#039「両家の初顔合わせ」
――餃子、焼売、豆腐花、小籠包、春巻、粽、桃饅頭、胡麻団子、月餅、杏仁豆腐、マンゴー・プリン、エッグ・タルト。ターン・テーブルの上には、ホカホカの点心が並んでるんやけど、ちっとも食欲が湧かへんのは、同席してる面々のせいやろうなぁ。
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――大阪茶屋町家と東京葉山家。あいだを取って名古屋の中華料理店で顔合わせをすることにしたけど、正直、気が滅入ってしまうよ。はてさて。どう口火を切ったものだろう。
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「私は、今でも賛成できずにいるんだ。どう考えても、豆腐屋風情の娘が、こちらの一人息子と釣り合うとは思えない」
「豆腐屋を貶すつもりか?」
「お父ちゃん!」
「ここは茜のためにも、辛抱せんと」
「あらあら。感情を剥き出しにして、すぐ手が出るんですから」
「お母さま。そういう言いかたは良くないと思いますよ」
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――アチャア。これはアカンわ。対抗する気マンマンや。どないしよう?
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――よりによって、煽り文句から始めるとは。何とか機嫌を直さないと。
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「積もる話は、食べながらでもえぇんと違う? せっかくの温かい料理が冷めてまうのはモッタイナイわ」
「もっともやな。遠慮無しに、いただこうやないか」
「そうですね。――お父さま、お母さまも」
「フン。食べながら話すなどという、行儀が悪い真似が出来るか」
「本当、嫌になるわね。マナーがなってないこと」
「そうやろか? まぁ、好きにしたらえぇわ。こちらは、お先にいただきますから」
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――この料理、どれも細部まで気を遣うてあるわ。こんな局面やなかったら、きっと美味しくいただけるトコなんやろうけど、てんで味がせぇへんわ。
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――参ったなぁ。お父さまもお母さまも、一度こうすると決めたら、二度と信念を曲げない意固地な人間だからなぁ。香港で修行したシェフの料理なのに、お預けかなぁ。
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「いやぁ、実に美味しい。葵くんの見立てには、狂いが無いわ。そうやろう、茜?」
「え? あぁ、うん」
「ホンマ、熱いうちに食べないと損やわ。ほら、葵くんも、お上がりよ。親御さんのことなんか、気にすることあらへん」
「駄目よ、葵。あたくしたちの前で、そんな下品なことはさせませんから」
「やはり、生まれも育ちも違う人間が一緒になったところで、ろくなことが無いな。ここの食事代は私が持つから、先に帰らせてもらう」
「お父さま。そのような勝手なことをしないでください」
「これやから、金持ちは堪忍ならんわ」
「お父ちゃん。また、そういうこと言う」
「でも、茜。よぅ考えてみぃ。鼻持ちならんことをしてるんは、どっちや?」
「そのセリフ。そっくりそのまま、お返ししますわ。帰りましょう」
「ほら。葵も一緒に来るんだ」
「えぇ?」
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――まさか、このあとであぁいう展開になるとは、このときは夢にも思わへんかってん。
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――もう駄目だと思ったんだけど、会談は予想外の方向に進んだんだ。
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「ちょっと待ち。萩生さんとか言うたな。ここで一つ、問題を出そう。豆腐は何から出来てるか知っとるか?」
「馬鹿にするな。大豆に決まってる」
「せやな。材料は畑の大豆や。せやけど、それだけやったら、豆乳は出来ても、豆腐にはならへん。今度は早苗さんに訊こう。何が足らんねやろう?」
「もちろん、ニガリですわ」
「そう。いわば山の物である大豆と、海の物であるニガリが出逢うことで、初めて豆腐が完成するんや」
「えぇい、イライラする御仁だ。何が言いたい?」
「生まれも育ちも違う人間が出逢うことで、素晴らしい物が生まれることもあるっちゅうことや」
「んまぁ。豆腐と人間を同列に扱うものではありませんわ」
「豆腐は、あくまで物の譬えや。葵くんが生まれたとき、銀の匙を銜えとったり、宝石を抱きかかえとったり、光輪と翼を持ってたりしたか? 茜が生まれたとき、牙や尻尾はなかったで。職に貴賤なし、家柄や血筋に優劣なしや」
「よくもまぁ素面の癖に、酔っ払いのようなクダラナイ繰言をノタマウものだな」
「ほれ見ぃ。自分の思う通りに事が運ばへんと、すぐ矛先を逸らす。その悪癖を直さんと、いずれ後悔することになるもんや」
「家族経営の零細商店主に、大企業の何がわかって?」
「せやな。ツマラン話をしてしもたな。もぅ何も言わんから、帰ったらえぇわ。ただし、葵くんは置いてってな」
「クッ。そこまで言われて、引き下がれるか。こうなったら、相互に得心行くまで議論しようではないか」
「そうね。このままでは立ち去っては、負けを認めるようなものね。話し合いましょう」
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――お父ちゃんの例え話の効果もあってか、あらかた料理が無くなる頃には、すっかり意気投合。追加で、北京ダックやら紹興酒やらも注文して、ほろ酔い気分で解散したんよ。
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――それから風向きが変わって、険悪な空気は消えたんだ。鱶鰭スープに舌鼓を打ったり、ジャスミン茶を飲んだりして、和やかなまま、お開きになったんだ。




