99.もう説明は要らない!求めるのは結果のみ!
古城の玄関ホールに足を踏み入れた直後、つまりまだ奥へ進み切る前に鬼娘モモは奇妙な呻き声を上げてしまう。
「ひげっ……」
「えっ、髭?」
モモ以外の誰かが聞き返した直後、彼女の目の前には全身が半透明の獣人が立っていた。
その獣人の足元は僅かに床から離れており、不安定にフラフラとしながら浮遊している。
これによりモモが連想するのは『幽霊』の2文字であり、あっという間に白目を剥いて倒れ込んでしまうのだった。
「ウソでしょモモちゃん!?覚悟していても耐えられないレベルで苦手なの!?」
「モモ氏~しっかりして下さい~!」
他の4人は驚くが、きっとモモ自身も自分の耐性無さに驚愕する事態だろう。
ずっと避けていた存在だけに、どれくらいショックを受けるのか自分で把握できてなかったのが敗因だ。
そして彼女が床へ衝突する寸前に楓華が受け止めたとき、モモの額がほんのりと朱色に光った。
同時にモモは早々と気絶から復活し、冷や汗を掻きながらも意識が鮮明な状態へ回復した。
「ハッ!?わ、私は一体……!?」
「色々と大丈夫モモちゃん?まぁ大丈夫では無いんだろうけどさ」
「す、すみません。なぜか意識が一瞬飛んでいました。でも、もう大丈夫です。きっと、おそらく多分、もしかしたら」
酷く狼狽した反応である上、とても大丈夫とは思えない言動が続く。
また次にモモは何らかの異変に気が付き、慌てて自身のホログラム画面を表示させる。
「あ、あれ?運営からのメッセージが届いたと思ったら、私のポイントが減ってる……。運営の補助で復活したためポイントを自動的に消費……って」
「あぁ、説明された勝手な万全サポートか。今みたいに行動不能になったらサポート対象になるワケだ」
「いざ勇気を振り絞って挑もうとしたら減点になるなんて、ありえます?あまりの仕打ちですから泣き喚いても許されますよね?」
「あっははあ、これは運営側も想定していない事態じゃないかな。それで大丈夫?また気を失ったりしない?」
楓華に心配されながらも、モモは薄目で獣人の幽霊を見る。
するとぼやけた視界であれば精神的なショックは軽傷で済むらしく、なんとか自力で立ち上がってみせた。
「今度こそ大丈夫です。自分の視力が落ちていると思い込めば、幽霊じゃない気がしてきました」
「モモちゃん。メッチャ変な事を言っているし、メッチャ情けない変顔になってるよ……」
「形振り構っている場合ですか!?私は何としても優勝する義務がありますから!大丈夫と言えば大丈夫なんです!」
「ありゃりゃ、感情の起伏も滅茶苦茶だね。この調子だと早く済ませた方が良いかも」
試練を目前に騒いでしまう彼女達。
そのせいで獣人の幽霊は放置気味となっており、僅かな隙を伺うように喋り出した。
「あ、あの~?もうそろそろ良いですかね~?一応、こちらも職務放棄するわけにはいかないのですけども~……?」
幽霊なのに腰が引けた態度で、しかも本心から気遣ってくれている事がしみじみと伝わってきた。
この相手を気にかける振る舞いはヒバナにとって一番共感しやすい事であり、機敏な反応で気遣い返した。
「すみません!いいですよ!どうぞ話して下さい!誠心誠意を持って静聴します!」
「本当に大丈夫ですかね……?ではお話をさせて頂きますが、恥ずかしながらも我が家ではそれぞれ悩みを抱えているのです。祖父、父、母、長男である僕、そして妹たち」
「はい、分かりました!そのお悩みを解決すれば試練クリアとなる訳ですね」
「そうです。ただ先に注意しておきたいことがあります。このような場を用意しているのは事実ですが、何も僕達一家は役作りしているわけでは無く、本当に悩みを抱えています。それに城は今、悪霊が……あれ?」
まだ獣人の幽霊は説明している途中だったのに、不思議に思って言葉を途中で止めてしまう。
その理由は簡単なもので、既にミルとモモ、そして楓華の姿まで忽然と消えているからだ。
この異変にヒバナが気が付くのは更に数秒後の事であり、相手の視線を追って振り返った時にはヴィム1人が何食わぬ顔で立っているだけだった。
「あの、ヴィムお姉ちゃん。フウカ氏たちは?もしかして神隠しされました?」
「もう行ったわよ。似た説明を一度聞いた直後だし、慎重に行動するタイプじゃないから」
「あれほど怯えていたモモ氏も先へ行ったのですか!?思い切りの良さはフウカ氏と良い勝負ですね……」
「そうね。それに彼女達の事だから、早くもトラブルに見舞われて別行動になっているかもしれないわ」
「うーん。フウカ氏に限らず、どんな事にも飛びついてしまう好奇心を持っていますからね。しかも100%突っ走るので、もはや習性です」
「同感ね。まぁ今回は、運営のサポートがあるから安心して良いはずよ。けれども幽霊さん、私達には安全な道案内を頼めるかしら?」
ヴィムはしっかりと相手の説明を聞いていたようで、城内に危険性があることを理解していた。
それは大した事では無いはずなのだが、まともにコミュニケーションが取れる数少ない存在となってしまっているので、相手は感動した口ぶりで意気揚々と受け応える。
「はぁー分かりました!是非とも案内を任せて下さい!まずは、そうですね。貴女達ならば祖父の面倒が適任でしょう。我が祖父は書斎で過ごしております」
「祖父ね。良いわ。どんな事を任せられても、私達のおじいちゃんを思い出すと気が進むわ」
こうしてヴィムとヒバナの2人は楓華達とは別行動を取り、幽霊の案内により書斎へ向かうことになる。




