大怪獣バトル
鉄くずの世界が広がる。
イースとは違い、空が晴れていたり、鉄くずにどこか秩序があったりと、生気を感じる世界だ。
そして、その中央に立つのは、金属の魔王、デメトルーラー。
「キリリ」
「頼むぞ……」
俺のデメトルーラーの体長は三十メートル。
魔王には足りず、四天王という感じだが、それでも十分だ。
「とりあえず、エネルギー補充」
「キィ!」
整列した鉄くずを、デメトルーラーが片っ端から口に放りこみ、取り込んでいく。
その間に、相手の様子を確認した。
自我の強い生物は、芯界を使うことがある。
とはいっても、人間よりは断然弱く、自分の周囲数メートルを確保することしかできない。
デメトルーラーより、少し小さな青いドラゴンの足元には、鏡のような湖が広がっていた。
(足元の攻撃は通じない。地形変化ではなく、直接殴り飛ばすのが吉か)
鉄を食したことで、形態変化のエネルギーは溜まっている。
十種類あるなかで、選んだ形態は――
「帯電」
「キキキキ」
バチバチ!
鉄の中の電子を操って、腕を帯電させるモード。
相手は水のエレメントも複合している。電気は刺さるだろう。
「よし、来い!」
「ヴァア!」
四本足走行だったドラゴンが後ろ足で立ち上がり、鋭い爪を携えた右手を振りかぶった。
デメトルーラーは左手を握って構え――金属の腕とドラゴンの爪が激突する。
ギィン!
一瞬押されたが、電気で上手く力が入らないお陰か、すぐに拮抗した。
「キィ!」
「ヴゥ!」
双方、同時に余った腕を引き、激突。またもや拮抗する。
どこかの特撮で見た、大怪獣同士のパワーのぶつけ合い。
その結果は……電気の影響で、少しデメトルーラーが勝っている。
「ヴゥ!」
ガァン!
このままでは不利と見たドラゴンは、二本の尾をはためかせ、デメトルーラーの胴体に打ち付けた。
不意の攻撃に、デメトルーラーの体勢が崩れる。
上から押しつぶされる形になり、さらにドラゴンは口を開いて――ブレスの用意をした。
「ヴァア!」
「マズッ!」
「キア!」
デメトルーラーは一瞬力を抜き、意表を突かれてバランスを崩したドラゴンのパワーを利用し、力いっぱいぶん投げた。
「ヴヴ」
投げられたドラゴンは、翼を上手く使い、宙返りしてから着地。
こちらも体勢を立て直し、ドラゴンを睨む。
「大丈夫か?」
「キィ!」
パワーは、ギリギリ勝っている。
しかし、それ以外が酷い。
デメトルーラーは下半身が埋まっているため、自由に動けるのは、腕と頭くらいだ。
それに対して、ドラゴンは手足両方自由なうえ、二本の尾、口からのブレスまである。
このままでは、多彩な攻撃で押し切られる。
「「オリジナルならパワーで押し潰せたんだろうけど……」
「ギリィ!」
「分かってるって。お前にはお前の良さがある。モード、アシュラ!」
「ギィ!」
デメトルーラーの肩が下がり――モリモリっと、新しい腕が生えた。
四本腕の、アシュラ。
帯電もまだ残っている。形態の二重掛けだ。
これは、不器用なイースにはできない。
「ヴゥ!」
こちらの変化に警戒したのか、ドラゴンは翼を羽ばたかせて飛び上がり、遠距離からブレスの用意をした。
それに対して、デメトルーラーは三本の腕でガードの姿勢を取る。
「ヴァアア!」
水のドラゴンらしく、激流のブレス。
数千メートル級の滝のような激流が、デメトルーラーを襲う。
だが、しっかりと三本の腕でガード。俺に水一滴も触れないよう、こまめに腕の位地を調整する。
そして、残った腕は――エネルギー摂取のため、辺りから鉄を拾って食べていた。
ギャリ!
授業中に先生に隠れて弁当を食べてるような、変なシュールさに笑いそうになりつつも、なんとか堪え、反撃の指示を出す。
「鎖!」
「キィ!」
ギリリリリ!
食べていた腕が鎖になり、上空のドラゴンを捕えた。
そのまま、力任せに地面に叩きつける。
ドガァン!
「ヴァア!」
「ギイ!」
強く背を打ち付けて、意識が怪しくなったドラゴンを、追撃。
身を乗り出して、腕の一本を鋭い剣に変化させ、心臓を一突きにしようとする。
「勝った」と思った瞬間。
「ヴゥ」
「な!?」
ドラゴンの足元。
鏡のような湖から、もう一本、腕が這い出し、とどめを刺そうとした剣を握って止めた。
その間に、ドラゴンは起き上がって体勢を立て直す。
(なるほど、鏡面から、身体が出て来るのか)
どこまで取り出せるかは分からない。
が、最悪の場合――
「ヴァアアアア!」
「ッ! 防御に全集中!」
「キィ!」
ザアアアアアアアアア!
四本の腕の形態変化を解き、その全てでガードする。
次の瞬間、ドラゴンの口と、足元の鏡の口から、二本のビームが放たれた。
単純計算で、威力はさっきの倍。
鉄を食べる余裕など一切無く、それどころか……少しずつ、腕が削れている。
「やばいやばいやばい!」
「キィ!」
打開策を用意しようにも、ガードを緩めた瞬間に死ぬ。
先に仕組んでいた仕掛けも無い。
希望があるとすれば――俺には、仲間がいる。
「Iskace on the music、メテオストライク!」
急に氷海ができたかと思うと、ラミリが背後からドラゴンに迫り、上口に鋭い右足のキックを食らわせた。
鋭い一撃に、ブレスが途切れる。
「ヴヴ!?」
「ラミリ!」
「決めなさい!」
「ああ!」
「キィ!」
再度身を乗り出し、腕を剣に変化させる。
腕でガードしようとしたが、それはラミリが妨害し――
「……中々カッコいいドラゴンだったよ」
剣が、心臓を貫いた。
心臓を無くしても、まだ抵抗しようとしたが、次第に力が弱くなり、やがてぐったりと動かなくなった。
デメトルーラーに礼を言い、芯界を解除しながら、ラミリに近寄る。
「ラミリ、援護ありがとう」
「おU! 間に合って良かったZE」
「っと、それより、このドラゴンをしっかり処理しないと。シュヴァリィに見つかると――マズいかもしれない」
「え……オレっち、シュヴァリィ連れてきちゃったよ」
「……え!?」
急いで芯界を維持しようとしたが、疲労した俺には無理だった。
俺とラミリ、そしてドラゴンの死体が、水爆で抉れた森に現れる。
「やばいやばいやばい! ラミリ、これ取り込めるか!?」
「いや、生きているならまだしも、こんなデカい物体、すぐには無理――」
その時、俺とラミリに巨大な影が被さった。
振り返ると――ドラゴンが、立ち上がっている。
「ヴヴゥ」
「ウッソだろ!?」
心臓が無いなか、口に最後のエネルギーが集まる。
再度芯界に取り込もうとするが、間に合わない。
激流が俺たちを襲おうとした刹那。
「ミレイク?」
森から、シュヴァリィの声が聞こえた。
「来るな!」と言いかけたが、シュヴァリィを見たドラゴンからは、殺気が失せていた。
疑問に思う一方、「やはり」と思う心もあった。
「ヴゥ」
「危ねE!」
ドラゴンは、ヨロヨロとシュヴァリィに近づき、指を彼女の頭に乗せ――完全に息絶えて、倒れ込んだ。
呆けてしまったシュヴァリィに、予感を確定させるため、質問をする。
「シュヴァリィ、コイツは……」
「……ミレイク。私の父、ヴァリア・ユートロンのドラゴンよ」
少し補足。
ユートロンは、祖先にドラゴンを持っており、あり方がそれに引っ張られて、芯界にドラゴンが出やすいです。
シュヴァリィの父、ヴァリア・ユートロンの芯界はボス系のDragmirakeであり、水を使う青いドラゴンが一匹生息しています。
芯界の名称からも、ミレイクの愛称で呼ばれていました。
デメトルーラー然り、ボス系は芯界名が愛称になりやすいです。