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第1話:女神の舌打ちと、地獄の微笑み

「女神に連絡先を聞いたら地獄に落とされた」

……そんな理不尽なスタートから始まる、ある男の(ある意味で)幸せな異世界無双ファンタジーです。

凄まじい美貌とお色気プロポーションを持ちながら、中身は超クールで容赦のない戦闘狂の女鬼・サキ。

そして、彼女に毎日シバかれ(ご褒美を貰い)続けた結果、野生のチートへと変貌を遂げてしまった最強M系主人公・タカ(垣内貴博)。

地獄の過酷な『しつけ』を生き抜いた二人が、ひょんなことから腹黒い女神の管理する異世界へと転生することに……!?

「ラブコメ」という生ぬるい言葉では決して括れない、狂った主従関係の二人が贈る、ハイテンション・バトルアクションコメディ!

どうぞ気楽に、お楽しみください!

「貴方は何を言っているのですか? 女神に下心を抱くなんて、不敬です。転生は無しです! 地獄に送ります」


「ギャァァァァァ!!」


真っ白な神界の床が割れ、男の身体は果てしない闇の底へと真っ逆さまに落ちていった。

つい数分前、現世で命を落とした男――貴博タカヒロは、目の前に現れた絶世の美女(女神)に「連絡先を教えてください!」と喉まで出かかった煩悩をぶちまけた結果、一瞬で地獄行きを宣告されたのだった。


「ここは……地獄……?」


気がつくと、男は赤黒い大地の上に倒れていた。

視界に飛び込んできたのは、見渡す限りの血の池、そして天を突き刺すような鋭い針の山。周囲からは、体を引き裂かれ、熱湯の釜に放り込まれ、巨大な金棒で押し込まれている亡者たちの悲鳴が絶え間なく響いてくる。


「オォォォォ!!!!」


「助けてくれぇぇぇ!!」


(何てところだ……。本当に地獄に来ちまった……)


 男がガタガタと震えていると、背後に凄まじい質量を持った「気配」が立ち上った。


「貴方が新入りですか?」


地を這うような冷徹な声。

男が恐る恐る振り返ると、そこには一人の鬼が立っていた。

しかし――それは、驚くほどグラマラスで、冷酷な美貌を持った「美人の鬼」だった。

男の脳裏から、恐怖が一瞬で消え去った。


「何て、好みのタイプなんだ……!」


考えるより先に身体が動いていた。男は、その女鬼ジョキのしなやかで肉感的な腰に、全力で抱きついた。


「ちょっ、おま、な、何をするのですか、この無礼者がっ……!」


突如しがみつかれた美人の鬼――殺鬼サキは、一瞬だけ呆然としたものの、すぐに顔を真っ赤にして男を力任せに引き剥がした。そのグラマラスな肢体からは想像もつかない怪力で、男は容赦なく地面に叩きつけられる。


たた……! でも、地獄にこんな極上の美女がいるなんて、むしろ天国じゃないですか!」


頭をさすりながら、男は懲りずに目を輝かせた。天界の女神にフラれて地獄に落とされたというのに、この男の煩悩は、地獄の業火よりも遥かに燃え盛っていた。


「貴方……自分がどこにいるか分かっているのですか? ここは亡者をさいなむ地獄、そして私はお前たち罪人を司る獄卒です! 下心を向けるなど、一万年早いわ!」


サキはトゲ付きの金棒を男の鼻先に突きつけた。冷徹で、容赦のない、氷のような視線。だが、男にとってその突き放すような態度は、むしろ最高のご褒美でしか (ない)……いや、最高のご褒美だった。


「ひ、冷たい視線……! ゾクゾクするほど素敵だ……! 頼みます、俺をあなたの専属の罪人にしてください!」


「はぁ? 本当に救いようのない馬鹿ですね。……いいでしょう、そこまで言うなら、その歪んだ根性ごと、じっくりと『しつけ』てあげます。覚悟しなさい?」


フッと冷酷に微笑んだサキは、金棒を肩に担ぎ直した。

こうして、地獄の一角で、ある意味で天国な男の、奇妙な受難の日々が幕を開けた。

それからというもの、男は毎日、サキによって執拗に叩きのめされた。

何度も、何度も死んだ――いや、ここは地獄なので、どれだけ肉体を破壊されても死ねないのである。

男は激痛にのたうち回りながらも、サキにしがみつき、その「ご褒美シバき」を楽しんでいた。


「このっ、どこまでしつこいのですか!」


サキの鋭い肘打ちが、男の脳天を正確に撃ち抜く。


グシャ!!


「あ、これまた死んだわ……」


視界が暗転する。



「あれ? ここは……?」


しばらくして目が覚めた。また殺されたか、と男は身体を起こそうとしたが、何だか頭の裏に、もの凄く柔らかくて温かい、極上の感触を覚えた。


(えっ……?)


視線を上にスライドさせる。

何と、そこにあったのはサキの太もも。男は、彼女の膝枕で寝かされていたのである。


「ひっ、光栄すぎて死ぬ……いや、もう死んでるけどっ……!」


男が慌てて飛び起きると、そこには案の定、不機嫌さをこれでもかと絵に描いたようなサキの顔があった。


「勘違いしないでください、この唐変木。あまりにしつこくしがみついてくるから、引き剥がして脳天を叩き割ったら、たまたま私の膝の上に頭が落ちてきただけです。……本当に、忌々しい」


サキはフンと露骨に顔を背け、冷たい視線を男に突き刺す。だが、その耳の先端がほんのりと朱色に染まっているのを、男の目は見逃さなかった。


「冷酷な中にある、この極上の優しさ……! サキさん、やっぱり俺、ここから一歩も動きません!」


「……調子に乗るのも大概にしなさい。ここは地獄、私は獄卒です。亡者を甘やかすつもりなど毛頭ありません」


そう言うと、サキは立ち上がり、容赦なく男の脇腹を軽く蹴り飛ばした。


「ほら、さっさと立ちなさい。次の拷問の時間です。次は血の池の底で、その歪んだ煩悩を百年ほど冷やしてきてもらいますから」


口調は厳格で、容赦のない毒舌。しかし、その手には、男がさっきまで寝ていた場所に落ちていた埃を、そっと払うような繊細な名残が確かにあった。

そんなある日のこと。

毎日サキにつきまとっている貴博を見て、他の男鬼ダンキたちが流石に嫉妬し始めた。


「おい新入りぃ! サキ様に色目使って調子に乗ってんじゃねーぞ!」


巨体の男鬼が、怒りに任せてトゲ付きの金棒をフルスイングする。風を切り裂く一撃――普通なら一瞬で肉塊になる破壊力。

しかし、貴博の目には、その動きがまるで止まっているかのように遅く見えた。


(……温い。サキさんの、あの音速を超える、容赦のない愛の詰まった脳天唐竹割りに比べたら……止まって見える!)


スッ、と紙一重で金棒をかわす男。


「あ?」


困惑する男鬼のガラ空きの脇腹に、男は無意識にカウンターの蹴りを叩き込んだ。


ドォォォォンッ!!!


凄まじい衝撃波とともに、男鬼ダンキが文字通り爆散し、地獄の壁に巨大なクレーターを作った。


「えっ――?」


自分の足を交互に見つめ、男は呆然とした。


(何で俺、こんなに強いんだ……?)


当然である。サキの「規格外のシバき」を、死ねない環境で毎日毎日喰らい続けた結果、男の防御力、回避力、そして筋力は、一般の鬼を遥かに凌駕りょうがするレベルにまで強化されていたのだった。


「私の熱烈な指導を毎日特等席で受けておいて、一般の有象無象に遅れをとるはずがないでしょう、この馬鹿」


呆れたように、しかしどこか誇らしげに腕を組むサキがそこに立っていた。

この一件は、すぐに地獄のトップへと伝わることになる。



地獄の最高裁判所――閻魔殿。

そこには、山のように巨大な閻魔大王が陣座し、眼下の男を見下ろしていた。


「ふむ……垣内貴博カキウチタカヒロ18歳……。男鬼を一撃で爆散させたその力……見事なり。貴博よ、お前を地獄のトップ拷問官に任命してやろう」


「あ、無理です。速攻ソッコーで断ります」


「……え?」


偉大なる閻魔大王の提案を、貴博は一秒の迷いもなく却下した。


「だって俺、拷問するとか無理ですし。受けるのはサキさんの限定なら大歓迎ですけど、男をシバく趣味はありません」


「貴方という男は、どこまで恥知らずな底辺亡者なのですかっ……!」


横で控えていたサキが、恥ずかしさと呆れで顔を真っ赤にして拳を握りしめる。

しかし、閻魔大王はフハハハと豪快に笑い飛ばした。


「面白い男だ。ならば、別の任務を与えよう。……実は、天界の女神から『手に負えない異世界を救ってほしい』と泣きつかれておってな。交換条件として、お前の現世での罪を帳消しにし、その異世界へ転生させてやる」


「興味ないです。俺は地獄でサキさんに――」


「これ、最後まで聞け! ……お前の監視役兼相棒として、その獄卒、殺鬼サキを同行させることを許可する」


「……っ!?」


貴博とサキの目が同時に見開かれた。


「は、閻魔大王様!? なぜ私がこのような変態と……!」


「サキ、これは命令だ。そして貴博、お前がその最強の力で女神の願いを叶えれば、その先は好きにするが良い」


貴博は、ガタッと立ち上がると、隣にいるサキの手をガシッと握りしめた。


「やります!!! 異世界でも何でも行きます! サキさん、俺たちの新婚旅行(異世界ハネムーン)へ出発だーー!」


「誰が新婚旅行ですか、この不届き者がぁぁぁーーっ!!」


サキの強烈なアッパーカットが貴博の顎を撃ち抜き、男が意識を失うと同時に、二人の足元に巨大な転生魔法陣が輝き出した。



 眩い光が収まると、そこはかつて男が真っ逆さまに落とされた、白亜の大理石が広がる神界だった。

その中央の玉座には、相変わらず息を呑むほど美しい女神が座っている。

貴博とサキの二人は、その前に跪いていた。

あの美しい女神は、優雅に足を組み――そして、信じられないほど蔑んだ目を男に向けた。


「チッ……」


(え?……いま、舌打ちしたよな、この女神。あの時の、清楚で聖なる雰囲気を纏っていた女神様と、本当に同じ神か……!?)


貴博が呆気にとられていると、女神は組んだ脚を組み替え、冷酷に言い放った。


「まさか、閻魔がよこした『地獄で急成長した規格外の戦力』というのが、あの時私に下心を抱いた不届き者(お前)だったなんてね。本当に不愉快極まりないわ」


あの時の聖女のような声とは打って変わり、ドスの利いた低い声。

貴博がその変貌ぶりに硬直していると、隣に跪いていたサキが、鋭い視線を女神へと向けた。


「……神界の最高神ともあろうお方が、ずいぶんと口が悪いですね。うちの亡者が無礼を働いたのは事実ですが、閻魔大王様の要請を受けてここにいるのです。少しは弁えていただきたい」


サキの体から、じわりと地獄の業火のような闘気が立ち上る。

女神はフンと鼻で笑う。


「ふん、鬼風情が偉そうに。いいわ、そこの男。お前に与える任務は一つ。私が管理する異世界『エルドラド』に蔓延る魔王軍を、その泥臭い暴力で根絶やしにしてきなさい。……失敗して死んでも、二度と神界の敷居は跨がせないから」


第1話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

女神にナンパして一瞬で地獄に落とされたタカですが、そこでまさかの運命の女鬼サキさんに出会ってしまいました(笑)。

脳天をぶち抜かれても「ご褒美」と言い切るタカの圧倒的なポジティブさと、ツン全開なのにどこか冷徹になりきれないサキのコンビ、書いていてめちゃくちゃ楽しかったです!

そして、ただのギャグかと思いきや、サキの規格外のシバきに耐え続けた結果、タカの肉体はとんでもないことになっており……。

次回、そんな2人が腹黒女神の命令で、お色気ムンムンの姿(サキさん限定)になって異世界へ転生します!

タカの本名「垣内貴博タカ」としての、異世界初無双バトルコメディが本格スタートです。

もし「おもしろい!」「サキさんにシバかれたい!」と思ってくださったら、ぜひブックマークや評価、感想をいただけると執筆の励みになります!

それでは、第2話もお楽しみに。

※投稿は不定期です……

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