#042「ロードの先には」
「お父ちゃん。右足出したら左足を揃える。左足出したら右足を揃える。その繰り返しやからね」
「何度も言わんでよろしい。茜こそ、慣れへんヒールで裾踏んで、蹴躓かんようにせぇよ」
「うちは、そんな体当たりなギャグせぇへん」
「笑いの神は、突然降りてくるモンやからな。気ぃ付けな」
「怪我だけはせぇへんよう祈っとくわ。……お父ちゃん」
「何や、茜?」
「嫌なこともあったけど、うち、お父ちゃんの娘に生まれて正解やったわ。おおきに」
「そうか。間違うてなかったか。……幸せにな」
*
「この教会、一時間でナンボなんやと思う、薫ちゃん?」
「ホテル内にありますから、それほど高くないと思いますよ、蘭さん」
「そうかしら? あたしとしては、結構、内装や調度に趣向が凝らされてるから、そこそこ値が張りそうに思うんだけど。それにしても。あたしたち、さっきからお金の話ばかりね」
「せやね、繭美さん。ご祝儀の金額やら、指輪の値段やら」
「神聖な場には、相応しくないかもしれませんね」
「そうね。世俗的過ぎるわ」
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「茜さんに横取りされるとは思いませんでしたわ。葵様は、わたくしのフィアンセでしたのに。酷いと思いませんこと、若松さん」
「そうですね、芽衣さん。僕も葉山さんには、先を越された思いですよ。これがジェラシーというものなのでしょうね」
「しかし、ここまで来てしまっては、せいぜい、お幸せに、としか言えませんわね。心の声は長谷川辰之助ですけど」
「なるほど。二葉亭四迷ですか」
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「花嫁のブーケは、荀也が贈ったそうね」
「茎子。他人様のいる場所では茉莉と呼んでちょうだい」
「誰も聞いてやしないわよ。それより、何色で何の花に、どういう思いを込めたのよ」
「ピンクのチューリップに、永遠の愛を込めたわ。薔薇でも良かったんだけど、華やかさより、誠実さや優しさを出したほうが良いと思って」
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「なぁ、蒼太。あの塔みたいなケーキは、どこに隠してあるんだ? あと、食事する気配もないな」
「ウエディング・ケーキのことか? 何にせよ、ここに食べ物はねぇよ」
「えぇ! 入刀しないのか? ご馳走は?」
「どっちも、この挙式が終わったあとの披露宴で出される物だ」
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「純白のドレスが、よく似合いますね、茜さん。高貴なお姫様のようです」
「葉山さんのほうこそ、真っ白な燕尾服が似合てるわ。お城の王子様みたいや」
「ありがとう。ただ、一点だけ注意しておきたいのですが」
「何?」
「茜さんも、葉山さんなんですよ? 僕のことは名前で呼んでください」
「せやったね。うっかりしとったわ」
「茜さん」
「葵さん」




