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魔王の花嫁襲撃事件から数日、シュナイアは自問自答を繰り返しながらようやく冷静になってきていた。

反対に彼女の父は未だに現実を受け入れられず家庭教師のマティルドに打開策は無いのか、などと救いを求め、母親はショックの大きさに耐えきれず床に伏せている。


そんな両親を見かねたシュナイアは二人に一切曇りの無い笑顔で



「お父様、お母様心配なさらないで!わたくしこれから魔法をいっぱい勉強して大きくなったら魔王に対抗出来るぐらいになるつもりですわ!タダで花嫁なんかになるものですか!」



と言ってのけたのだ。

そんな彼女の発言に両親は、こんな小さな娘に気を使われるなんてなんて情けない親なのだろう…娘がまだ未来を諦めていないのだ、自分達も出来る限り彼女の糧となろうではないか、と。


「ならば家庭教師のマティルドには住み込みでシュナの魔法学を見てもらおう!必要な物があればなんでも言いなさい!」

「そうねそれがいいわ!さっそく先生にお願いしましょう!!」


こうして少し親馬鹿?程度だったアレステル公爵と婦人はかなりの親馬鹿へとレベルアップしたのであった。



(対抗って言っても力ではなく…出来れば話し合って説得したいのよね……ゲームでの魔王にも一応人の心?みたいなのがあったし…)



ゲームの中で時折出てくる魔王エピソード。

ただヒロインとバトルするだけではなかった、彼にも彼なりの事情があったのだ。



(魔王は魔力の多い悪役令嬢を花嫁にする事で、更に力を手に入れる事が出来る。そうして反魔王勢力の勢いを抑え、争いの少ない魔界を築き上げたい…そんな設定だった気がする。魔族の中ではかなりいい人?よね)


先日見た魔王の顔もかなり美形だったな、とシュナイアは生前の記憶を思い返す。


(とにかく魔王を説得出来る様に対策を練らなければ!)



それなら何故彼女は魔法学に励もうとしているのか…それは、せっかく魔法のある世界に転生したのだからそれを大いに活用したいじゃない!という理由からだった。





それからシュナイアは



(嫉妬や恨みを魔石が吸収してわたくしは魔族化してしまうのよね…ならば嫉妬しない環境を作ればいいのよ…)



嫉妬しない環境、それは勇者となる王子を好きにならない、婚約者回避という事だ!という考えにシュナイアは自室で一人ウンウンと頷く。



「たしか勇者であり王子様のクリスティアン・レシュガルド様…俺様キャラなのよね…ゲーム攻略キャラとして俺様は愛でられるものだったけど現実ではちょっとわたくしには抵抗がありますわね。うん、ヒロインに奪われても嫉妬しない自信はあるけれど婚約破棄で傷が付くのも困りものだわ」



であれば婚約者になる前に手を打たねばなるまい!とシュナイアはやる気に満ち溢れるのであった。



「クリスティアン様と婚約するのはたしかわたしくしの誕生日のすぐ後だったはず…勇者として覚醒したクリスティアン様にお父様が無理を言って私を会わせて…そこで初めて会ったわたくしは彼に一目惚れし、お父様に頼み込んで婚約者にと推してもらう…お父様も勇者様ならば魔王の花嫁となった娘を救ってくれるかもしれない!とその気になっていた…ゲームの内容ではそんな感じでしたわよね…」



ならばクリスティアン様に会ったとしてもわたくしが一目惚れしなければいいのね!シュナイアは名案よ!と一人ブツブツと呟いていた。


部屋の外で待機しているメイドはお嬢様の部屋から微かに聞こえる独り言に内容はわからずとも、きっと苦しんでおいでなのだと勝手に勘違いし自分達がお嬢様を支えねば!といつの間にかお嬢様守り隊が結成されている事などシュナイアは知る由もなかった。




それから数日後、ゲームの内容通り王子が勇者の力に覚醒したとの報せが国中に渡った。

もちろんその報せは公爵領の屋敷で暮らすシュナイアの耳にも届き、父親であるアレステル公爵は娘にはサプライズという王子様との対面を用意したのだ。


(これがサプライズでなければ拒否していたというのに…お父様余計な事を!!!でもそんな親馬鹿な所も大好きよ!!!)



親馬鹿あれば子馬鹿あり。

ゲーム内のアレステル公爵がどんな人だったのか…それほど描かれてはいなかったがここまで親馬鹿ではなかっただろうとシュナイアは苦笑する。

このまま甘やかされても育っていけばゲーム内と同じ我が儘令嬢の出来上がり!となるだろうが自分は両親に甘やかされてもそうはなるまいと心に誓うのであった。そうなれば待つのはバッドエンド。



(せっかく転生したのだからスローライフを満喫したいわ…わたくし生前は社畜だったんだもの)



父親に連れられ王宮へ向かう馬車の中、シュナイアは流れる景色を眺めながらスローライフを夢見てぼんやりしていた。

そんな娘の様子を父親は心配そうに見つめる。するとシュナイアはその視線に気付き、父親の顔を見上げる



「お父様?どうかなさいまして?」

「いやシュナこそ元気が無いようだが大丈夫かな?体調でも悪かったのか?」

「いいえお父様、あれから体調は元通りですわ」


一時熱く激しい痛みがあった魔石の埋め込まれた胸は今は以前と同じく平常。

何もなかったかのようなものだ、とシュナイアは服の上から魔石のある部分を摩る。

嫉妬や恨みなどの黒い感情さえなければただの体から離れないだけの石なのだ。


(念のため人に見られないよう首元まである服を着なければならないのは少し苦痛ですけれど…)


今は穏やかな気候だが夏になったら暑苦しいだろうなとシュナイアはうんざりする。

魔王の花嫁に選ばれた事、そして魔石の事は屋敷の者と家庭教師であるマティルド以外には秘密にしなければならないのだ。



(婚約回避にヒロイン、魔王対策…考える事が山積みですわね……)



ガタゴトと揺れる馬車の窓から雲一つない空を見上げ、シュナイアは深くため息をついた。

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