1-9.未知との遭遇はOh,No deathデス。
「だ、だれだ~?」
ちょちょちょ、今の恐ろしくでかい笑い声はなんだ?確か冷気の漂ってくる奥の方から聞こえたと思うんだが、、。
やばすぎる音量の笑い声に、誰何の声もトーンダウンだ。
恐る恐る声の聞こえた方に灯りを向ける。・・・だれもいない?
奥の方はこちらよりもさらに暗く寒かったので探索はまだだったが、今ならトーチランプという強い味方がある。
何者かはわからないけど、笑い声が聞こえたぐらいだから、そう悪い人でもないかもしれない。
とにかくこの暗闇で生活するとなると仲間がいるといないでは天地の差だ。
よし。これは早速、お仲間発見と行きますか。
この瞬間冷却クールダウンと立ち直りの速さは今まで自分でも気づかなかった長所だな。行けオレ。
「もしもーし。誰かいますかー?」トーチランプを翳す。動きはない。
さらに奥に進む。「誰かいますかー?」声をかけてみるが、返事はない。
もっと奥の方なのかな?
思ったよりも深く、広くなっている洞窟の中をトーチランプを頼りに進んでいく。
少し入ってから気がついたが、入口からずっと、しかも何故か右側の壁だけが凍りついて、ところどころに氷柱が垂れ下がっている。
冷たい風が流れ出しているのはこいつが原因で間違いないようだ。
氷柱は奥に行くほど本数と量がが増えていく。
「なるほどなー。水は無いと思ってたけどこんなところにあったのかぁ」思わずつぶやいてしまう。
わざわざ解かさねばならない水など既に超未来水生成器があるので今更必要ないのではあるが。
さらに奥に進むと、
「ズズウ・・・」
突然、氷の壁と思っていたあたりから、何か重いものを引き摺るような音がした。
驚いてそちらにトーチを向ける。氷の中、からなのか?
もう一度よく見ると、そこにはオレの身長よりもはるかに大きい何かが氷の中に閉じ込められているのがわかる。
「なんだろ?」
近づいて下からトーチランプを照らす。上はかなり高くて、オレの身長の2倍は軽くありそうだ。
「・・・ズズズズズウ・・・」
動いた。確かに動いた。
動いたことでそれが蛇とも百足とも区別がつかない巨大な青白い体躯である事が判明する。
「どぁああ、ぎゃー」
慌ててトーチを放り投げて後ろに座り込んでしまった。これはなんだ??氷漬けの恐竜?
生きてるのか?
逃げるべきか? 咄嗟に逃げようとしたが腰が抜けて全く力が入らない。
そもそもこの狭い洞窟の中のどこへ逃げるというのか。
震える手でトーチを拾い、歯を食い縛りながら氷の壁に灯りを向けると、突然「しゃきーん!」と言う音とともに両手を広げた大きさの鋭利な鎌を連想させる物体が鋭い刃筋を強調しながら氷から突き出した。
凶悪な青白い光を放つそれは明らかにこちらを向いている。
もうダメだ。ここでジ・エンド。神さま、神さま。父さん、母さん、先立つ不孝をお許しください。
思考はグルッと一周して完全に人生諦めたところで、ちょっと落ち着く。
動いてはダメだ。息を殺す。
その瞬間、
「顔、こっち」
さっき入って来た入り口の方から例の低い声が聞こえてきた。
その声は聴くだけで身震いを起こしそうなものだったが、ニュアンスとしては少し間の抜けた感じで意外にフレンドリーぽい?
よく見るとオレを狙っていると思っていた鎌のようなものは巨大な三本の指に生えた爪の一本でその爪がチョイ・チョイと入り口の方を指さしていた、、いや、指してるのは爪だから爪さしていた。
先ほどレベルMAXで振り切れたオレの生命危機警報は一時解除となり、動転から我を取り戻す。
オレはトーチを構え、ゆっくりと慎重に入り口の方に歩き始める。落ち着いたのか抜けた腰は回復していた。
そこには入る時には気づかなかった巨大な爬虫類の顔が、氷の壁の向こうに鎮座していた。
頭の上には長い角のような髭を生やし、金盥ほどの大きさの目は黒の中心に金色の虹彩を不気味に湛える。体表は青い鱗のようなもので覆われ、顎より下はその鱗がやや白っぽい燐光を発している。
「・・・龍、、、ドラゴンなのか?」思わず声が出たが今度は後ろに倒れる事は無かった。
この狭い地底ではどこに逃げても同じというあきらめが頭を急速にクールダウンさせている。
「ぶっぶふぉっ!」
氷を震わせると少しだけ頭を通路側も動かしたのか、その巨大な顔が氷を粉砕し、オレの目の前に顕わとなった。
これはいわゆる我々の住む地上からはるか離れた地面の下には龍脈があって、そこには龍神が居まわす的な古代神話展開か?
こんなものが本当に存在するとは思わなかった。
だけど神様の類なら食べられたりはしないんじゃないか?てか食べないでお願い。前途有望な若者デス。
言葉は通じるんだよな。
そ、そだ。とりあえずこういう場合は「礼儀」だ。まずは自己紹介からだよな?よし。行け!オレ!
「お騒がせしてすみません。私は斬波聡という人間です。なぜかわかりませんがここに落ちてしまったようです。」
出来るだけ丁寧に。相手が神様でも悪魔でも人語を解する恐竜でも失礼のないように抑揚に気を付けながらゆっくり話す。
巨大な目玉がぎょろりとこちらを向くとしばらくオレの頭の上を眺めたあと、少し不機嫌そうに口をきいた。
「儂は嘘つきは好かぬ。」
やったー。やらかしてしまった。
いったいいつのどの嘘だろ?小学校の時に妹のプリン、妹が食べないから代わりに食べちゃったとかそういうレベル?
嘘は嫌いってことは勧善懲悪組だよね。悪魔は否定で神様!!? むー。神様だけに生きてきた時間すべてお見通しとかなのだろうか?
無駄に素早い思考で過去の嘘を洗い起すが他人に迷惑をかける嘘はなかったと思う。
でもジョークと言う範囲も含まれると検索不能の数量だ。
それとも人間の根本はすべて罪悪でできているとかそういう話なら最初からお話にならない。
もしかするとこれはとんちとか禅問答なのだろうか。
・・・そうだ。ここは正直に答えるしかない。
「私は、、、確かに私は今までの人生15年間でいくつかの嘘をついてまいりました。しかし、他の人の迷惑になる様な嘘はついた覚えはありません。」
無い。・・・無いはずだ。胸を張れ!背筋を伸ばせ!
「ふむ?」龍が訝し気に声を発する。
先程までの不機嫌さは少し穏やか方向に是正されていると信じたい。
「お前が今までについた過去の嘘の事なぞ儂は知らん。知る方法はなくも無いがそのようなものに興味はない。今のお前の言葉にも嘘が混じっておったが、そもそも儂が言ったのは何故、嘘の名前を語るかということだ。」
少し目を細めながら龍が口を開く。
・・嘘の名前?どういう事だ?自問すると同時に答えは閃いた。
そう言えばこの『体』はオレの体じゃなかった。彼女以上、家族以上、誰よりも近い距離で接しているけれど簡単なプロフィールすら全く不明だ。
「実は、、その、、この体は私の体ではありません。私はある日突然目覚めたらこの体にいました。そして大怪我をしてあの場所に横たわっていたのです。その、、とても不思議なことですが気がついたら心だけがこの体に宿っていたのです!」
出来るだけ簡単に、自分が倒れていた場所を指さしながら身振り手振りで説明をする。
「ふむ。・・それは見ておったぞ。実はここに落ちてくる者は時々居ってな。」
表情を少し和らげた龍が話を続ける。
「助けられるものならできるだけ助けるようにしておる。ただ、お前の場合はいきなりバタバタしたと思いきや倒れて気絶してしまいおったからの。」
「しかし、だ。」
龍は少し語気を強める。
「驚いた事にすぐに正気づいたお前はまるで別人のように自分で自分を治療し始めた。儂の観た限り、目は潰れ、頭の中の血の管は破裂し、手足は折れ、内なる臓の幾つかは破裂していた。
お前はどうあがいても半刻もあればその生に終わりを迎える状況であったのだ」
・・・あぁ、最初の時の事だな。確かにあれはひどい状況だった。もう死ぬと思ったものな。
「人の力では既に生を留め置く事能わぬ有り様でありながら、魔を主るでもなく、神に祈念するでもなく。・・・あれはこの世の知識を知り尽くすと自負する儂ですらも知らぬ術よ」放り投げるようにつぶやく。
そうかー、ザッパって凄かったんだなー。
龍に言われて初めて蘇る記憶がザッパの取った行動を教えてくれる。
一瞬で自分の置かれた状況を解析、命の危険があり、且つ意識の喪失の危険が伴う脳クモ膜下出血を最優先に破裂した肝臓、すい臓の応急手当と外傷による出血多量の回避。
処置方法は状況を数式とデータに一度置き換え、それに対して再度データを置換、このデータ置換は範囲が決まっている為、それを猛烈なスピードで繰り返しながら危険な状況から遠ざけていくという結構アナログな手法だったらしい。
残念ながら今のオレでは中学校で習った範囲でしか人体の構造を理解できていないので、ザッパの行った処理をすべて理解する事は出来ないようだ。
・・・しっかし、この後から思い出すシステムって記憶喪失みたいで気持ち悪いな。
「あれは、、そうだな。まるでお前の体の周りだけが突然時を刻む事を止め、そして内側から緩やかに時を巻き戻していく。そのような様であったぞ」
お? 。なんだかご機嫌が麗しくなっているような気がそこはかとなくする。
その後、今のオレだったザッパは半日ほどで全回復し、嬉々としてサバイバルを始めたわけだが、龍はこのトンデモ発明品を作る謎の闖入者を興味深く観察することに決め、黙って見守っていたという事らしい。
ザッパの作る機械は龍にとっても初めて見るものばかりであったそうだ。
「ところがだな。」
「またもやお前は独り言をぶつぶつと言っていたかと思うと血を吹き出しながら暴れまわり、挙句の果てには悶絶、起き上がったかと思えば壁登り、遂には寸劇を始めたというわけだ」
・・・龍の困惑顔ってこんななんだ、、。なんだか友達になれそうだ。
やっとお友達ができそう、、デス。
早くお友達増やしてくれないと書きにくいデス。
4/17須臾は「しばし」の意ですが、わかりづらいトカで瞬間に変えときました。