98.思惑が交差していても楓華グループはいつも通りだと分かりきっています
それからヴィムと共に城門を通過し、古城の正門扉前へ到着した頃には楓華達も待ってくれているのだった。
しかもモモが来ると初めから分かっていたような素振りであり、幼い少女の決断を楓華は褒めた。
「さすがモモちゃん。やっぱり来てくれたね」
「ふ、フウカさん……。それに皆さん、お待たせてしまい申し訳ありませんでした」
楓華達が快く受け入れていると分かっていたが、それでもモモは心からの謝罪として頭を下げた。
そんな彼女の律義な態度にミルは口元を緩め、わざとらしいほど偉そうに振る舞うことで茶化してみせる。
「モモは生真面目だね!これくらいミル達は迷惑だと思って無いよ。むしろ師匠の心が広いって感心しても良いから!」
「ふっ……あははは、そうですね。私の師匠達は偉大です」
「そうでしょ~?そんな世界で一番偉大な師匠だから、怖がる弟子の面倒くらい見てあげるもんね!何よりミルの方が年上なんだから、モモは年相応に好きなだけ頼って!」
「うふふっ。それ、ミル師匠が言います?ふふふっ、あはははっ!いつもミル師匠の方が、ひひっ、あっははははは!」
「えぇ~!?ミルってば真面目な事しか言って無いのに、なんで馬鹿笑いされているの~!?」
もしかして相手を励ます事ばかりに気取られてしまい、変な発言したかもしれないとミルは考えて恥ずかしそうな表情を浮かべた。
また、焦り出すミルをモモが代わりに引っ張るという状況へ一変していき、この立場逆転に他の姉妹達も面白おかしさを覚える。
もはや観光に来ただけの5人グループ。
そんな彼女達の行動を見かねて、とある女性スタッフが上から舞い降りてきた。
「玄関先で姦しく歓談するのは女性の特権だが、汝らは試練を挑みに来たのだろう」
そのスタッフは、最初に雑な説明をしていたツートンカラーの女性だ。
よくよく見れば容姿はヴィムと同い年くらいであり、髪色と同じく朱色と金色が入り混じった翼が生えている。
その身体的特徴に楓華は違和感を抱き、それとなく質問した。
「あっ、無理してキャラ作りしていた人だ。それよりも、どこかでアタイと会ったことある?そういう翼は無かった気がするから、こっちの思い違いかもしれないけどさ」
「我は元より森羅万象を識る者。会った事が無くとも、汝らが何者かは隅々まで知っている。それこそ兎にも角にもだ。さっさと我の説明を聞き、試練に挑め村娘どもよ」
「アタイは気にしないけど、ずいぶんと尊大な態度だなぁ」
「良いか時雨楓華、我は一度しか説明しないぞ。こほん……。はぁ~い、準備はよろしいですか~!?この城には、悩みを抱えた住人が住んでいます!そして、その悩みを解決すればポイントをゲットできる仕組みなっていますよ~!」
どういうルールがスタッフ側に設けられているのか不明だが、ツートンカラーの女性は急に無理してキャラを演じながら説明を始めた。
あまりのテンションの落差に楓華達は動揺しかけるが、なんとか平常心を保つことで相手の説明を理解しようとした。
だが、時折スタッフは表情を露骨に引きつらせつつ、更に舌打ちを披露しながら言葉を続ける。
「チッ。それで評価ポイントは『お嫁さんらしく解決できているか』です!コンテストが始まったばかりで意味不明だと思いますが、その解釈は各々に任せます!それでは質問はありますか~?ありませんよね~!?」
「ねぇ。その苦しそうな説明って、他の参加者が来る度にやるの?」
「その質問には答えかねます!それでは他に質問が無ければ、城内へ突撃して下さい!チッ。ほら、呑気せず早く行くといい。少数ながらも、既に点数を獲得してる参加者が居るぞ」
「おっけおっけー。しっかし、貴女って説明や案内の役割に向いて無いね~」
「汝らの担当が我というだけであり、我の本来の領分は加護を与える事だからな。汝らも、我の止まり木によって運命の加護を受けている身だぞ」
「うん?いきなり何の話をしているの?1つも理解できる気配が無かったし、多分コンテストとは無関係の話だよね?」
「汝らは無人の神社を介して……まぁいい。他の参加者達も、我の加護に値するモノを委員会メンバーから授かっている。これは参加者誰一人も知覚できぬ領域だが、我ら眷属同士の競争でもある。是非とも好き勝手に尽力し、他のメンバーを驚かせてやってくれ」
女性スタッフは最後に嘲笑じみた微笑みを見せた後、赤い煙となって姿を消した。
それから古城の正門扉は誰かが触れる前に開き、楓華達を中へ誘おうとしている。
ただ入った瞬間にアクシデントに見舞われることを想定し、モモが率先してグループ間の確認を行った。
「余計な話があったせいで分かりづらくなっていましたが、要はお悩み解決が今回の試練です。大丈夫ですか?特に力押しが好きなフウカさん」
「アタイ?アタイはいつだって準備万端で心構えもバッチリだよ。何なら難題を華麗にクリアしている未来しか見えない」
「そうですか、いつも通り不安のオンパレードですね。では、行きましょう」
心配しても無駄な問答にしかならないとモモは理解し、すぐに気持ちを切り替えて城内へ足を踏み入れた。
怖がっていた割に先頭を切るので、すっかり覚悟は決まったのだろう。
そう周りは思っていたのだが、モモは入城した直後の玄関ホールで硬直することになるのだった。




