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芯界  作者: カレーアイス
第四章 芯界強奪事件
39/72

炎上森

 最近早い!

 えらい!

 授業から明後日(みょうごにち)

 俺たち軍学科の学生は、王都の近くの森、炎上森の前に集まった。


 眼前に広がるのは、うっそうとした暗い森。

 勿論、炎上森と呼ばれるには、それだけの理由があり――


「ヴォアア!」


 獣の声がしたかと思うと、森から火が上がった。

 このように、この森には火を扱う生物が、数多く生息している。

 当然、火を吹く以上、自らも火に耐性を持っており、盾と矛のバランスが取れるおかげで、ギリギリ生態系が成り立っているらしい。

 あと、森の植物が水を多く含んでいるので、火が広がりくいという特徴もある。


『基本は芯界生物と戦うのと大差ありません。違いは、散発的に襲ってくるので、一々芯界に引き込んでいると、バテることですかね』


 先生が得意気に解説した。

 背後では、炎を吹く犬と火を纏った小鳥の勝負が繰り広げられており、カオスな現場になっている。


「こ、ここで何をするんです?」

『軍学の実践ですよ。これから、四人一組のチームで、ここの危険生物を……そうですね、十匹、狩ってきてもらいます』

「じゅ、十匹!?」

『時間制限は授業時間が終わるまで。課題が達成できなかった場合は、単位をあげません。十分後に始めるので、それまでにチームを組んで下さい』

「えええええ!」


 みんなから驚愕の声が上がった。

 単位をこんなに雑に配るとは。


 まあ、一時間半で十匹なら、余裕だろう。

 俺は、騎士団時代にここの調査に来たことがあるが、一匹一匹はシュヴァリィのドラゴンより弱い。

 唯一警戒するのは、見通しのよくない森林で、不意打ちされることだが、それも四人いればどうにかなるし、チームに一人くらい索敵能力持ちはいるだろう。


 チームメンバ-は、シュヴァリィとラミリまではいいとして、あと一人をどうしようか。

 

(まあ、仲良しグループで組んで、余った人を適当に入れればいいか。軍学科の人なら、大体誰とでも話せるし、むしろ仲良くなれるいい機会かも)


 そう考えて、まずはシュヴァリィとラミリと意識共有をしようとした時、ポンっと方に手を置かれた。

 振り返ると、そこにいたのは、ヒルトレイヴ先生だった。


「何ですか?」

『あなた、この森に入った経験ありますよね? 面白くないので、今回ラギナ君には、監督側に回ってもらいます』

「……単位は?」

『しっかりできたら、ボーナスしてあげます』

「ヨシ」


 一応、シュヴァリィにも聞いておく。


「ってことで、離れることになるけど、いい?」

「当然」

「でも、俺無しでチーム組めるの?」

「……バカにしないで。すぐに組んでみせるわ」


 勢いのまま、人の群れに突っ込んで行った。

 あれだけ気合があれば、組めないなんてことは無いだろう。

 それを見送ってから、先生に向き直った。


「で、監督役って、何するんです?」

『焦らない。もう少しで、協力者が――来ました』

「どうも」


ゾワッ


 身の毛のよだつ、深く暗い深淵から響く声。

 本能的に距離を取りながら、振り返ると、そこには獣がいた。


 寝ぐせが残っている、ボサボサな深緑色のロングヘア―に、長い前髪から、暗い印象を受ける。

 俺が見上げる構図になるくらいの、高い身長に、どこかパワフルさを感じる肢体。

 鋭い赤眼とギザギザの歯から、とても攻撃的なイメージがあった。


「どうした?」

「いや……ちょっと驚いただけです」


 声が低い。男の俺より低いのではないか。

 張り詰めた空気を引き裂くよう、先生が彼女の肩に手を置いた。


『監督役バイトを募集したら、すぐに応募してくれた、ジャックハート・トラヴェッドさんです』

「よろしゅう」

「……よろしくお願いします」


 先輩のようなので、敬語で挨拶し、差し出された手を握って握手した。

 握った手からも分かる。この人、かなり強い。


『時間が無いので、とりあえず監督役の役割だけ教えておきますね』

「はい」


 隣に並ばされたが、怖いので少し距離を取った。


『やることは大きく二つ。一つ目――最優先は、生徒の安全の確保です。危なそうな生徒がいたら、助けて下さい』

「はいはい」

『二つ目は、普通に監視ですね。例えば、二チームが合体して八人で動くとかは、今回の趣旨に当てはまらないので、報告して下さい』

「それ、チクり魔って嫌われるやつじゃ……」

『そう思われないよう、隠密も徹底して下さいね。では、私は一人で動きますが、そちらは二人で固まって監督をして下さい』

「……はい」

「了解じゃ」


 何のトリックを使ったか知らないが、先生は一瞬で消え、怖い先輩と二人きりになった。


「……そういえば、まだ自己紹介してませんでした。ラギナ・アークエスです。この森に入ったことがあるので、監督に回されました」

「なるほど。隠密能力は?」

「無いです。自力でやります」

「ワシも無い。まあ、足並みを揃えやすいのは楽じゃなァ」


 パワー型だろうし、隠密は性分では無いのだろう。

 スッと目を閉じたかと思うと、さっきまでの威圧感というか、緊迫感が消えた。


「生徒より先に入る。付いてきィ」

「はい」


 少し光ったかと思うと、ジャックハートさんの足が、細長く、力強くなっていた。

 まるで、野生の動物かのように、身軽に森に突入する。


(自己強化系かな?)


 クセで彼女の能力について考えつつ、芯界からアメを出して、某アメコミの蜘蛛男のように、木から木にアメの糸を引っ掛け、飛び移っていく。

 途中、火を吹かれることもあったが、楽々アメでガードし、ジャックハートさんに付き従って、スイスイと進むこと、数分。

 森の中に一本だけ高い木があり、その枝の一本で俺たちは立ち止まった。


「とりあえず、ワシらは音が聞こえたら急行するスタイルで行こうと思うとる」

「妥当なところですね」


 火を使う以上、攻撃すれば目立つし、学生たちもやわでは無い。

 一人が不意打ちでやられたとしても、チームメンバーが俺たちが到着するくらいまでは持たせるだろう。


「医療キッドは持ってます?」

「ああ、ヒルトレイヴの奴に持たされた。そういうお前は持っとらんのか?」

「ガチの非常用くらいです」

「じゃあ、中身を分けたる。まあ、アイツのことじゃし、どうせ準備時間なんか取らんかったんじゃろ」

「よく分かりますね」

「ワシも軍学科じゃけんの。アイツの雑さはよう知っとる」


 喋り方から、厄介なじいさんのような印象を受けるが、老けているとは一切思わない。

 ただの方言が強い人というか……どちらかというと、野犬のような攻撃性の方が気になる。


ドォン!


 その時、爆発音が聞こえ、森の一部が炎上した。


「とりあえず、行ってきます」

「分かっちゃ。合流はこの木でいいか?」

「はい」


 アメ糸を操って木を降り、発火したところまで向かう。

 そんなに遠くも無いので、すぐに近くまで着いた。

 そこからは、足音を殺し、気配を隠蔽して、様子を伺う。


「……やっと落ちた」

「これで二匹目か。このペースじゃ間に合わないから、スピードアップしてくよ」


 生徒が、四人。落した火鳥を回収していた。

 あまり面識が無いので、実力はよく分からないが、少し服が焦げているだけで、重体の人はいない。


(チーム……クヒアの動向は問題無し。いつもの四人グループだから、連携でなんとかなるか)


 気配を殺したまま、彼女らから離れた。

 他に情報も無いので、一旦ジャックハートさんの場所まで戻る。

 木を登ってみると、彼女の姿は無く――『爆発があったから見て来る』とだけ書置きがあった。

 先生の『二人で固まって動け』という指令はガン無視しているが、まあ大丈夫だ――


ザッバーン!


 その時、爆発音がした。

 場所は、森のかなり奥。

 だが、さっきまでの爆発とは、音や爆風の感覚が全然違う。

 火ではなく、水のような。


 ここには火を使う生物しかいない。なぜなら、火に耐性がある生物しか、生き残れないから。

 その中で水の爆発があったとすると、うちの生徒がやったとしか思えない。

 あの爆発を起こさなければいけないほどに、鬼気迫った状態なのか、暴発しただけか。


「……何にしても、行くしかない」


 緊急事態ゆえ、目立つがドラゴンに飛び乗って、木から飛び降りた。

 その間にも次々と起こる爆風にこらえ、接近。

 近づくと、段々見えてきた。


 青い鱗。

 巨大で強靭な手と足に、指と指の間には水かきがある。

 シュヴァリィのより、かなり細長い胴体に、それを支える大きな翼を持った、ドラゴン。


「ヴアアアアアアアアアアアアア!」

「ウォータードラゴンじゃねーか!」


 全長二十メートルはある、巨大なドラゴンがいた。

 正直逃げたかったが、ドラゴンの前には、血まみれの人が倒れている。

 同級生の、トトフさんだったか。


「トトフ! トトフ!」

「っと!」


 ドラゴンに陽動を任せて、倒れている人の近くに飛び降りた。

 かなりの重体。腹が裂け、ワタが見えかけている。

 放っておけば、数分で死んでしまうだろう。


「ラギナ君!?」

「……アレは俺が引き受ける。手当しといてくれ」


 チームメンバーの人に医療キッドを渡して、芯界を切り替えながら、ドラゴンの前に立った。


(炎のドラゴンは論外。アメも多分出力負けする)


 今戦闘で使えるのは、残り一つだけ。


Demetrular(デメトルーラー)!」

ヴァア(Dragmilake)!」


 ルビのルビが入れられないので、ここで解説。

 Dragmilake(ドラグミレイク)

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