いらっしゃい
「……ん?」
玉座の間に踏み込んで、四人は異変に気付いた。
魔王がいない。
冷たく光る青い結晶石のブロックに囲まれたその部屋──玉座の間。
壁に灯った鬼火に照らされたその部屋に、座して勇者達を待っている筈の魔王の姿が見当たらないのだ。
そして異様なのはそれだけではなかった。
「……この部屋……無い」
サフィアが思わず呟いた。
玉座の間の奥にある筈の、玉座自体が無い。
階段状の床を上がった先の、高見から勇者達を見下ろす位置にある筈の玉座が無いのだ。
その代わりに、そこには奇妙な壁が出来ていた。
見た所、木で作られた壁である。
冷たい結晶石の部屋にそぐわぬ、妙に温かみのある無垢木の壁。それがまるでこの部屋を区切っているかの様だった。
木の壁には不思議な扉が付いていた。
白い地に何やら草木の絵が描かれており、それを黒い艶やかな木の枠が額縁の様に囲っている。
取手らしき小さく丸い皿の様な物が付いている他は装飾されておらず、あまり厚みが無い様にも見えた。
サフィアとカルナードが扉に魔法が掛かってない事を『看破』した。
タルケットが音を立てず近づき、素早く扉を『調べる』。
「罠は無い。これは紙と木で出来ている引き戸だ……フレデリク、この向こうに誰かいるぞ」
その言葉でフレデリクは気を引き締めた。
「魔王に違いない。皆、戦闘の準備だ。俺が扉を開けたら開始するぞ!」
サフィアはまず全員に全属性ダメージを無効化する『森羅万象の盾』を唱え、続いてフレデリクの剣に氷と炎の属性を同時に与える『双極の剣』と、切れ味を十倍に上げる『真空の刃』を唱えた。
カルナードは暗黒の全ての力を弾く究極法術、『聖地』を発動した。
続いて『祝福』の三重掛け、自動で体力が回復する『生命の泉』を発動させ、最後に最強の聖属性攻撃法術である『神の鉄槌』の発動準備をする。
タルケットは『疾風の靴』で瞬間移動の如く後方に移ると、この部屋の全ての異変を察知する為に『盗賊の勘』を発動させつつ、伝説の武器である『流星の雨』という名の速射式連射ボウガンを構えた。
すかさずカルナードが聖属性を、サフィアが風と雷の属性と威力強化の魔力をボウガンに付与する。
あっという間に準備は終わった。
フレデリクは取手に手を掛け、扉を思い切り開いた──。




