気を付けてお帰り
「何っ!? 一旦帰るだとぉ!?」
「ええ、フレデリク。ここは一度引きましょう。私には魔王の魂胆が分からないのです」
「帰れる訳があるか! 回廊の魂達はどうするのだ!」
「あれは魔王の手下達が魂に化けたものなんですよ! 犠牲者の魂はここには無いんです!」
「では殺された人々の魂は一体何処にあると言うのだ!?」
「それは……」
「別の部屋で休んで貰っている」
息を切らせて戸口に群がった三人に、魔王はそう説明した。
「始めはなかなか悪の権化らしい演出だと思っていたんだがな。何か急に嫌になってしまってな、そういうの」
魔王は顎に手を掛け、目を瞑って続けた。
「反省して、一人ずつ全員に謝った。始めは驚いていたが、今では皆さんゆっくりしてくれている」
空調管理の行き届いた適度な暖かさの、照明は柔らかく控えめな、時々落ち着く音楽を流す、窓からの景色も最高な部屋で。
「嬉しい事に、この前『ここは天国ですね!』って言って下さった」
「あああ」
フレデリクは崩れ落ちた。
「待って魔王! それでも貴方が命を奪ったのは変わりのない事実よ!」
サフィアが食い下がり、鋭い指摘で魔王を追い詰めようとした。
「うむ。確かにそうだな。ならば生き返らせよう。しばし待て、皆さんに一言断って来る」
魔王は立ち上がり、付け加えた。
「予告も無くいきなり生き返ったら、吃驚するだろうから、な」
「もーイヤ……」
サフィアも崩れ落ちた。
しばらくして、地上に奇跡が起こった。
魔王に命を奪われた者達が、次々と蘇ったのだ。
人々は互いの手を取り、喜びに咽び泣いた。
「……じゃあ、帰るよ」
「……お邪魔しました……」
抜け殻の剣士と魔導士をそれぞれ抱え、タルケットとカルナードは魔王を振り返った。
「うむ。とても楽しい一時を過ごせた。名残惜しいが、会いたい方達もおられるであろうからな。地上へ瞬時に出られる門を開いたから、急ぎ帰ると良い」
魔王はその青黒い顔にちょっぴり寂し気な表情を浮かべ、手を振って見送った。
「さらばだ、勇者達よ。達者で暮すが良い」
去り際、タルケットはこっそり『マーキング』をした。