砂の上の戦艦
ごめんなさい、木曜は普通に忘れてました。
「なんかあっさりここまで来たけど、これ結構凄いよな」
芯界戦闘代表選抜準決勝。
世界大会は2チームまで出場できるので、今回勝利できれば世界大会進出が決定する。
「イケる気がしてきTA」
「油断しないで。今日の相手は強豪よ」
シュヴァリィが、相手の資料を控室の机の上に広げた。
今回の相手の能力は「蒼火を操るエレメント」「シャチの軍団」「浮遊空間のルール」「砂上戦艦」「エスパー自己強化」の五つだ。
「騎士団の名を背負っているだけあって、一人一人の実力が高い上に、連携も上手よ」
「賭博場をみてきたら、ボク達が2倍で相手側が1.3倍だった」
「……マジ?」
賭博の倍率が2倍にまで登ることはほとんどない。
さすが本職というべきか。
厳しい戦いになりそうだ。
「それと――」
「ん?」
「相手のチーム、選出段階の読み合いがかなり上手いみたい」
「……なんかズルしてんじゃね」
「それはねーだRO」
「とにかく。最善は尽くしたつもりだけど、各々、最悪の相手と当たる想定をしておいて」
「わかったよ」
珍しくシュヴァリィが弱気な言葉を吐いた。
「チームシュヴァリィの先発の方、準備お願いします」
「分かりました。じゃ、行ってくるZE」
今回の先発であるラミリが、ローラースケートを鳴らしながら、入場門へと向かった。
まずは、ラミリが勝てるのか。
「ラミリが不利な相手というと、砂上戦艦ですか?」
「……ああ、そうだな?」
ジュズがラミリを呼び捨てにしたことに戸惑い、一瞬フリーズしてしまった。
少し仲良くなったら、すぐに敬称を外す奴ではあるのだが……俺がいない間に何かあったのだろうか。
「ラギナ! 対戦相手!」
「ん?」
イースに言われて、モニターを見ると、ラミリ前には褐色の少女が立っていた。
相性最悪の相手、砂上戦艦の操舵手、サンサン。
「よろしくね、おねーちゃん!」
「……マジKA」
ラミリの頬に冷や汗が流れる。
冷静になるため、少しシャボン玉を吹かしてから、サングラスとシャボンストローをしまった。
開始前から真面目モードに移行し、集中力を高めている。
「怯むな、やっちまえ!」
「ラミリ、頑張って!」
控室が届かない声援で騒がしくなる中、開戦の合図が放たれた。
「始め!」
「Iskace on the music」
「Warsandip」
ラミリからいつも通りの氷海が誕生し、すぐに彼女は舞い始めた。
変なミスをしていないことに一旦安堵してから、相手の芯界を確認する。
一面を砂が埋め尽くす、広大な砂丘。
その奥から、一隻の戦艦が、姿を現した。
全長数十メートル、多数の砲門やミサイルを備え付けた、砂の戦艦だ。
『打てぇ!』
ダンッ!
火薬が爆発する音と同時に、ラミリに向かって数発の砲弾が放たれた。
それらは空気中で破裂し、砂の雨となって襲いかかる。
「ッ――」
加速したラミリは、その速度で避けようと、中央のフィールドを降り、海面を滑走する。
しかし、いかんせん範囲が広すぎる。
直撃は逃れたものの、砂の影響でバランスを崩した。
転倒まではしなかった、音楽に乗っている判定から逸脱し、スピードが落ちる。
これが、この対面が絶望的な理由だ。
相手の広範囲攻撃で、ラミリのリズムを崩されてしまう。
さらに、ボス型だけあって防御力が高く、闇雲な突撃は通用しない。
『打てぇ!』
「厄介ですねッ!」
次々と砂の砲弾が放たれ、それによって加速が食い止められる。
しかし、ラミリもただではやられない。
氷海に浮かぶ氷山や、小高い砂丘を障害物にして砂を避け、少しづつだが、スピードを上げていく。
「いいぞ、上手く加速できてる!」
「でもあれ以上の加速はリスキーよ」
速度が上がると、当然バランスは取りにくくなる。
今はバランスを崩した時も、僅かな減速で立て直せている。
しかし、この少し残像が見える程度の速度からさらに加速すると、恐らく砲撃を受けた時に転倒するだろう。
さらに、
ダッダダッダン!
「ッ!」
急に砲弾を打つスピードが上がった。
砂丘を遮蔽にできる位置だったから助かったものの――相手の速度が緩やかに上がり始めている。
「これは……」
「相手も音楽に乗って加速してます」
初見の音楽に乗るのは難しいが、相手を圧倒しているなら余裕がある。
少しづつだがリズムに乗って加速している。
「……もう、行くしかないぞ」
時間は相手に味方している。
もう突っ込む他に道は無い。
そしてそれは、ラミリ自身が一番よく分かっている。
「――ラストスパート」
ラミリが噛み締めるように呟くと同時に、音楽の曲調が変わった。
終点に向かって急降下していくような曲。
それに乗って、ラミリは加速する。
これまでの詰めの盤面で使うラストスパートは違う、逆転を狙うためのラストスパート。
この数十秒の曲が終わってしまうと、音楽は止まり、もうラミリは加速できなくなる。
勝つには、ここで決め切るしかない。
ダッダダッ!
急に変わった曲調に適応できず、相手の大砲がリズムを崩した。
散発的になった砲弾の、僅かな安全地帯を縫って、ラミリは砂漠の中央に鎮座する、砂戦艦を目指す。
接触まで、残り五秒。
『ミサグラ!』
戦艦から爆弾のようなものが投下され、土煙を上げながら進み始めた。
おそらく飛ばない代わりに威力を高めたタイプのミサイルだ。
迂回して避ける余裕は、無い。
よって、最短で躱しながら、突っ切る。
ラミリは、無言でサングラスをかけ――砂丘をジャンプ台にし、飛んだ。
「アイキャンフラーイ!」
地走ミサイルを飛び越し、砂上戦艦へトライする。
『ッ、対空砲用意!』
飛び上がって格好の的になったラミリに砲門が向く。
当然、空中で身動きは取れない。格好の的だ。
そんな絶体絶命のピンチの中、ラミリは……左足のスケート靴を脱いだ。
『掃射!』
「おりゃああああ」
対空砲が発射されると同時に靴を投げ、砲弾を空中で撃ち落とした。
そして、残った右足のスケート靴のエッジを突き出す。
「メテオ、ストラアアイク!」
綺麗な一筋の流星が、砂の装甲をぶち抜き、ラミリは戦艦内部に侵入した。
無骨な戦艦の中。
ラミリはスケート履がない左足から立ちあがろうとする。
「ハァ、ハァ、本体は――」
「ここだよ」
その背後に、本体はいた。
……ラミリの後頭部に銃を突きつけて。
「すごかったよ、お姉ちゃん」
「……そうですか」
命を奪わない程度に威力を下げた、砂の銃弾が頭に当たり、死亡判定でラミリは敗北した。




