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シュナイアとクレイグのちょっとした旅に同行する事になったグレンとクリスティアンだったが、シュナイアが王子であるクリスティアンがそのまま出歩いて大丈夫なのか2人に確認すると、2人は肩からかけている小さなバッグから小さな小石を取り出した。
その小石からは少しばかり魔力の気配を感じ取ったシュナイアは魔導具であると気付く。するとグレンとクリスティアンはその魔導具を使い、髪と目の色を変えたのだ。
グレンは赤髪、緑の瞳から茶髪の茶の瞳へ、クリスティアンは金髪蒼眼から、シュナイアの様な銀の髪にグレンの元の瞳の様な深い緑の色へと変化した。
「色が変わっただけですがだいぶ印象も変わりますわね」
「これならばお二人の正体に気付く者もそうおりませんね」
シュナイアをクレイグが変化したグレンとクリスティアンを見ながら驚いたと苦笑する。
そうして魔導具を再びバッグの中へしまったグレンは
「俺達、冒険者をやる時はいつもこうしてるんだ!」
「大丈夫、陛下の許可はちゃんと得ている」
「そうでしたのね…」
(陛下も随分と寛大なのね。クリスティアン様は王子である上に勇者なのよ。よく護衛もつけずに放っておけるもんだわ)
シュナイアが内心呆れていると、グレンとクリスティアンは乗って来ていたグレンの家の馬車の従者に戻るよう促していた。
馬車には家紋も入っている為使えないのは当然だ。そんな物に乗ってはせっかくの変装も無駄になるというものだ。
ではどうやって冒険者ギルドのある街まで行こうか…そうシュナイアが考えたところで、クレイグが一歩前に出てシュナイアに一つの古びた鍵を手渡してきた。
「お嬢様、マティルドからこれを預かっておりました。これを裏庭にある物置小屋の扉に使えばギルドの扉と繋がるとの事です」
「先生ったら…勝手にうちの物置小屋の扉にそんな細工をして。今までそうやって行き来していたのね」
「さすがマティルド氏…王宮に仕えてもおかしくはない腕の持ち主だな」
「仕えるよう何度も言われてる様なのですが何やら他にやりたい事があるからと、自由気儘な行動が許される我が家に仕える事にしたそうですわ。王宮は何かと縛られ窮屈だと前に仰っておりましたの」
「マティルドらしいですね」
よくもまぁ王宮からの誘いを断れるものだとシュナイアもクレイグも呆れつつ、グレンとクリスティアンを連れ、裏庭に向かった。
裏庭など滅多に訪れないシュナイアは物置小屋を目にし、なんだか新鮮だなと思いつつある事に気付いた。
「そういえばお二人は冒険者の間なんと名乗っておいでなのです?」
「そうだな、俺はレン。クリスティアンはリスティーだ、結構単純だろ?」
「ええ、でも覚えやすくていいですわね。そうだクレイグ、これからわたくしの事はお嬢様ではなくシュナイアと普通に呼びなさい。わたくしは名前を変えるつもりはないし身分を隠すつもりもないのだけれどお嬢様なんて呼ばれては目立ってしまうしお二人にも迷惑をかけてしまうかもしれないわ」
そうシュナイアが指示をすると、クレイグは珍しく表情を崩しとても嫌そうな顔をした。
その珍しいクレイグの表情にシュナイアは少し面白くなりさらに追い討ちをかける
「もちろんグレンの事もレン、殿下の事もリスティーとお呼びするのよ。それに敬語も禁止!わかったわね?」
クスクスとシュナイアが楽しそうに笑うとクリスティアンが苦笑し
「シュナイア嬢、あまり従者を虐めるものではない」
「俺的にはクレイグとも仲良くなりたかったから普段からそういう風に接して貰えると嬉しいんだけどな」
「それを言うなら私もだ。せっかく年も近いのだ、立場など関係なく友人として接して欲しい。きみはとても優秀な剣の使い手だと聞いている。ならば近いうちに手合わせしてもらいたいものだと思っていたのだ」
庇っていたはずのクリスティアンもシュナイア側になり結果クレイグを追い詰めている。もちろん悪気はなくただ純粋に思った事を述べているだけだ。
それがわかっているクレイグも諦めたように小さく息を吐き
「わかった…慣れるよう努力する」
初めて敬語抜きでクレイグから向けられた言葉にシュナイアはなんだか感激してしまい、内心嬉しくてニヤニヤしたかったがそこは令嬢だ。ポーカーフェイスを守りながら令嬢らしく微笑み、頷いた。
そうしてグレンはレンと、クリスティアンはリスティーと呼ぶように心がけながらシュナイアは物置小屋の扉に鍵を挿し込んだ後カチャリと音が鳴るまで回し引き抜いた。
ゆっくりとドアノブに手をかけると、扉は眩い光を発しその光に目を細めながらも扉を開くとその先は物置小屋などではなく、多くの人々が賑わう広い室内へと繋がったのだった。