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現代JKダン活部!〜放課後はダンジョンしか勝たん〜  作者: 飯山知 春。


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第9話 ダンジョンで、今度は私も戦う

千尋が、突然足を止めた。


その背中にぶつかりそうになって、みつみも慌てて止まる。


「なに?」


「いる」


声が少し低い。


さっきまでサイレントステップの話をしていた空気が、一瞬で変わった。


志帆も黙り、三人のライトだけが岩肌を照らしている。


「どこ?」


みつみが小声で聞く。


「この先。まだ見えないけど、近い」


千尋は腰のショートソードへ手をかけた。


気配察知。


少し前に見せてもらったばかりのスキルが、今度は本当に探索の中で使われている。


みつみも右手を軽く握った。


さっきまでなら、ここで千尋の後ろに下がるだけだった。


でも今日は違う。


自分にはマジックボールがある。


「私も撃っていい?」


「いいけど、私の位置ちゃんと見てね。狙えなかったら無理に撃たなくていいから」


「分かった」


「あと、前には出ないで」


「分かってるって」


返事をした直後、千尋がちらりと振り返った。


「ほんとに?」


「……分かってるよ」


少しだけ信用されていない。


志帆が横で小さく笑った。


「さっき歩きながら撃とうとしてたからでしょ」


「してない」


「してた」


「今その話する?」


「静かに」


千尋に言われ、二人とも口を閉じた。


三人はゆっくり進む。


曲がり角が近づく。


千尋が先に覗き込み、すぐに顔を戻した。


「ダンジョンラット。二匹いる」


みつみの心臓が少し速くなった。


前にも見たことがある。


大きなネズミみたいなモンスター。


千尋が一人で倒したときは、本当に一瞬だった。


今日は、その相手に自分も何かする。


「どうする?」


「まず私が出る。みつみは、撃てそうなら撃って。志帆は後ろにいて」


志帆が頷く。


「分かった」


千尋がショートソードを抜いた。


金属音が小さく響く。


その瞬間、みつみの中からさっきまでの浮ついた感じが消えた。


魔法を使いたい。


でも、今は練習じゃない。


目の前にいるのは、本当にこちらへ襲ってくるモンスターだ。


千尋が曲がり角の向こうへ出る。


すぐに、低い位置で何かが動いた。


一匹目のダンジョンラットが地面を蹴る。


速い。


千尋は横へかわし、そのまま剣を振った。


みつみのライトの先で、ダンジョンラットの身体が崩れるように消えていく。


「一匹!」


志帆の声。


その直後、もう一つの影が千尋の向こうから飛び出した。


「みつみ、右!」


言われるより先に、みつみは手を向けていた。


手のひらの前に白い光が集まる。


一回目より、ずっと早い。


「マジックボール!」


光の球が飛ぶ。


走ってくるダンジョンラットを狙ったつもりだった。


けれど、光の球は思ったより少し横へずれる。


「えっ」


外した。


そう思った次の瞬間、ダンジョンラットの身体に光がぶつかった。


鈍い音が響く。


小さな身体が横へ弾かれ、岩の上を転がった。


「当たった!」


みつみが叫ぶ。


「まだ!」


千尋が一気に間を詰める。


ダンジョンラットが起き上がるより早く、ショートソードが走った。


二匹目も消える。


静かになった。


みつみは伸ばした右手をそのままに、何もなくなった地面を見つめた。


「……当たった」


「当たったね」


千尋が周囲を確認しながら剣を戻す。


「ちょっとずれたけど」


志帆の一言で、みつみが振り返った。


「そこ今言う?」


「でも当たった。走ってる相手に初めて撃ったんだから、普通にすごいと思う」


「最初にそれ言ってよ」


「順番そんな大事?」


「大事」


自分でも顔が笑っているのが分かる。


地面に撃ったときも嬉しかった。


でも、今は全然違った。


自分の魔法が動いているモンスターへ飛んで、本当に当たった。


それで相手の動きが止まり、千尋が倒した。


「私、戦ったよね?」


「戦ったよ」


千尋が笑う。


「ちゃんと役に立ってた?」


「立ってた。ただ、次は撃つ前に私がどこにいるかもうちょっと見てね」


「……危なかった?」


「危ないってほどじゃないけど、私が右に動いてたら撃ちにくかったと思う」


みつみは少しだけ真面目になる。


「分かった。そこ見る」


「最初なんだから、そんな感じでいいよ」


志帆が、モンスターの消えた場所を見た。


何も残っていない。


「ドロップは?」


「今回はなしだね」


千尋が答える。


「二匹とも?」


「そういうこともあるよ」


「そっか」


志帆は少し残念そうに見えたが、すぐにみつみへ目を向けた。


「というか、私は何もしてない」


「ヒーラーなんだから、誰も怪我してないならいいんじゃない?」


みつみが言うと、志帆は微妙な顔をした。


「それはそうなんだけど。初めての戦闘なのに、後ろで見て終わった」


「それ、前までの私だよ」


「そうなの?」


「うん。千尋が戦ってるの見て、速っ、かっこよ、って思ってた」


「その感想だけ?」


「最初はね」


千尋が笑う。


「ヒーラーが忙しい戦闘より、暇な戦闘の方がいいでしょ」


志帆は少し考えてから、


「……それは確かに」


と頷いた。


「でも次は、もう少し周り見る。今、二匹目がどこから出てきたのかちゃんと追えてなかった」


「それでいいと思う。最初から三人で完璧に動けるわけじゃないし」


千尋がそう言って歩き出す。


みつみも続こうとして、もう一度だけ自分の右手を見た。


魔法を使った手は、当然いつもと同じだった。


それでも今は、さっきまでより少しだけ違って見えた。





「お腹すいた」


広い場所へ戻った途端、みつみが言った。


「さっきまで戦ってた人の第一声がそれ?」


志帆がリュックを下ろしながら笑う。


「だってお昼だし。戦ったから余計お腹すいた」


「マジックボール一発で?」


「二発目撃つ前に終わったから一発だけだけど、気持ちはかなり使った」


「気持ちは消費カロリーに入るの?」


「入るんじゃない?」


「たぶん入らないと思う」


千尋は二人のやり取りを聞きながら、壁際に座った。


三人で少し間を空けて腰を下ろす。


みつみはリュックから昼食を取り出した。


「今日は落としてないよ」


「何を?」


志帆が聞く。


千尋が先に笑った。


「おにぎり」


「なんで落とす前提なの?」


「昔ちょっとね」


「昔っていうほど前じゃないから」


みつみは袋を開ける。


「はい。この話終わり。いただきます」


「自分から出したんじゃん」


千尋が笑う。


志帆も自分の昼食を取り出した。


さっきまでモンスターと戦っていた場所から、それほど離れていない。


けれど、座ってしまえば不思議なくらい普通だった。


ライトに照らされた岩壁。


湿った空気。


遠くで落ちる水の音。


その中で、三人が昼食の包みや水筒を広げて昼を食べている。


志帆はパンを一口食べてから、周囲を見回した。


「なんか変な感じ」


「何が?」


「ダンジョンの中で普通にお昼食べてること。さっきモンスターいたのに」


「私も最初そう思った」


みつみが頷く。


「でも慣れるよ。ここで食べると普通のおにぎりでもちょっとおいしいし」


「それ前も言ってたよね」


千尋が言う。


「今日は本当に戦ったから三割増し」


「前は二割じゃなかった?」


「増えた」


「何の基準?」


「気分」


志帆が笑う。


しばらくは食べる音だけになった。


会話がなくても、気まずくはない。


みつみはおにぎりを食べながら、さっきの戦闘を頭の中で何度も思い返していた。


光が飛んだ。


少しずれた。


でも当たった。


「次はちゃんと狙う」


突然言うと、千尋が顔を上げた。


「何の話?」


「マジックボール。さっきちょっと右にずれたから」


「まだ考えてたの?」


志帆が笑う。


「そりゃ考えるよ。初実戦だよ?」


「初実戦って言い方、ちょっとかっこいいね」


「でしょ?」


「そこ?」


三人の笑い声が、広い空間に小さく響いた。





昼食を終えたあと、みつみは分かれ道の前で立ち止まった。


「ねえ、今日は右行かない?」


千尋が右の通路へライトを向ける。


「行ってみる?」


「行きたい。前に来たとき左にしたじゃん。ずっと気になってた」


「私はどっちでもいいよ」


志帆も右を見る。


「せっかくなら、二人がまだ行ってない方がいい」


「決まり」


今度は千尋が先頭に立つ。


右の道は、左より少し狭かった。


天井が低くなる場所もあり、三人は何度か頭を下げて進む。


途中では岩が通路側へ大きくせり出していて、一人ずつ身体を横にしなければ通れない場所もあった。


「リュック引っかかる」


みつみが少し戻る。


「先に身体通してから、肩ずらして」


前から千尋が言う。


「こう?」


「逆。そっちだと余計引っかかる」


「待って、どっち」


後ろから志帆が笑った。


「一回リュック下ろしたら?」


「それは負けた感じする」


「何との勝負?」


結局、みつみはリュックを背負ったまま何とか通り抜けた。


続いて志帆が同じ場所へ入る。


さっきまで笑っていたのに、自分の番になると急に慎重になった。


身体を横にして、岩とリュックの隙間を何度も確認する。


「志帆、リュック守りすぎじゃない?」


「岩に擦りたくないの」


「ダンジョン用でしょ?」


「ダンジョン用だから雑に扱っていいとは言ってない」


「時間かかるよー」


「先行ってていいよ」


「置いてかないって」


ようやく抜けた志帆が、リュックの側面を確認する。


「大丈夫?」


千尋が聞く。


「大丈夫。擦ってない」


みつみは思わず笑った。


「本人よりリュックの心配してない?」


「私は自分で避けられるけど、リュックは避けられないでしょ」


「そういう問題?」


狭い場所を抜けると、道は緩やかに下っていた。


足元に細かな石が増え、踏むたびにざり、と音がする。


三人とも自然に口数が減った。


ライトを足元へ向け、滑らない場所を選びながら進む。


さっきの戦闘とは違う緊張だった。


モンスターはいない。


でも、転ばないように歩くことそのものが少しだけ難しい。


みつみは一段低くなった岩へ足を下ろし、後ろを振り返った。


「志帆、ここちょっと高い」


「見えてる」


「手いる?」


「そこまでは大丈夫」


そう言いながら、志帆は慎重に足を下ろした。


着地してから、少しだけ笑う。


「……こういうの、動画だと全然分からないね」


「何が?」


「高さ。画面だと普通に歩いてるように見えるけど、自分で来ると足元ずっと見ないと怖い」


「でしょ?」


今度はみつみが得意げになる。


「なんでみつみが自慢するの」


「私、もう三回目だから」


「三回で先輩面しないで」


千尋が前で吹き出した。


さらに進むと、通路が少し開けた。


大きな空間ではない。


片側の岩壁を水が細く伝い、足元の窪みに透明な水が溜まっている。


三つのライトが当たると、水面が白く揺れた。


志帆が足を止める。


「……きれい」


みつみも横に並んだ。


「ほんとだ」


派手な景色ではない。


写真に撮っても、たぶん暗い岩と小さな水溜まりにしか見えない。


けれど、自分たちで狭い道を抜け、滑りそうな斜面を下ってきた先で見ると、少し違って見えた。


志帆がスマホを出す。


「撮るの?」


「一応。たぶん全然伝わらないけど」


「分かる。ダンジョンの写真ってだいたいそう」


みつみもスマホを出した。


二人で何枚か撮って、すぐ画面を確認する。


「暗っ」


「だから言ったじゃん」


「実物の方がいいね」


「うん」


千尋は少し離れたところで二人を待っている。


みつみがそちらを見る。


「千尋も撮らないの?」


「私はいいかな」


「じゃあ入って」


「なんで?」


「人いた方がダンジョン感出る」


「水溜まりの横に立つの?」


「お願い」


千尋は笑いながら、


「はいはい」


と水の近くまで歩いた。


みつみがスマホを構える。


「志帆も入って」


「私も?」


「せっかく三人で来たんだから」


「撮る人いなくなるじゃん」


「自撮りにする」


「最初からそうすればよかったんじゃない?」


結局、三人で一枚撮った。


画面を見ると、背景はやっぱり暗い。


でも三人の顔はちゃんと写っている。


「これでいいや」


みつみは満足してスマホをしまった。





帰り道は、来たときより早かった。


一度通った狭い場所も、下りだった岩場も、戻るときには少しだけ勝手が分かる。


施設側の明かりが見え始めると、志帆が何度も後ろを振り返った。


「なに?」


みつみが聞く。


「別に」


「まだ見たい?」


「……ちょっと」


「また来ればいいじゃん」


志帆は前を向いた。


「うん」


それだけ答える。


ダンジョンを出る。


明るい。


さっきまでライトで照らしたところしか見えなかったせいか、施設の照明が妙に眩しく感じた。


みつみはヘッドライトを外しながら、大きく息を吐く。


「終わったー」


「お疲れ」


千尋も装備を外していく。


志帆はまだ少し入口の方を見ていた。


みつみが隣へ寄る。


「どうだった?」


「何が?」


「初ダンジョン」


志帆は少し考えた。


「思ってたのと違った」


「悪い方?」


「逆。写真とか動画でかなり見てたから、もっと知ってる感じになると思ってた。でも、実際に歩くと全然違う。暗さも、足元も、狭いところも、音も」


そこまで言ってから、志帆は少し笑った。


「あと、モンスター出たときは普通に怖かった」


みつみが目を丸くする。


「怖かったんじゃん!」


「うるさい」


「朝、違うって言ってたのに」


「あれはまだ出てなかったでしょ」


「じゃあ今は認めるんだ」


「実際に見たからね」


千尋が笑いながら二人の横へ来る。


「で、また来る?」


志帆は今度は考えなかった。


「来る」


みつみが笑う。


「よし」


「何がよしなの?」


「三人でまた来れるじゃん」


「別に今日だけのつもりで来てないけど」


「そうなの?」


「靴まで買ったんだから、一回で終わったらもったいないでしょ」


「理由そこ?」


「それだけじゃない」


志帆はそう言って、先に歩き出した。


みつみと千尋が顔を見合わせる。


「楽しかったんだよね?」


みつみが小声で聞く。


千尋も小声で返した。


「たぶんね」


少し先から志帆が振り返る。


「聞こえてるけど」


「聞こえるように言った」


「嘘つけ」


三人で笑いながら、出口へ向かった。


みつみは歩きながら、今日撮った写真を思い出していた。


自分で魔法を撃った。


三人でモンスターに向き合った。


前に行かなかった右の道にも行って、三人で写真も撮った。


たぶん、写真だけ見ても今日の全部は分からない。


でも、それでいい。


次に来たら、今度はどこへ行こう。


そう思った時点で、今日のダンジョンはもう、次につながっていた。

次回、三人のダン活を聞いていた佳奈子にも動きが!


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