芯界生物
全然描写がありませんでしたが、この世界、普通のファンタジーらしくスライムがいたり、ドラゴンが飛んでたりします。
その理由は下で語られます。
次の日の授業。
いつもの席、左からラミリ、俺、シュヴァリィの順で座り、授業が始まるのを待つ。
「っべ、資料忘れてきTA。ラギナ見せTE」
「またかよ。まあいいけど」
資料の紙を二人の間に移動させ、ラミリに身体を近づける。
彼女も身を寄せ、髪からさわやかないい匂いが――煙の匂いに変わった。
振り向くと、シュヴァリィが何かの紙を燃やしていた。
「私も忘れてきたみたい。見せて頂戴」
「いや、二人は無理――というか、その灰何?」
「なんのこと?」
芯界から首だけを出したドラゴンが、灰を食いつくした。
某横スクロールゲームの、パック〇フラワーを想起させる、見事な食いっぷりだった。
戦慄する俺に、シュヴァリィは迫る。
「見せて」
「だから無理だって。席移動して、ジュアール辺りに見せてもらえよ」
「主の命に逆らうの?」
「……もういいよ。俺のあげるから、二人で見とけ。俺はジュアールの方行くから」
たまには違う席もいいかなと思いながら、荷物を持って移動しようとしたが、シュヴァリィに服の裾を引っ張られた。
「……何?」
「離れると護衛できないでしょう」
「ラミリがいるから大丈夫だって。もう始まるぞ」
言っている間に、ヒルトレイヴ先生が壇上に上がった。
マイクを手に取り、こちらを指さす。
『そこ、もう始まりますよ。座ってください』
「はーい」
目を白くして、移動せずに席に座った。
机上にあるのは、三人に対してたった一冊の資料。
「どうすんだよこれ」
「大丈夫。私、目が良いから。ドラゴン・アイだから」
「あー、空飛ぶ動物は、目が良いこと多いよね。じゃねえんだよ!」
「オレっちあんま良くないZE」
「それはサングラスを掛けてるからだろ!」
『そこ、静かに』
ヒュン!
俊速で飛来するペンを、今度はキャッチした。
「フッ、何度も同じ手を食う俺じゃ――」
キャッチしたペンの影から、二つめのペンが飛び出し、俺の鼻に当たった。
「グエ!」
『同じ手を使う人は、先生ではありません』
「何言ってんだ」
意味不明なことを言う先生に、ペンを投げ返し、ついでにアメを付けてあげた。
彼女はそれを上手にキャッチし、興味深げにアメを観察する。
無表情な彼女が、どのように食事をしているのか、注目していると――彼女は、ひょっとこの面にアメを食わせた。
「えぇ……」
『始めますよ。今日は私が資料を忘れたので、ちょっと違う話をします』
「やったZE!」
バックに資料を仕舞い、ホワイトボードに何かを書き始めるヒルトレイヴ先生に注目する。
書かれたのは――『芯界生物』。
『今日は、芯界生物についての話をします』
……今回の事件にも、繋がってきそうな話だ。
集中して、聞く準備をする。
『まず、芯界の物は取り出すことができます。当然、生き物も取り出すこともできる。ラギナ君、前に出てきなさい』
「はーい」
言われた通り前に出て、教壇の隣に立った。
『君、ドラゴン出せましたよね。出しなさい』
「へい」
丁度芯界がシュヴァリィの火山になっていたので、軽くドラゴンを一匹取り出した。
「ヴヴ」
『はい、まあこんな感じですね。じゃあ、あと十匹くらい出して下さい』
「えぇ……」
文句を言いながらも、2,3と出していき……自分の中の何かが、削れて行く。
十匹出す頃には、ヘロヘロになっていた。
「ヴヴ」
「ハァ、十匹目です」
『こんな感じで、芯界から何かを取り出すと、人間の中の何か――存在基底と呼ばれている物が、消費されます。要は、何かのエネルギーを使って、物を具現化しているということです。もう戻していいですよ』
「扱い雑ぅ」
十匹のドラゴンを芯界の中に戻していく。
削れていた存在基底は戻り、体力が回復した。
『このように、エネルギーごと戻すこともできます。が、出しっぱなしにしていると、どうなるのか。誰か分かる人!』
「はい」
「では、シュヴァリィさん」
パッと手を上げたシュヴァリィが、立ち上がって解説する。
「生物を出しっぱなしにしていると、主人との繋がりが次第に希薄になります。自我が強くなり、独立した生物に。個人差もありますが、一ヶ月ほどで完全に繋がりは消え、完全に野生の生物になります」
『完璧な解説をありがとうございます』
お面を上機嫌な七福神にした先生が、黒板に、ドラゴンの絵を書いた。
『現在は、ドラゴンは普通に生息しています。が、こんな生物はありえません。体重に対して翼力が全く釣り合っていないし、解剖してもブレスを吹く器官が見当たりません。張りぼてのような生態です』
「ええ!?」
教室の一部から、驚愕の声が上がった。
俺からすれば普通のことだが、この世界の人にとっては、驚きのことだったらしい。
『何故こんな生物がいるのか。それは、昔にドラゴンを大量を逃がした、バカがいたからです。元は物語に登場する、架空の生き物だったのですよ』
「そんな……」
『生態系が根付くまで行くのは、結構難しいですけどね。けど、世界には架空出身の生物が結構いますよ。じゃあ、ラドゥアンヌさん、適当な生物を答えて下さい』
「じゃあ~、キメラ!」
『あんなの架空出身に決まってるでしょ。次、パロックさん』
「……犬、とか」
『それは現存生物ですね。ユエリさん』
「スライム!」
『架空です』
生徒が次々と生物の名前を言っていくが、その半分は芯界生物だった。
こんなので、よく生態系が崩れなかったな。
壊れ過ぎて逆に整ったパターンか?
「でも、それと軍学に何の関係が? これ軍学の授業ですよ?」
『時々、変異個体が出ることがあるんですよ。二百年前のバハムート襲撃事件は知ってますか?』
「はい、王都が半壊したという――」
『アレは、色々なドラゴンが掛け合わさって出来た、一種のバグだと考えられています。ああいった、凶悪生物に対処するのも、軍の役目ですよ』
そう言うと、ヒルトレイヴ先生は時間割をジッと見つめた。
『せっかくですし、次回は危険生物の群生地、炎上森に行きましょうか』
「……あそこかぁ」
『服装は燃えてもいい服、持ち物は覚悟と遺書です』
遺書が必要な授業って、初めて聞いた。
絶対にロクな事にならないのだけは分かる。
……次か、その次か、その次の話で派手に戦闘するから!