炎上森
最近早い!
えらい!
授業から明後日。
俺たち軍学科の学生は、王都の近くの森、炎上森の前に集まった。
眼前に広がるのは、うっそうとした暗い森。
勿論、炎上森と呼ばれるには、それだけの理由があり――
「ヴォアア!」
獣の声がしたかと思うと、森から火が上がった。
このように、この森には火を扱う生物が、数多く生息している。
当然、火を吹く以上、自らも火に耐性を持っており、盾と矛のバランスが取れるおかげで、ギリギリ生態系が成り立っているらしい。
あと、森の植物が水を多く含んでいるので、火が広がりくいという特徴もある。
『基本は芯界生物と戦うのと大差ありません。違いは、散発的に襲ってくるので、一々芯界に引き込んでいると、バテることですかね』
先生が得意気に解説した。
背後では、炎を吹く犬と火を纏った小鳥の勝負が繰り広げられており、カオスな現場になっている。
「こ、ここで何をするんです?」
『軍学の実践ですよ。これから、四人一組のチームで、ここの危険生物を……そうですね、十匹、狩ってきてもらいます』
「じゅ、十匹!?」
『時間制限は授業時間が終わるまで。課題が達成できなかった場合は、単位をあげません。十分後に始めるので、それまでにチームを組んで下さい』
「えええええ!」
みんなから驚愕の声が上がった。
単位をこんなに雑に配るとは。
まあ、一時間半で十匹なら、余裕だろう。
俺は、騎士団時代にここの調査に来たことがあるが、一匹一匹はシュヴァリィのドラゴンより弱い。
唯一警戒するのは、見通しのよくない森林で、不意打ちされることだが、それも四人いればどうにかなるし、チームに一人くらい索敵能力持ちはいるだろう。
チームメンバ-は、シュヴァリィとラミリまではいいとして、あと一人をどうしようか。
(まあ、仲良しグループで組んで、余った人を適当に入れればいいか。軍学科の人なら、大体誰とでも話せるし、むしろ仲良くなれるいい機会かも)
そう考えて、まずはシュヴァリィとラミリと意識共有をしようとした時、ポンっと方に手を置かれた。
振り返ると、そこにいたのは、ヒルトレイヴ先生だった。
「何ですか?」
『あなた、この森に入った経験ありますよね? 面白くないので、今回ラギナ君には、監督側に回ってもらいます』
「……単位は?」
『しっかりできたら、ボーナスしてあげます』
「ヨシ」
一応、シュヴァリィにも聞いておく。
「ってことで、離れることになるけど、いい?」
「当然」
「でも、俺無しでチーム組めるの?」
「……バカにしないで。すぐに組んでみせるわ」
勢いのまま、人の群れに突っ込んで行った。
あれだけ気合があれば、組めないなんてことは無いだろう。
それを見送ってから、先生に向き直った。
「で、監督役って、何するんです?」
『焦らない。もう少しで、協力者が――来ました』
「どうも」
ゾワッ
身の毛のよだつ、深く暗い深淵から響く声。
本能的に距離を取りながら、振り返ると、そこには獣がいた。
寝ぐせが残っている、ボサボサな深緑色のロングヘア―に、長い前髪から、暗い印象を受ける。
俺が見上げる構図になるくらいの、高い身長に、どこかパワフルさを感じる肢体。
鋭い赤眼とギザギザの歯から、とても攻撃的なイメージがあった。
「どうした?」
「いや……ちょっと驚いただけです」
声が低い。男の俺より低いのではないか。
張り詰めた空気を引き裂くよう、先生が彼女の肩に手を置いた。
『監督役バイトを募集したら、すぐに応募してくれた、ジャックハート・トラヴェッドさんです』
「よろしゅう」
「……よろしくお願いします」
先輩のようなので、敬語で挨拶し、差し出された手を握って握手した。
握った手からも分かる。この人、かなり強い。
『時間が無いので、とりあえず監督役の役割だけ教えておきますね』
「はい」
隣に並ばされたが、怖いので少し距離を取った。
『やることは大きく二つ。一つ目――最優先は、生徒の安全の確保です。危なそうな生徒がいたら、助けて下さい』
「はいはい」
『二つ目は、普通に監視ですね。例えば、二チームが合体して八人で動くとかは、今回の趣旨に当てはまらないので、報告して下さい』
「それ、チクり魔って嫌われるやつじゃ……」
『そう思われないよう、隠密も徹底して下さいね。では、私は一人で動きますが、そちらは二人で固まって監督をして下さい』
「……はい」
「了解じゃ」
何のトリックを使ったか知らないが、先生は一瞬で消え、怖い先輩と二人きりになった。
「……そういえば、まだ自己紹介してませんでした。ラギナ・アークエスです。この森に入ったことがあるので、監督に回されました」
「なるほど。隠密能力は?」
「無いです。自力でやります」
「ワシも無い。まあ、足並みを揃えやすいのは楽じゃなァ」
パワー型だろうし、隠密は性分では無いのだろう。
スッと目を閉じたかと思うと、さっきまでの威圧感というか、緊迫感が消えた。
「生徒より先に入る。付いてきィ」
「はい」
少し光ったかと思うと、ジャックハートさんの足が、細長く、力強くなっていた。
まるで、野生の動物かのように、身軽に森に突入する。
(自己強化系かな?)
クセで彼女の能力について考えつつ、芯界からアメを出して、某アメコミの蜘蛛男のように、木から木にアメの糸を引っ掛け、飛び移っていく。
途中、火を吹かれることもあったが、楽々アメでガードし、ジャックハートさんに付き従って、スイスイと進むこと、数分。
森の中に一本だけ高い木があり、その枝の一本で俺たちは立ち止まった。
「とりあえず、ワシらは音が聞こえたら急行するスタイルで行こうと思うとる」
「妥当なところですね」
火を使う以上、攻撃すれば目立つし、学生たちもやわでは無い。
一人が不意打ちでやられたとしても、チームメンバーが俺たちが到着するくらいまでは持たせるだろう。
「医療キッドは持ってます?」
「ああ、ヒルトレイヴの奴に持たされた。そういうお前は持っとらんのか?」
「ガチの非常用くらいです」
「じゃあ、中身を分けたる。まあ、アイツのことじゃし、どうせ準備時間なんか取らんかったんじゃろ」
「よく分かりますね」
「ワシも軍学科じゃけんの。アイツの雑さはよう知っとる」
喋り方から、厄介なじいさんのような印象を受けるが、老けているとは一切思わない。
ただの方言が強い人というか……どちらかというと、野犬のような攻撃性の方が気になる。
ドォン!
その時、爆発音が聞こえ、森の一部が炎上した。
「とりあえず、行ってきます」
「分かっちゃ。合流はこの木でいいか?」
「はい」
アメ糸を操って木を降り、発火したところまで向かう。
そんなに遠くも無いので、すぐに近くまで着いた。
そこからは、足音を殺し、気配を隠蔽して、様子を伺う。
「……やっと落ちた」
「これで二匹目か。このペースじゃ間に合わないから、スピードアップしてくよ」
生徒が、四人。落した火鳥を回収していた。
あまり面識が無いので、実力はよく分からないが、少し服が焦げているだけで、重体の人はいない。
(チーム……クヒアの動向は問題無し。いつもの四人グループだから、連携でなんとかなるか)
気配を殺したまま、彼女らから離れた。
他に情報も無いので、一旦ジャックハートさんの場所まで戻る。
木を登ってみると、彼女の姿は無く――『爆発があったから見て来る』とだけ書置きがあった。
先生の『二人で固まって動け』という指令はガン無視しているが、まあ大丈夫だ――
ザッバーン!
その時、爆発音がした。
場所は、森のかなり奥。
だが、さっきまでの爆発とは、音や爆風の感覚が全然違う。
火ではなく、水のような。
ここには火を使う生物しかいない。なぜなら、火に耐性がある生物しか、生き残れないから。
その中で水の爆発があったとすると、うちの生徒がやったとしか思えない。
あの爆発を起こさなければいけないほどに、鬼気迫った状態なのか、暴発しただけか。
「……何にしても、行くしかない」
緊急事態ゆえ、目立つがドラゴンに飛び乗って、木から飛び降りた。
その間にも次々と起こる爆風にこらえ、接近。
近づくと、段々見えてきた。
青い鱗。
巨大で強靭な手と足に、指と指の間には水かきがある。
シュヴァリィのより、かなり細長い胴体に、それを支える大きな翼を持った、ドラゴン。
「ヴアアアアアアアアアアアアア!」
「ウォータードラゴンじゃねーか!」
全長二十メートルはある、巨大なドラゴンがいた。
正直逃げたかったが、ドラゴンの前には、血まみれの人が倒れている。
同級生の、トトフさんだったか。
「トトフ! トトフ!」
「っと!」
ドラゴンに陽動を任せて、倒れている人の近くに飛び降りた。
かなりの重体。腹が裂け、ワタが見えかけている。
放っておけば、数分で死んでしまうだろう。
「ラギナ君!?」
「……アレは俺が引き受ける。手当しといてくれ」
チームメンバーの人に医療キッドを渡して、芯界を切り替えながら、ドラゴンの前に立った。
(炎のドラゴンは論外。アメも多分出力負けする)
今戦闘で使えるのは、残り一つだけ。
「Demetrular!」
「ヴァア!」
ルビのルビが入れられないので、ここで解説。
Dragmilake




