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アナーキアマガジン 〜無意味な全能証明〜  作者: 黒種恋作
Vol.1『ゲミニに灯るセントエルモ』
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第9話 『偉大すぎる大海原のヌシ』

 くるくると宙で円を描くように回転するその様はまるで生きる観覧車のようだった。

 咆哮と呼ぶべきなのだろうその音の余波で、波が生まれ、船が後ろに流される。


「ねえね! ヤバイ! 操縦変わるぜ! 刀持って、かたな!」

「あ~もう! ネレ! 絶対手荒に運転しちゃ駄目だからね! 振りじゃないからね!」

「わかってるって~のっ!」


 かろうじて耐えた片耳からそんな声が聞こえたと同時に、後ろから走ってきたストラが回転を止め、横向きになったエマヌエルへと飛び移った。

 それが見えたところで、船全体に不思議な“鼠色の紋様”が刻まれる。

 船は奇怪なエンジン音みたいなものを発しながら、とんでもないスピードでエマヌエルから距離をとった。


「――はあああああ!」


 エマヌエルに飛び移ったストラが、雄叫びを上げながら刀をその透明な肉体に突き刺したのが見えた。

 ストラが飛び移ったのは、頭とは逆方向の足先の部分。


「――まさかこんな唐突に戦うことになるとは思わなかったけど――覚悟ッ‼」


 六枚の翼を羽ばたかせ、ぐらぐら揺れるその巨体から振り落とされないためだろう。


「アウトサイダー‼ み、右耳から血が出てる……っ! 早く治療しないと‼」


 僕の怪我を心配してルケがあたふたと動揺し始める。

 普段の冷静沈着な態度からは想像できないレベルの素晴らしい動揺っぷりだった。


「片耳は大丈夫だから問題ないよ。ルケ落ち着いて。それより、ストラとエマヌエルは?」

「……やばいなあれは。さすがに赤い血だせやとは言わんけど、身体切っとんのに、透明な液体ひとつ出とらん。あれ、効いとんのか? いや、効いとらんな……」


 ルケをなだめながら、僕がそう尋ねると、アスリが途方に暮れたように言った。

 もう一度、視線を元に戻すと、ストラの切り開いた道を指し示す、切り裂かれた身体の表面から血のようなダメージを負った判断のつく症状は確認できない。


「――ていうか、傷が再生してるね………あれは」


 それどころか逆にみるみるうちに裂かれた線は塞がっていき、やがて乾燥するという概念を持たないぷるぷるな潤い満ちたお肌へと戻っていく。

悲鳴らしい絶叫も上がらなければ、なにか抵抗を見せることもなく、ひたすら頭へ進んでいくのを待つばかり。というか、気にしていないというのが正解なんだと思った。

でも、このまま傍観するわけにもいかない。


「ルケ、とりあえず僕は気にしないでいいから、ストラを助けにいってくれないかな?」

「い、いやでも、アウトサイダーが――――ッ!」

「わかった、わかった。今、死にかけてるのはヘマした僕じゃなくて、戦ってるストラの方だ。彼女に死なれたら僕はとても困る。――冷静になってよ。本来それが得意分野なんでしょ?」

「………そう、だね。わかっ、た……………」


 渋々といった様子でストラが頷く。

 マジで意味が分からないな。なんでこんなに動揺してるんだ?

 カクシちゃん達から聞いた、彼女の人物像からえらくかけ離れた行動だな。

 僕が何らかのトリガーであることは見て取れるが――っと、考えてるひまありませんわ。


「ほら、これ」


 そう言って、僕は上着のポケットからルケにあるものを投げ渡す。


「……これは?」

「僕が作った通信機。会話内容が傍受されたりしないから、プライベートでも重宝するよ? きみ専用のだから好きにしてくれ。なにかあれば、そこから連絡するから持っていてよ」

「わかった。高性能だね」

「えっ、それで済ませてええ話やったいまの⁉ てか、それ渡すっちゅうことは、ここから出ていくってことやんな。まさか泳いでいくんか⁉ あかんでそんなんやめとけや⁉」

「? いや、大丈夫でしょルケなら。――海のうえ走れるみたいだし」

「――はい?」


 あたふたと七変化するように表情を入れ替えたアスリの表情が固まる。


「な、なに言うとるんや! できるわけないやろそんなん! まさか知らんのか⁉」


 僕の発言を間違った思い込みだと捉えたのか、ルケの代わりに怒るアスリ。


「――『英雄』天見川ルケが法式を使えんのは有名な話や! どっかでこの子の逸話や伝説を聞いたんか知らんけど、この子にも限度ってもんが――」

「じゃあいってくるね」

「――えっ、いくんか⁉ そこ行ったらあかんやろ! マジで言うとる⁉」


 ルケが海の方へクラウチングスタートの姿勢をとる。

 全力で止めにかかろうとするアスリを振りほどき、ルケが甲板から海へと飛び込む。

 本来なら、そこで海底目指して真っ逆さまに落ちていくのだろうが――ルケは違った。

 海面に幾つもの波紋や水しぶきを生み出しながら、列車の如きスピードで翔けていった。


「う、嘘やん……えぇ……“紋様反応”もあらへんやん………」


 信じられない奇跡を目の当たりにしたアスリの表情がおもしろいことになった。

 具体的に言えば、女の子がしちゃいけない顔してあごを外してた。――それよりも、だ。

 一番の目玉であるストラの方で進展があった。


「――ルケ、最悪の事態だ。ストラが死にかけてる。早速、指示を出させてもらうよ」


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