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魔王様と無敵のちゃぶ台   作者: 夛鍵ヨウ
3/14

靴は脱いでね

 そこはやはり奇妙な部屋だった。

 

 壁は白い漆喰が塗られ、柱は無垢木。調度品も見る限りでは木で作られている物が多い。

 階段状の変わった形のキャビネットや、壁に付ける様に置かれた薄くて黒い長方形の物体、部屋の隅に掛けられた縦長で絵が描かれた紙らしき物など、見た事の無い物ばかりだが、最も変わっているのは床だった。

 

 その床は何と、草で編んだ仕様になっていた。いやよく見ると、草を編んで長方形の板状にした物を、縦横と組み合わせて床に嵌め込んでいる様なのだ。

 清々しい香りを放つその長方形の物は、金糸が編み込まれた深緑色の美しい縁取りがされていた。

 

 あまりの事に四人は一瞬目を奪われたが、部屋の奥にいた大きな姿を見て再び戦意を露にした。

 部屋の奥にいたのは紛う事無き、魔王バラサークであった。


「魔王バラサーク!」

 フレデリクが先陣を切ってその名を叫ぶ。

 

 同時に四人は構える……事に努めたのだが、部屋が狭く互いが邪魔をして上手く行かない。

 青黒い肌に血の様な赤い目を持ち、漆黒の髪を逆立たせ異形の角を生やした魔王バラサークは、人間より二回り程大きい体で静かに座ったままだ。

 

 先頭に立つフレデリクは、魔王が何故床に座っているのか理解出来ぬまま視線を下に移した。

 魔王の手前には、これまた見た事の無い家具がある。

 

 それは円卓の様だった。しかし円卓にしては小さ過ぎた。

 木で出来ていると思われるそれは、艶やかなオーク色で、上質なマホガニーのテーブルに匹敵する質の良さだったが、余りにも(たけ)が低過ぎた。

 凝った装飾の一つも無く、単純な四角い足と丸い天板で出来たそれは、何やら可愛気さえ感じられる。


「……低い」

 フレデリクは呟いた。

 あの高さでは、今の魔王の様に床に直接座らねば、到底使えない。

 自分達の常識からはかけ離れた光景に、勇者達は酷く混乱した。

 

 魔王はそんな彼等を見やり、その口を開く。

「勇者達よ、よく来た。まあここへ来て、座れ」

 バラサークは意外と味のあるいぶし銀な低い声で、思いがけない事を言ってのけた。

「は……?」

 フレデリクは束の間、惚けたように口をあけ疑問符を放つ。

「その前にすまぬが、履物を脱いでくれぬか。和室は土足厳禁でな」

「…………えっ」

 サフィアが狼狽え気味に自分の足下を見る。

 魔王は表情を変えず、同じ事を繰り返す。

「さあ、早く履物を脱いで、ここへ来て座れ。今、茶を出すから」

 魔王はそう言ってその奇妙なテーブルをぽん、ぽん、と軽く叩いた。

 

「そ、それは……それは一体、何、だ……?」

 フレデリクは思わず問うた。

「これか。これはちゃぶ台という。ニッポンという国に古来からある食卓だ、勇者よ」 

 

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