至って真面目なプロローグ
ネット小説大賞の為に書いてみましたお話です。
ある世界の、ある時代。
勇者達は遂に悲願の地に到達した。
彼等の住む大陸は暗黒の権化──魔王バラサークの出現により、無限の地獄と化しつつあった。
暗雲が空を覆い尽くし、禍々しき魔獣が地上を闊歩し、罪無き人々は絶える事の無い恐怖と苦しみに打ちのめされていた。
魔王による蹂躙。魔王に対する抵抗。
幾度となく繰り返される戦いと殺戮で数えきれぬ程の命が奪われる中、一人の剣士を筆頭に、四人の勇者が立ち上がる。
最強の剣士フレデリク。
日に焼けた筋骨隆々の長身と肩までの金髪、青く鋭い瞳が印象的なその青年は、古の王国の高貴なる血を引く者だと予言者は言う。
しかし彼は自らの出生にはこだわらず、ただ人々を救う為に戦場を渡り歩き、正義を貫く側の味方となって戦い、必ず勝利へと導いた。
彼がその場に立つだけで味方の戦士達は士気を高め、敵の戦士達はことごとく気圧され、戦意を喪失するのであった。
勇猛果敢にして豪腕の彼は歴戦の猛者であり、高速の斬撃を繰り出す剣技の使い手だ。
その心は情に厚く正義に満ち溢れ、彼の発する言葉は聞く者全てに希望を与えた。
鋼の如く強靭な肉体と精神をもって魔王に立ち向かう、炎の様な男である。
装備:アダマスメイル一式、ヒヒイロカネの剣、王者の証(赤子の時に身に付けていた、古代王国の紋章の首飾り)。
魔導士サフィア。
透ける様な白い肌の儚気な細身の体つきに、腰まである絹糸の様な銀髪をなびかせ、薄暮を思わせる青紫色の瞳が神秘的な美貌のハーフエルフ。
彼女の出生は謎に包まれているが、噂ではハイエルフの女王と然る皇帝との間に、秘密裏に生まれたのではないかと囁かれている。
万物を見定め自由に操り、覗くだけで生きて出られぬと言われた『真理の深淵』へ意識を潜らせ、正気のまま生還するという離れ業を成し遂げた。
人間年齢二十二歳にして叡智の極みへと登りつめた、恐るべき天才。
最強魔法の布陣で魔王に挑む、美しくも怜悧な乙女である。
装備:ミネルヴァの紫紺の衣、ソピアーロッド、グウィディオンの宝冠、真理の指輪、深淵を映す鏡の欠片(鏡の欠片の首飾り)。
大神官カルナード。
健康的な若者の体に老成した落ち着きと威厳を纏う、柔らかな茶色の短髪と、慈悲深い光を宿した焦茶色の瞳を持つ青年。
由緒ある聖職者の家で育った彼は、実はその家の家長が、宿り木がついたオークの木の根元で保護した孤児である。
しかし成長するにつれ、人々は彼がただの子供ではないと悟った。
幼くして難解な書物全てを読み解いてみせ、僅か十歳にして最難関の高位神官試験に合格し、十五歳で霊峰の頂にて天啓を授かる。
そして十八歳の今、魔王の迷宮を進む為には必要不可欠な存在となった。
崇高なる精神と深き信仰心を持つ、至高神グランゼリウスの比類無き信徒。
最高位の法術を用いて、全身全霊をかけ魔王を調伏する覚悟の、静かなる好青年である。
装備(※迷宮探索時のみ):名も無き僧侶のトゥニカ(至高神が人に姿を成した時に残した着衣)、殉教者のローブ、巡礼者の杖(霊峰の山頂に差してあったオークの杖)、至高神の聖印の首飾り。
大盗賊タルケット。
麦の穂の色をした髪と榛色の目をした、一見愛らしい少年の姿をしている。
元は孤高の義賊であったが混乱の世において開眼した。
彼はその能力とカリスマで、全ての盗賊達の頂点に立ってみせると、正気を失いかけたならず者共をまとめ上げ、無駄な略奪や争いを鎮めたのだ。
出生は誰にも解らず、予言者でさえ口を噤む。ただその飄々とした人となりには、かつて吟遊詩人に歌われた風の精霊王の面影が何故か被るという。
あらゆる仕掛けと罠と隠し扉に精通した、迷宮の達人。
驚異の軽業と俊足、そして先を読む天性の勘をもって、打倒魔王に有り金と命を賭ける、油断ならぬ男である。
装備:シームルグの羽のシャツ(巨大な鳥の羽毛を編み込んだシャツ)、カーバンクルの革鎧、疾風の靴、ミスリルダガー、流星の雨(速射式連射ボウガン)、ラスコヴニクの鍵開けピック。
彼等四人は、長き旅の終わりに最果ての地へと辿り着き、魔王とその軍勢が牙を研いで待ち構える地下迷宮へと足を踏み入れた。
永劫に続くかと思う程の巨大な迷宮を、無限に涌きい出る魔獣を倒しながら、恐ろしい罠をかいぐぐって進む。
炎渦巻く最深部にて深淵の主である古の獄炎竜を屠り、溶岩の海を渡りきると、勇者達は遂に辿り着いたのであった。
魔王の座する玉座の間へと。
玉座の間の前に立ちはだかるは『絶望の門』。
忌まわしき髑髏が装飾された、巨大な黒曜石の扉である。
剣士フレデリクは扉の前で他の者達に向かい、静かに口を開いた。
「我が仲間達よ。いよいよ魔王との決戦だ。ここに至るまでの道程、よくぞ俺について来てくれた。心から礼を言う」
サフィアが頭を振り、答えた。
「フレデリク。私達は皆、同じ志を持つ者。ならば今迄の事は全て自分の為にした事よ。礼など必要無いわ」
「そうそう、おいら達は一心同体。お前等の懐もおいらの物同然ってね」
タルケットが軽口を叩くと、皆は笑い、緊張が和らいだ。
聖なる泉の様な澄んだ目で、カルナードが誓う。
「フレデリク、サフィア、タルケット。暗黒魔法からの守護と回復、蘇生は任せて下さい。私は絶対あなた達を死なせません。持てる力を出し切りましょう!」
「うむ! 心強いぞカルナード」
「私だって! 魔王に最強呪文を御見舞いしてやるわ!」
「美しいサフィア。頼んだぞ」
「後方支援はおいらの仕事だな!」
「ああ、タルケット。お前しかいない」
フレデリクは不思議な幸福感に包まれ、一時、胸を熱くした。
そして再びその目に燃え盛る炎を宿し、口を引き結ぶ。
「皆、行くぞ!」
神の技を持つ名工のドワーフによって生み出された、ヒヒイロカネの剣を抜き、腹の底から雄々しき雄叫びを上げ、黒曜石の扉に勇ましく手を掛ける。
扉は恐ろしい程の重さで勇者達の行く手を阻もうとしていた。
フレデリクは渾身の力を込め、ゆっくりと扉を押し開く。
そして扉は、悲鳴と断末魔、唸り声に嘲笑、怒鳴り声等を全て混ぜた様な、耳を劈く様なおぞましい轟音と共に開いた。
並大抵の者ならば、その音を聞いただけで発狂し、命を落とす程の凶悪さである。
『絶望の門』はその名の通り、手を掛けた者に絶望を与える門なのだ。
しかし至高なる神の祝福を受け、各自が人智を越えた岸辺に到達している四人にとっては、毛の先程にも影響を受ける事のない、ただの騒音に過ぎなかった。
そうして勇者達四人は『絶望の門』を抜け、悲願の地、魔王の待つ玉座の間へと踏み込んだのである。
大神官の説明で、宿り木の所を少し付け足しました。宿り木は寄生する植物なのに、宿主を書いていませんでした。すみません。