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芯界  作者: カレーアイス
第五章 歪な二人
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砂の上の戦艦

 ごめんなさい、木曜は普通に忘れてました。

「なんかあっさりここまで来たけど、これ結構凄いよな」


 芯界戦闘代表選抜準決勝。

 世界大会は2チームまで出場できるので、今回勝利できれば世界大会進出が決定する。


「イケる気がしてきTA()

「油断しないで。今日の相手は強豪よ」


 シュヴァリィが、相手の資料を控室の机の上に広げた。

 今回の相手の能力は「蒼火を操るエレメント」「シャチの軍団」「浮遊空間のルール」「砂上戦艦」「エスパー自己強化」の五つだ。


「騎士団の名を背負っているだけあって、一人一人の実力が高い上に、連携も上手よ」

「賭博場をみてきたら、ボク達が2倍で相手側が1.3倍だった」

「……マジ?」


 賭博の倍率が2倍にまで登ることはほとんどない。

 さすが本職というべきか。

 厳しい戦いになりそうだ。


「それと――」

「ん?」

「相手のチーム、選出段階の読み合いがかなり上手いみたい」

「……なんかズルしてんじゃね」

「それはねーだRO()

「とにかく。最善は尽くしたつもりだけど、各々、最悪の相手と当たる想定をしておいて」

「わかったよ」


 珍しくシュヴァリィが弱気な言葉を吐いた。



「チームシュヴァリィの先発の方、準備お願いします」

「分かりました。じゃ、行ってくるZE」


 今回の先発であるラミリが、ローラースケートを鳴らしながら、入場門へと向かった。

 まずは、ラミリが勝てるのか。


「ラミリが不利な相手というと、砂上戦艦ですか?」

「……ああ、そうだな?」


 ジュズがラミリを呼び捨てにしたことに戸惑い、一瞬フリーズしてしまった。

 少し仲良くなったら、すぐに敬称を外す奴ではあるのだが……俺がいない間に何かあったのだろうか。


「ラギナ! 対戦相手!」

「ん?」


 イースに言われて、モニターを見ると、ラミリ前には褐色の少女が立っていた。

 相性最悪の相手、砂上戦艦の操舵手、サンサン。


「よろしくね、おねーちゃん!」

「……マジKA()


 ラミリの頬に冷や汗が流れる。

 冷静になるため、少しシャボン玉を吹かしてから、サングラスとシャボンストローをしまった。

 開始前から真面目モードに移行し、集中力を高めている。


「怯むな、やっちまえ!」

「ラミリ、頑張って!」


 控室が届かない声援で騒がしくなる中、開戦の合図が放たれた。


「始め!」

Iskace(アイスケイス) on(オン) the() music(ミュージック)

Warsandip(ワーサンディープ)


 ラミリからいつも通りの氷海が誕生し、すぐに彼女は舞い始めた。

 変なミスをしていないことに一旦安堵してから、相手の芯界を確認する。


 一面を砂が埋め尽くす、広大な砂丘。

 その奥から、一隻の戦艦が、姿を現した。

 全長数十メートル、多数の砲門やミサイルを備え付けた、砂の戦艦だ。


『打てぇ!』


ダンッ!


 火薬が爆発する音と同時に、ラミリに向かって数発の砲弾が放たれた。

 それらは空気中で破裂し、砂の雨となって襲いかかる。


「ッ――」


 加速したラミリは、その速度で避けようと、中央のフィールドを降り、海面を滑走する。

 しかし、いかんせん範囲が広すぎる。

 直撃は逃れたものの、砂の影響でバランスを崩した。

 転倒まではしなかった、音楽に乗っている判定から逸脱し、スピードが落ちる。


 これが、この対面が絶望的な理由だ。

 相手の広範囲攻撃で、ラミリのリズムを崩されてしまう。

 さらに、ボス型だけあって防御力が高く、闇雲な突撃は通用しない。


『打てぇ!』

「厄介ですねッ!」


 次々と砂の砲弾が放たれ、それによって加速が食い止められる。

 しかし、ラミリもただではやられない。

 氷海に浮かぶ氷山や、小高い砂丘を障害物にして砂を避け、少しづつだが、スピードを上げていく。


「いいぞ、上手く加速できてる!」

「でもあれ以上の加速はリスキーよ」


 速度が上がると、当然バランスは取りにくくなる。

 今はバランスを崩した時も、僅かな減速で立て直せている。

 しかし、この少し残像が見える程度の速度からさらに加速すると、恐らく砲撃を受けた時に転倒するだろう。


 さらに、


ダッダダッダン!


「ッ!」


 急に砲弾を打つスピードが上がった。

 砂丘を遮蔽にできる位置だったから助かったものの――相手の速度が緩やかに上がり始めている。


「これは……」

「相手も音楽に乗って加速してます」


 初見の音楽に乗るのは難しいが、相手を圧倒しているなら余裕がある。

 少しづつだがリズムに乗って加速している。


「……もう、行くしかないぞ」


 時間は相手に味方している。

 もう突っ込む他に道は無い。

 そしてそれは、ラミリ自身が一番よく分かっている。


「――ラストスパート」


 ラミリが噛み締めるように呟くと同時に、音楽の曲調が変わった。

 終点に向かって急降下していくような曲。

 それに乗って、ラミリは加速する。


 これまでの詰めの盤面で使うラストスパートは違う、逆転を狙うためのラストスパート。

 この数十秒の曲が終わってしまうと、音楽は止まり、もうラミリは加速できなくなる。

 勝つには、ここで決め切るしかない。


ダッダダッ!


 急に変わった曲調に適応できず、相手の大砲がリズムを崩した。

 散発的になった砲弾の、僅かな安全地帯を縫って、ラミリは砂漠の中央に鎮座する、砂戦艦を目指す。


 接触まで、残り五秒。


『ミサグラ!』


 戦艦から爆弾のようなものが投下され、土煙を上げながら進み始めた。

 おそらく飛ばない代わりに威力を高めたタイプのミサイルだ。

 迂回して避ける余裕は、無い。

 よって、最短で躱しながら、突っ切る。

 ラミリは、無言でサングラスをかけ――砂丘をジャンプ台にし、飛んだ。


「アイキャンフラーイ!」


 地走ミサイルを飛び越し、砂上戦艦へトライする。


『ッ、対空砲用意!』


 飛び上がって格好の的になったラミリに砲門が向く。

 当然、空中で身動きは取れない。格好の的だ。

 そんな絶体絶命のピンチの中、ラミリは……左足のスケート靴を脱いだ。


『掃射!』

「おりゃああああ」


 対空砲が発射されると同時に靴を投げ、砲弾を空中で撃ち落とした。

 そして、残った右足のスケート靴のエッジを突き出す。


「メテオ、ストラアアイク!」


 綺麗な一筋の流星が、砂の装甲をぶち抜き、ラミリは戦艦内部に侵入した。


 無骨な戦艦の中。

 ラミリはスケート履がない左足から立ちあがろうとする。


「ハァ、ハァ、本体は――」

「ここだよ」


 その背後に、本体はいた。

 ……ラミリの後頭部に銃を突きつけて。


「すごかったよ、お姉ちゃん」

「……そうですか」


 命を奪わない程度に威力を下げた、砂の銃弾が頭に当たり、死亡判定でラミリは敗北した。


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