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魔王様と無敵のちゃぶ台   作者: 夛鍵ヨウ
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6/14

お茶とお煎餅はいかが

「ばれてしまったか」

 戸口から問いただすと、魔王はあっさりと白状した。

「あれはうちのウィル・オ・ウイスプ達だ。足りない分は赤セロハンとLEDで誤摩化している」


「人々の魂じゃないのかよ!? 何で!?」

 訳の分からない言葉は無視して、タルケットは質問を重ねる。

「……うむ。色々あってな……む、コマーシャルが終わる。しばし待て」

 魔王は再びテレビ画面に見入った。

 

 既に戦意を喪失した剣士は、和室の外で、抜け殻の様に壁に寄り掛かっていた。

 それを痛ましそうに見やりながら、タルケットは思い切って靴を脱ぐ。

「魔王さんよ。靴を脱いだら入っていいんだろ?」


「おお、大盗賊よ。歓迎する。ささ、遠慮なく入れ!」

 すると小鬼が白い布を持って来て、タルケットに差し出した。

「足拭き用の濡れ雑巾です。どうぞお使い下さい」

「おう、あんがとよ。こいつは足がスッキリすらぁ」

 

 タルケットは半ば命を捨てる覚悟で魔王の向かいに腰を降ろした。

 『駆け引き』。これから大盗賊が開始する一世一代の大勝負である。

 

 一対一で行うその高度な心理戦に、負けた事は一度も無い。

 

 和室という木の部屋……。

 歓迎して靴を脱がせる……。

 時代劇とやらを見る為に戦いを投げ出す……。

 悪の権化は一体何を企んでいるのか?

 タルケットは魔王の全てを暴いてやる気でいた。


「さ、煎茶だ。茶請けの煎餅もあるぞ」

 コトリと置かれた、湯気の立つ飲み物と丸い形の茶色い食べ物。

(これを食わなきゃ、事は始まらなさそうだな)

 毒かもしれない。毒でなくとも、あえて拒絶して相手の感情に亀裂を入れるやり方もある。

 しかし相手は魔王である。

 一旦相手の懐に入る為、タルケットは口に入れる事を選んだ。

 それに自分の『鑑定』では、毒は入ってないと出た。

 タルケットはふと自嘲した。そりゃそうだ、魔王が毒なんてチンケな方法で命を奪うかっての!


「お、旨そうだね! そいじゃ遠慮無く……」

 

 ぱりっ。

 

 ……何これっ……美味しい!!

 香ばしい香り。ザクザクとした小気味良い食感。後に広がるふくよかな味わい。

 タルケットは自分の目的も忘れて次の煎餅に手を出した。

「ほんとに……マジで……旨過ぎる……!」

 両手にもって夢中で頬張り、合間に感嘆句を絞り出す。

 

 忙しい事になったタルケットを、魔王が心配そうに見つめる。

「これこれ大盗賊よ。そんなに詰め込むとむせるであろう。気をつけよ」

 ブホッ!

 心配した通りにタルケットはむせた。

 慌てて煎茶と言う、陶器のコップに入った液体を飲み干す。

「ぷはー! うめぇっ!」

「うむ。少しぬるめにしておいて正解であった」 


「タルケット! 貴方一体何しているの!?」

 いつの間にかサフィアが現れ、タルケットの所業を見て叫んだ。

 彼女は膝をついて和室に入り、そのまま膝で歩いてタルケットに詰め寄る。

「サフィア、お前も靴、脱げよ。ヌレゾーキンって奴で足拭くと気持ちいいぜ!」

「タ、タルケット! 貴方って人は……!」

 怒りのあまり、顔を上気させ、サフィアは声を荒げる。


「こんな時に! よりにもよって、敵の食事を受け入れるとは何事よ! 見損なったわタルケット!」

「魔導士よ、落ち着け」

「あんたもあんたよ! 見なさいよ! あんたのせいでフレデリクがあんなんなっちゃったじゃないの! どうしてくれるのよ!?」

 

 サフィアは魔王に矛先を変え、動き出す前のゾンビの様に惚けている剣士を乱暴に指差して喚いた。

「うむ、申し訳なかった。この番組がもうすぐ終わる。そうしたら先程の続きをしようぞ」

「続きだと!?」

 フレデリクが急に息を吹き返した。

 戸口に立ち、裏返った声で叫ぶ。

「本当だろうな? 本当にもう途中で投げ出さないんだな!?」

「ああ。約束しよう」

 

 最強の剣士は元の姿を取り戻し、にやりと笑った。

「では先程の場所で待つ!」

 意気揚々と回廊へ向かうフレデリク。ほっとした表情で後を追うサフィア。

 一人気まずい思いで『湯のみ』と説明されたコップを置くタルケット。

「……あんがとよ。これ、旨かった」

「うむ。気に入って貰えて何よりである」

 

 カルナードは一連のやり取りをそわそわしながら見守っていたが、突然意を決した様に顔を上げ、回廊に走って行った。


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