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家に帰るまでが舞踏会

 

「姉上、手を」

「ありがとう、マシュウ」


 屋敷に帰るまでが舞踏会。

 馬車に乗りこむときだって、私は注目を集めている。

 しかし合法でマシュウにエスコートされるのは悪くない、悪くないぞ。


 忙しい思考をおくびにも出さず、シェリー・ヴォーン・ハーヴェイは優雅に馬車に乗りこんだ。ピンと背筋を伸ばしたまま、弟と並んで座る。御者が馬に軽くムチを入れると馬車は滑るように動きだした。

 王城の門をくぐり、月明かりに照らされた道を公爵家の馬車は走っていく。


 てな感じで。

 はー、疲れた!

 ようやく私は座席の背もたれに体重を預け伸びをする。


 とにかく今日のイベントは成功、いえ大成功といえるかも。

 マシュウを推せたし、本命のレナード王子やデフォ惚れのクリス王子とヘレナ嬢の接触は最小限になるよう妨害できたものね。


 ん?

 妨害……、できた?


 さあっと血の気がひくのを自覚した。

 えっ、考えてみたら妨害はマズくないか?

 ヘレナのデビューイベントで王子たちとの接触を妨害って、まさしく悪役令嬢のやり口ではなかろうか。舞踏会の最中も、なんかちょくちょく『あれ今の悪役っぽい……?』 って自分でも感じたし。王子たちもヘレナも楽しそうにしていたけれど、あれは本当?

 もしかして私、知らないうちにヘイトを集めていない?


「……ねうえ、」


 今日この日の行動が、断罪イベントに繋がったらどうしよう。

 私だけじゃなくてマシュウやお父様やお母様に迷惑をかけたらどうしょう。


「姉上!」

「はいぃ!」


 びびび、びっくりした。

 どうやら自分の世界に入っていたようだ。

 ぎぎぎと横を向くとマシュウが少し気味悪そうに私を覗き込んでいる。


「大丈夫ですか?」


 ええそりゃもう、たった今血の気がひいたところです。


「マシュウ、」

「お加減が悪いのなら屋敷に着くまで楽にして、休んで下さい」


 あああ、優しくされると泣いちゃいそうだからやめて欲しい。

 いややっぱり優しくしてほしい。どっちだよ自分。混乱してるな自分。どっちにしろ涙目になっている自覚はある。


「マシュウ、私、いじわるじゃなかった!?」

「は?」


 珍しく目を白黒させているマシュウに、私はぐいと詰め寄った。


「それはいつの話でしょう」


 いつの話って、私そんなにたびたび意地悪なわけ?

 自分で気付いてないだけで、没落街道まっしぐらなの!?

 いやっ、全然笑えない。


「今日の舞踏会よ。私、ヘレナに意地悪じゃなかった?」

「ヘレナ嬢に、ですか」


 至近距離でひとつ瞬きをしてから、マシュウはいつものあきれ顔になった。


「どうしてそういう考えに至ったのか不思議ですが、理由を聞いても?」

「だって私、ほぼレナード殿下と一緒だったじゃない。あと、ジェロームやクリス殿下も。ヘレナはもっと、皆様とお近づきになりたかったかも」

「正式にご挨拶をされていましたし、俺の目からはむしろ、姉上は過ぎるほど伯爵令嬢を気にかけているように見えました」

「ホントに?」

「本当ですよ」

「身内の贔屓目ではなくて?」

「俺は姉上を贔屓目で見たことはありません」

「え、それどういう意味?」

「言ったままです」

「ふうん?」


 あ、なんか今ので落ち着いたかも。

 落ち着いてみたら、えっとお、マシュウが近くて幸せなんだけど、ほぼ腕の中って感じなんですけど、うん、もうちょっと堪能しちゃおっかな。


「姉上」


 いやっ、良い声で呼ばないで。

 はーもう、よかったあ姉で。ここで名前を呼ばれたりしたらうっかり恋に落ちちゃうところだよ。なにせ私の最推しは顔も声も良いのだ。


「やだ、ごめんなさい。少し取り乱してしまいました」

「いえ」


 我に返って身体を起こそうと思ったとき、マシュウが手を伸ばして私の髪をそっと撫でた。


「このまま……、動かないでください」

「えっ」

「髪飾りが曲がっています」


 ああ、そおう。

 不覚にもドキッとしちゃったじゃん。

 お姉さまに無駄な色気を振りまくのはやめなさい、本当に。


「さ、これで大丈夫」

「もう家に帰るだけよ?」

「家に着くまでは油断しないのが貴族の矜持というもの、といつも言ってるのは姉上でしょう」

「う、その通りです」

「どこで見られているかわかりませんよ」


 言いながら、すぐにそっけなく身体を離す。これがまたぽいって感じなんだよ、ぽいっって。ひどくない? そこがマシュウらしくて良いんだけど、やっぱひどくない?

 ちょっぴり癪に障ったので、私は急いで座り直し、まっすぐに背筋を伸ばした。


 そういうところだぞ、マシュウ・カルバート・ハーヴェイ。

 無自覚タラシ&肩透かしという絶妙な技はヒロインに使いなさい。存分に発揮すれば、君はきっと幸せを掴める!




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