初見殺しの手段は無数にある。
「……」
「……」
現在、膠着状態。
俺は近接戦は不利だと分かっているし、相手はトラップを警戒して詰めてこない。
しかし――人の世界で、悠長にしていいのか?
「行け」
先に動いたのは俺。
床に手を触れ、アメフトの足元にアメを作り出した。
それらは、ヘビのように動き出し、相手の足を絡めとろうとする。
「効くかんなもん!」
「違う、上」
サングラスが仕掛けに気づいたが、遅い。
アメフトがジャンプで足元のアメを躱し……天井から降ってきたアメに、捕まった。
「ああ!?」
天井からのアメ。
無から作り出す、特異なエレメント型だからできる不可避の初見殺し。
空気の比重が高いせいで落下が遅く、足しか拘束することができなかったが、十分だ。
足を床と結合させ、アメで雁字搦めに縛っていく。
「シッ!」
すぐに、ハンマーを振り上げながら突撃。
近づかれないように、進行先が消失空間に指定されるが、安置が一つある。
相方の近くだ。
「オオッ!」
全身全霊の疾走で敢えて突撃し、長い髪の一部を犠牲に、突っ切った。
後は、殴るだけ。
しかし、見逃しが一つあった。
消失を指定したのは、俺の周りだけでなく……アメフトの足元もだった。
パッ
足を拘束していた床が消え、拘束力が減少する。
そして、アメフトはその肉体で、体にまとわりついたアメを砕いた。
そして、ハンマーを振り上げた無防備な俺に、拳を振りかぶる。
「食らえ!」
「オラァ!」
ハンマーと拳が衝突し――呆気なくハンマーは破壊された。
その余波で……俺の腕まで砕け散った。
ハンマーを持っていたのは、アメで作った偽物の腕だった。
ジッと見ればすぐに偽物だと判別できる程度のクオリティだが、そんな余裕は地面に拘束されていた相手にはない。
「ッ!?」
一瞬生じる思考の空白。
その隙に、相手の懐に潜り込み、口を掴んだ。
「俺の、勝ちだ」
手から伸ばしたアメで鼻と口を塞ぎ、窒息させるいつもの勝ちパターン。
しかし、
グッ
アメフトが、俺の腕を掴んだ。
雑巾を絞るように握られ、骨がミシミシと悲鳴を上げる。
「ッ、無駄だ、離しゃしねーよ」
「――」
瞬間、視界にピンク色のフィルターがかかった。
消失指定空間。
アメフトを避けて、器用に俺だけを入れている。
「マズッ!」
すぐに抜け出そうとするが、アメフトに掴まれているせいで、動けない。
「あ――」
空間が捻じ曲がる感覚。
死を覚悟し、目を閉じた瞬間、空間の歪みが止まった。
「……」
目を開けると、そこは芯界の外、大会会場だった。
背後から審判さんの声がかかる。
「命の危険と判断し、救出させていただきました。異存はありますか?」
「……ありません、ありがとうございます」
何の力かはわからないが、とにかく助かったらしい。
安堵のため息を吐いてから、試合のモニターを見た。
気管まで塞いだつもりだったが、力づくで気道を開けられたらしい。
アメフト、サングラス、ともに健在。
対して、こちらはイースのみ。
1対2、しかも相性不利な相手。
けれど、
「まあ……勝ったかな」




