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アックス少年の救済  作者: 豆粒の中身
第一章:シール島、旅の始まり

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封印されし魔獣④

「ワシから目を離すとは、舐めとるのかの?」


 挑発的な表情のウィズドゥム。戦いは再び拮抗状態へと持ち込まれた。


 ウィズドゥムはもはや守りの手段を捨て、本数が何倍にも増した光芒で巨木を削りに掛かり、巨木の方も根による攻撃に徹し、自分に降りかかる攻撃は一部を除いてそのまま通すようになった。


 攻撃も半分はウィズドゥム、半分は家へと向かわせる。


 

「HAHAHAHAAAAAAA!!!!!!!」


「しまった!」


 家へと向かう根に対する攻撃をウィズドゥムが行うのと同時タイミングで白狼が嘲笑を放つ。嘲笑を受けたウィズドゥムは気合で照準を下にずらそうとするも振り替えった身体からはすでに光芒が放たれてしまったあとだった。

 白狼に光芒が着弾すると同時に、白狼の体がほんの少し大きくなり、中腹まで下りていた獣の影は再び上へと巨木を呑み込むように上がっていく。


 黒い球体の数は増え、本体に着弾する光芒の数は減ってしまった。


「まっこと厄介!! 何となく想像はしておったがお前さん、()()()()()()()


 ウィズドゥムの言葉を理解してか、獣の影の頬が吊り上がり、動かぬ目の奥にはたしかな喜びの感情が見え隠れしていた。


 

「GYAHAHA!!」


「……せいぜいあと、一発かの」


 ウィズドゥムは二人が間に合わなかったことに備えて、静かに奥の手の準備をはじめた。

 二人が間に合えばまだ軽症。間に合わなければ命をも賭ける必要があるソレを使う覚悟はとっくのとうに済んでいた。


 

 









 

 必死に手斧を振るうアックスに対して、チョボがあっ、と声をかける。


 振り返ってみると、チョボが壁の一面をみて驚きの表情を浮かべていた


「まじかよ、おい」


 驚きに目を見張りながらそこに書かれた文字を見たアックスは、手斧を振るうのをやめてチョボの背後に回り数を数えはじめた。

 

 アックス達にとっては十分にも二十分にも感じられた十回数字を数え終えたあと、実が壁から飛んできた光芒によってきれいに消滅し、アックスはチョボを脇の下から持ち上げて引きずり奥へと一気に引き込む。


 アックス達が引き込んで数秒後、ウィズドゥムのミスによって処理が漏れた根が丁度二人がいた所を抉った。魔獣は覚えていたのだ、ウィズドゥムが二人を守ろうとしたことを。


「あっっぶねぇ!!!!」

「な、なんとかなったね」


 二人は一先ずの安全に、ホッと一息をつき胸を撫で下ろした。壁に書かれた文字は「十」「実」「壊す」「オーブ」「投げろ」の六語。


 実のところ、二人が知っていたのは「壊す」「投げろ」の二語のみだった。

 朝に見せられた魔法の道具、そこから二人が文字を読み取っていなければきっと理解出来なかったであろうメッセージは、しっかり二人へと届いていた。


「オーブって、あのオーブだよな」

「投げろってことは触らなきゃいけないんだよね」


 そういう二人には、朝と昼に受けたウィズドゥムからの警告が頭をよぎっていた。


「直接触らなきゃいいんじゃねぇか。ウィズドゥムさんも()()()って言ってたし」


「そんなに簡単な話なのかな……」


「一先ずここから動こうぜ、怖えなら俺が触る」


「そんな! でも」


「心配すんな、ホントにヤバいなら、ウィズドゥムさんがあんな指示かくかよ」


 そう言うアックスの中には、不安が無いわけではなかった。しかしそれでも自信ありげに笑ってみせたその姿は、絵本の中の英雄へのあこがれがそうさせたのか。

 もしかすれば、このあまりにも非日常な状況に酔ってしまったのかもしれなかった。


 先を行くアックスの姿を見て、チョボは不安げな表情を浮かべながら動くようになった両足を動かす。






    









 


 二人が完全にいなくなったことを察知したウィズドゥムは、光芒を打つ手を完全に止め、再び代行者の杖の権能を使用した。


「四肢と、聴覚の自由を捧ぐ」


 宣告と同時に、地面に伸びる影の数が増えはじめた。


「流星雨か、全く皮肉なものじゃ」


「大当たりだの」


 瞠目して、だらりと顎で杖を使い支えとしたウィズドゥムは思わず表情を緩めてしまう。

 一時的に自由を捧げたときとは違い、今のウィズドゥムに四肢の自由が戻ることはもう無い。


「流れ落ちる星までも吸収するならもう諦めるしか無いがの。どうやら」


「大丈夫なようじゃな」



 次々と、流星の雨が巨木と白狼を上から叩き潰し続ける。それらは着弾しては消え、また上に出現して落ちる。

 根による防御も、黒球による相殺も効かないそれらは続々と獣の影を押し戻し、巨木の中腹をやや上回るところでそれが止まる。 

 白狼に至っては、着弾して潰れる度に再生しそれがまた潰れてと大変なことになっていた。


「GYAAAAAAAAAAAA!!!!!!」


 獣の悲鳴が、ウィズドゥムを心地よい気分にさせてくれる。 しかしウィズドゥムは再び表情を険しくして獣の影を睨んだ。


「もうここまで、完全に侵食されとるとはな」


 視線の先には木の根辺りに生えた二本の前脚。封印が破られるまでのウィズドゥムの時間稼ぎは、もはやその意味を失いつつあった。


「頼むぞ、二人とも」









 









 オーブの前まできたアックスは、服を脱いで手に包み、オーブを持ち上げた。手斧を振るい続けた腕が痛むが、それだけだ。


「ほら、平気じゃねぇか。 チョボー!大丈夫だぞー!」


「本当に大丈夫? ティーナに怒られた記憶とか思い出してない?」


「あ?」

「ティーナ?」


 それだけを呟いて、アックスはバタリと倒れてしまう。


「ちょっと! 大丈夫!? アックス君! アックス君! 息は、してるっぽい? 焦るな。焦るな」


 チョボは、アックスが息をしているのを確認して深呼吸をしてから、周囲を見渡した。


 

 覚悟を決めて、オーブを持ち上げる。チョボの頭に僅かな電流のような記録が刻まれるが、それは放置してチョボは、元の小部屋へと戻っていった。


 その右手にはアックスの髪の毛が束になって握られている。


「これはほうき! これはほうき!!!」


 手斧で髪の毛を切り、即席のほうきだと思い込むことでオーブの判定を逃れることに成功したチョボは出入り口へと駆けていき、そしてガバリと小部屋を開けて叫んだ。


「ウィズドゥムさん!! 受け取って!!!!!! あ」


 投げる瞬間だけほうきを離してしまったチョボは、その場で意識を失ってしまう。


「よくぞ間に合った!!!」

「これで終いじゃ!!!」


 ぶっ飛んでオーブを回収したウィズドゥムは、そのままチョボを結界内へと魔法で放り込み、強制的やや煤けたままに宣告した。



「代行者の杖よ! ワシの結界魔法以外の全てを捧げる!!」


「超克者の力を貸し与えたまえ!!!!」


 光の奔流が巨木に向かって放たれた。巨星が空に浮かび上がり、それが白狼を叩き潰さんと落ち始める。超巨大な火球が、すべてを飲み込む津波が、空間を切り裂く暴風が、それぞれ放たれる。

 

 それは暴力だった。強者が弱者に対して振るう、暴力だった。

 



 

魔獣戦、あとほんの少しだけ続きます。

日常回も長くなるかも。

テスト期間とレポート課題の遂行のため休載します。(7月9日〜7月23日まで)

魔獣戦の続きだけは頑張ってだします!

あと以降夏休みは更新日を決めて週三〜四話更新を目処に頑張ります。お待ちいただけますと幸いです!!

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