69.ユリユリ合衆国へ行く前にベロチューしてエネルギー補充する
借金取り立ての男性は複雑な事情を抱えているのか、妙に引っかかる口ぶりの説明だ。
ただし手がかりとなるピースが感じ取れて、楓華は詳しく訊こうとする。
「アイテムを運搬って、この世界では転移みたいに便利な技術があるんじゃないの?」
「それが不可能なアイテムも多くあるんだよ。転移装置に異常を与えたり、アイテムが繊細すぎて壊れたりな。とにかく盗まれたリストの中にお前の懐中時計もあったはずだ」
「あらら、お客おじさん。結局は全部知っているじゃん」
「はぁ……。お喋り好きなダチのせいで嫌でも情報が流れて来るんだぜ。役場への突撃には付き合わされたし、まったく最高のダチ共だわ」
うんざりした表情の割に男性の声色は明るかった。
どうやら本心とは正反対のことを喋る悪癖があるらしく、かなりの捻くれ者だ。
これに楓華は愉快さと面倒さを覚えつつ、話を推し進めた。
「あー、はいはい。最初から素直に教えてくれれば良かったのに。それで盗んだ相手とか分かる?」
「そこまで熱心に記憶してない。俺には関係無いからな。しかし足取りが掴めてないから、有名どころで言えば犯罪組織レジェンドか、はたまた怪盗シドレって奴が関わっているかもな」
「じゃあさ、窃盗被害を受けた場所はどこなの?」
「事情聴取かよ。既に捜査されているが、ユリユリ合衆国の魔王城付近にあるドーム会場だ。そこでは色々なイベントが開催されていて、特殊アイテムのオークションもあるな」
楓華は自分から質問はしたものの、思ったより情報量が多い返答に苦々しい顔を浮かべる。
そのため、どこから情報整理しようかと考えているときにヒバナが説明してくれた。
「ユリユリ合衆国は別大陸ですね。そこで生活している種族は、いわゆるモンスター系が大半を占めています」
「ホワイトハウスってのは?アタイがそれを聞くと、どうしても別のモノを想像しちゃうんだけど」
「魔王の仕事場で……えっと、官邸だと思って下さい。それとドーム会場についてですが、某は行ったことが無いので何も分かりませんね。テレビ中継で見かけた事があって、イベントが凄い豪華くらいしか知りません」
「行けば分かるって感じかな。だけど、いくらアタイでも別大陸に行くのは無理があるなぁ……」
仮に行けても追跡は困難であるため、懐中時計は諦めるしか無いのかもしれない。
そういう雰囲気が漂いかけた矢先、モモだけ平常心の顔で喋り出した。
「良かったですね、フウカさん。これは非常に都合がいい話です」
「何が?」
「実はちょうどユリユリ合衆国へ行くつもりで、その付き添いをフウカさんに頼みかったのですよ。私にとっても未知の場所ですから、仮に現地ガイドを付けても信頼できる同行者は必要不可欠だと考えていました」
「そうだったんだ。もしかして、さっき言いかけた条件ってそれのこと?」
「はい。他にも材料採取するための護衛も含まれていますが、大雑把に言えば付き添いです。もちろん移動手段は私が手配していますので、これで心置きなく行けますね」
「まぁ元より、借金を滞納しているアタイに断る権利は無いからね。ということで突然で申し訳無いけど、しばらく出かけて来るよ」
相変わらず楓華は思い切りが良く、挨拶感覚で3姉妹に遠出することを伝えた。
これにミルは過剰反応を示し、楓華に飛び掛かりながら抱きつく。
「えぇ~!?それならミルも行きたい!行ってラブラブして、フウカお姉様との子どもを作る~!」
「ごめんね、ミルちゃん。これは仕事みたいなものだから、遊んだりラブラブする暇は無いよ」
楓華はミルに合わせて会話する。
だが、傍から見ていたモモがいきなり真面目なトーンで語り出した。
「女の子同士だけで子どもはできませんよ。この世界にそういう技術はあるでしょうけど、2人は人間なんですから精子と卵子が必要でしょう」
「ねぇモモちゃん。今はまだミルちゃんを説得中だから、ちょっとだけ静かにしてくれないかな?」
「実験と称して、私の赤ちゃんをフウカさんに産ませてもいいですけどね。その場合、私のお姉ちゃんと同じくハーフになってしまいますが。ふむ……。そう考えると、ちょっと興味が湧いてきました」
モモは1人で勝手に喋り、そして1人で勝手に知的好奇心を湧かせてしまう。
そんな彼女を放っておき、楓華は優しい表情でミルに語り掛ける。
「とりあえずミルちゃん、今回はお留守番ね。今はお店が忙しい時期だし、村を安心して任せられる人がアタイには必要だから。ミルちゃんを大好きで信頼しているからこそ、他に代わりは居ないんだよ」
「うぅ~……」
「大丈夫大丈夫、すぐ帰って来るからさ。お土産を期待して待ってて。ほら、チュウしてあげる」
「う、嬉しいけど、いくらミルでも皆の前でチュウは恥ずかしいかも」
「そう?まぁアタイがしたいから遠慮なくするけどね」
「あひゃあ!?あへっ、あへぇ……」
口づけが交わされた途端にミルは蕩けた顔つきとなり、全て成されるがままだ。
それから店内に粘液が混ざる合う音が発せられ、気まずそうな顔をするのは借金取り立ての男性だけだ。
既に頻繁にある日常風景なのかヴィムは慣れた様子であるし、ヒバナは物欲しそうな表情で羨ましがっている。
そしてモモはキスしている2人の様子から着想を得ようと熱心に観察しているなど、思う事は様々だった。
そんな状況が数分間も続いた後、楓華は実に満足した気分となっていた。
「よぉし。ミルちゃん成分のエネルギー補充が完了!それじゃあね、ミルちゃん!」
「んみゃあ……」
「うん?立てないの?じゃあアタイが座らせてあげる。これで、よしっと」
楓華はまるで上手に世話したかのような物言いだが、ミルは椅子に座っているというより乗せられている状態だ。
明らかに目の焦点は合っておらず、更に首は据わっておらず、腰は抜けていて全身が脱力している姿勢。
この光景に居合わせている男性は「こいつらの日常、いつもこんな感じなのかよ……」と軽く引き気味だ。
一方、楓華は姉妹達と元気よく挨拶を交わした後、未だにブツブツと独り言しながら思考するモモの手を引いた。
「さぁ、ササっと片づけてやろうか!一番の目的はモモちゃんの付き添いで……なんかすること!そして、できればアタイの懐中時計を取り戻す!」
「ん?あぁそうでしたね。すぐに行きましょう。私もインスピレーションを大事にしたいですから」
こうして楓華とモモはマイペースのまま、姉妹に見送られながら喫茶店を出るのだった。




