第1話 彼女がいないのに、GWに連れていくと約束してしまった
理系で、制御オタの俺に。
彼女ができると思っているのか。
……普通に考えて、無理だ。
なのに俺は、やらかした。
「GW、彼女連れてこいよ」
その一言に、なぜか俺は――
「ああ、連れていく」
と答えてしまった。
……何を言っているんだ、俺は。
くそっ。完全に詰んだ。
彼女なんて、できるはずがない。
だから――
俺は、使えるカードを切ることにした。
友達に頼むしかない。
これ一択だ。
***
友達に頼む一択――
と言っても。
俺に、女友達がいるとでも思うか?
……いるわけがない。
だから俺は、別ルートを選んだ。
俺の数少ない友達。
その中でも、圧倒的に顔がいいやつ。
――つまり、イケメンだ。
「すみません」
俺は、そいつに頭を下げた。
「あの……女友達、紹介してもらえませんか」
「は?」
反応は、当然だった。
「GWまでに、彼女の代わりをしてくれる子が必要でして」
「……え?」
こいつの思考が、完全に止まっている。
「それを俺に探せってこと?」
「ああ……できれば」
「できれば、じゃねえよ」
即ツッコミが飛んできた。
だが――ここで引くわけにはいかない。
「一応、聞くだけ聞いてみるわ」
「助かる」
心からそう思った。
「で、どんな子がいいんだよ」
一拍。
「どんな子でもいいのか?」
……ここは重要だ。
慎重に考えろ、俺。
どうせなら――
「あ……かわいい子がいいです」
「それはそうだろ」
即答だった。
***
「何か知らんが、一人目でOKしてくれた」
「……は?」
思わず、間の抜けた声が出た。
「いや、マジで」
「何となく、この子だったら合うかなって思ったんだよな」
「そうなのか……?」
正直、意味がわからない。
だが――
OKが出たのなら、それでいい。
「で、俺はどうすれば?」
「メッセージしてあげて」
あっさりと言われる。
「連絡先、教える」
「……助かる」
ここまで来たら、もう引き返せない。
「今度、奢るよ」
「は? 別にそんなのいいって」
「俺、繋いだだけだし」
「いや、それでも――」
「いいからいいから」
ため息混じりに笑う。
「それより、今度飲もうぜ」
「……ああ。ありがとう」
少しだけ、肩の力が抜けた。
これで、とりあえず一歩進んだ。
「ちなみに――」
イケメンが、思い出したように言う。
「彼女の名前は、如月由衣だ」
「かわいいし、いい子だぞ」
「だから、安心しろ」
――安心、か。
その言葉に、なぜか少しだけ引っかかった。
***
『はじめまして、三浦陸です。蓮の友達です。よろしくお願いします』
送信。
……数秒。
すぐに、返信が来た。
『初めまして、如月由衣です。よろしくお願いします。瀬川君から聞いてます』
早い。
少しだけ、違和感を覚える。
『あの……彼女役、すればいいんですよね?』
『お願いできますか?』
『私で良ければ』
あっさりと、了承された。
――こんなに簡単に決まっていいのか?
一瞬、そんな考えがよぎる。
だが、ここで迷っている時間はない。
『ありがとうございます』
そう返そうとした、その時。
『っていうか……あの、陸君ですよね?』
指が、止まった。
『はい。陸です』
――何だ?
何かが、引っかかる。
***
画面に表示された名前を見る。
三浦陸。
……懐かしいな。
別に、好きとかじゃない。
ただ――
知っている名前だったから。
それだけの理由で、私は引き受けた。
小学校の頃。
塾で、何度か同じ空間にいた。
会話をした記憶は、ない。
でも――
知っている。
それだけは、確かだった。
……懐かしい。
それだけなのに。
なぜか、少しだけ――
気になった。
――だから、引き受けた。
***
『でも、ちゃんとできるかどうかはわからないですけど』
『あの……レンタル彼女とかじゃないので、本当にわからなくて』
『だから――しばらく、メッセージのやり取りしませんか?』
真面目な文章だった。
きちんと考えて、きちんと距離を取ろうとしている。
……多分、いい子なんだろう。
『そのほうが、ありがたいです』
『少し慣れそうですし』
『ですよね』
短く返す。
それだけなのに。
なぜか――
少し、緊張した。
『あ、あと……』
すぐに、次のメッセージが届く。
『彼女役なので、呼び方も考えたほうがいいですよね』
『陸君で大丈夫ですか?』
……そこ、考えるのか。
『大丈夫です』
『ありがとうございます』
『では、陸君でいきますね』
きっちりしている。
そして――
少しだけ、ズレている。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
第1話を読んでいただき、ありがとうございます。
理系でちょっとズレている主人公と、真面目で少し不思議な彼女役。
そんな二人の、期間限定の関係から始まるお話です。
このあと、二人は少しずつ距離を縮めていきます。
ただの“フリ”のはずなのに、気づけば……という流れを楽しんでもらえたら嬉しいです。
次回からヒロインとのやり取りが本格的に始まります。
よければ、もう少しだけお付き合いください。




