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70.白銀の巨竜で海を渡りながらモモの目的と姉妹の話を聞く

海を越えてユリユリ合衆国へ行くとなれば、やはり相応の移動手段を用いることになる。

そこで楓華が知る限り一番手っ取り早いのは、即座に移動が完了する瞬間転移だろう。

しかし彼女と鬼娘モモの2人は今、白銀の鱗を(まと)う美しい巨竜の背に乗っていた。


そして既に出発してから時間が経過しているため、周囲には青々とした大海原が広がっており、一行(いっこう)は雄大な海上を逍遥(しょうよう)自在(じさい)に飛翔していた。

ドラゴンの羽ばたきによる風圧で海は波立ち、日光が反射して輝いている水面には巨大な影が映し出されている。

そんな海と空の大自然を楓華は満喫しつつ、自分の腕にしがみついているモモに笑顔で喋りかけた。


「モモちゃんって凄いな!まさかこんな人脈を持っているなんて羨ましいよ!」


「こ、これは私の人脈では無いです。本当は私のお姉ちゃんに頼んで転移させて貰うつもりだったのですが、いざ連絡したら社員旅行中でした。そうしたら、お姉ちゃんがお友達に代わりを頼むと」


「へぇ、どちらにしろアタイからすれば凄い話だ。そういえばドラゴンさん、今日はありがとうね~!」


楓華は馴れ馴れしくドラゴンの背をバシバシと叩く。

すると相手は呼びかけられていることに気が付き、ずいぶんと人懐っこい印象の声色で応えてくれた。


「気にするな。酒とツマミを貰える約束になっている上、小さき親友からの頼みだ。それと申し遅れたが、我の名はマイケルだ」


「マイケルか。マジでクールな名前だな!ちなみにアタイは時雨楓華だ!」


「ほぉ、フウカ殿か。そちらも良き名前だ。ところでフウカ殿は、いける口だろうか?」


「それってお酒の話?なら、難しいかな。お酒を飲んだワケじゃないのに、泥酔して幼児退行したらしいから。ただ飲めなくても、話し上手で盛り上げ上手だと自負しているよ!」


「それも酒の席には欠かせぬ(さかな)だな。どれ、いずれの酒宴で一芸でも披露して頂こうか」


「任せな!なにせアタイは手品が得意だ。消失マジックや縄抜け、あとスロットの目押しにレース順位の予想とかさ」


楓華は相変わらず取り留めない情報を口にするものの、すぐに相手と打ち解けて会話を盛り上げるのは上手だった。

話題の広げ方や拾い方も丁寧で、白銀の巨竜マイケルと仲良くなるまで然程(さほど)時間はかからない。

一方モモはずっと身震いしており、なぜか不安気な表情になっていた。


「ありゃ、どしたのモモちゃん?調子でも悪い?」


その問いかけにモモは一瞬だけ声が裏返る。


「そッ、そんな事ありませんよ?実は高い所が怖いとかありませんし~?それよりも現場へ着いた際の話をしましょう!」


「そだね。アタイは懐中時計の手がかりを得ること。そしてモモちゃんは……なんだっけ?」


「それについては、まだ言ってませんでしたね。私はオークションへ出て、とある絵を落札することです」


「絵?ふぅん、モモちゃんって美術品が好きだったんだ。オシャレだな~」


楓華の反応は自然なものだろう。

だが、モモは少し渋ったような表情を浮かべた後、小さな溜め息をこぼして答えた。


「まぁ……フウカさんなら全て話しても良いでしょう。まず先に言っておきますが、私自身は高価な絵を買いたいと思うほど強い関心を持っていません」


「それなのにオークションで落札するの?おぉまさか、これが金持ちの道楽ってやつか。散財することが快感なんだね」


「的外れにも(ほど)がありますよ。その絵は元々、お姉ちゃんのお母さんが描いた絵なんです。そしてお姉ちゃんの誕生日が近いので、それをプレゼントしようと思いついたわけです」


要はオークションで入手するという形になるだけで、モモの目的は誕生日プレゼントの購入というわけだ。

しかも、わざわざ別大陸へ行くあたり、なんとも家族愛を大事にしていて素晴らしい心がけだろう。

だが、どこか引っかかる説明だ。


恐らく違和感があったのは、お姉ちゃんのお母さんという言い回しの部分だ。

しかし楓華は相手の家庭事情にあまり突っ込まず、優しい口調で応えた。


「そっか~。モモちゃんはお姉ちゃんが大好きなんだな」


これは誰もが言うであろう当たり障りない言葉のはず。

それなのにモモは過剰反応を示し、挙動と声を大きくして否定した。


「うぅ違います!違います違いますぅ!お、お姉ちゃん達のことは四六時中考えたりしますが、それは断じて違います!これは……私が心配性で、ちょっと姉想いなだけです!はい!」


「あっはははは、そっか。うんうん、そう言う事にしておくよ。何にしても、せっかく考え抜いたプレゼントなんだから必ず手に入れないとね」


「うぅ~。フウカさん、私のことをお姉ちゃんっ子だと絶対に思っていますよね~?」


そう厳しく言う割には、モモの表情が全ての想いを物語っていた。

少女の顔は紅潮するほど照れている。

更に目つきや視線からは動揺が(あら)わになっていて、姿勢も強張(こわば)ったものになっていた。

楓華はそんな彼女を(なだ)めるように気遣い、少し話題の方向性を変えてあげた。


「ところでモモちゃんは3姉妹で、モモちゃんが末っ子なんだよね?」


「はい。初めて会った時に軽く教えただけなのに、よく覚えていますね。ちょっと驚きました」


「いつも能天気なアタイでも、さすがにそれくらいはね。それで、どっちのお姉ちゃんが誕生日なの?長女?次女?」


「次女の方です。そちらの姉はスーパーマーケットで楽しそうに働いています。そして1番上……えっと、長女はネコさんと一緒に世界中を旅しているらしいです」


どうやらモモを含めた3姉妹は自分が好きなことをやりつつ、それぞれの道で充実した生活を送っているようだ。

これに楓華は感心し、素直に羨ましそうな溜め息をこぼした。

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