#038「ラッキー」
「『三十四丁目の奇跡』『クリスマス・キャロル』『ホーム・アローン』」
「映画もテレビも小説も、この時期は、笑って泣ける恋愛コメディーや、心温まる家族ドラマが多いですね」
「そうやね。せやけど、どこか抹香臭かったり、男性の欲望が透けて見えるところがあるんよねぇ」
「それは否めませんね。しかし、茜さん。たしかに定番に忠実すぎると飽きてしまいますが、あまりに奇抜すぎると共感を得られないので、支持されずに批判の的になりますよ?」
「そうやね。あんまり斬新すぎると、誰もついていかれへんか。――いまの洋服、どういう構造になってるんやろう?」
「戻しましょうか?」
「うぅん、そこまでせんでもえぇ。ちょっと気になっただけやから」
「そうですか。――いまのヒロインの字幕は、変換ミスですね」
「えっ、どこ?」
「少し戻しましょう。……どなたの服ですか?」
「ん? あぁ、これよ」
「ポーターの燕尾服ですか。これは口頭で説明するより、実物をお見せしたほうが早いですね。のちほど、お持ちしましょう。――誤植は、このセリフです」
「あっ、ホンマや。気ぃ付かへんかったわ」
「着眼点は十人十色ですからねぇ。芳郎さんは食事シーンで出てくる料理に、茉莉さんは背景に飾られてる生け花や掛け軸に、蒼太さんはクロマキーやボディ・ダブルといった撮影技術に目が留まるようです」
「それぞれ、楽しみかたが違うんやねぇ。――そういえば、ご両親からの呼び出しは何やったん? 無理難題を押し付けられたんやったら、うちが言い返しに行ったるけど」
「それには及びませんよ。年末年始を実家で過ごすように言われたんですが、お断りしてきました」
「礼儀を欠くとか何とか、ゴチャゴチャ言われたんやなくて?」
「言われましたよ。でも、頑なに辞退しました。もう二人に無線操縦されるロボットではありません」
「リモ・コンを取り返して、もぅ遠隔操作できへんようにしたんやね?」
「そうです。茜さんのお陰で、自由を勝ち取ることができました」
「うちのお陰かどうかは、さておき。首輪と鎖が無くなったのは、えぇこっちゃ」
「えぇ。それから、もう二点ほど。良いお知らせと悪いお知らせがあるんですが、どちらから聞きたいですか?」
「せやねぇ。先に悪い知らせを聞いとこかな」
「先日お約束した婚約指輪のことなのですが、なかなか良質のルビーが手に入らないそうでして、お渡しが来年の初めになりそうなんです」
「えぇよ。楽しみにしとくわ」
「申し訳ありません。僕用のガーネットは、もう加工まで済んだそうなのですか」
「気にすることあらへん。十二月に七月の宝石を頼んだんが悪いんよ」
「遅くとも、僕の誕生日前には届くそうですので」
「ということは、十七日までに届くんか。ほんなら、えぇやん。――ほんで、えぇ知らせのほうは?」
「途中まで暗い話なのですが、最後まで聞いてくださいね。ずっと黙っていたのですが、僕の身体は、まだ現代の医療技術では治療法が確立していない難病に冒されているんです。病名や症状についての詳しい説明は省きますが、徐々に身体機能が衰弱していく病気だと思ってください。感謝祭前の検査では、あまり芳しくない数値が出たので、今度の検査で進行していたら、少しでも延命するために投薬治療に踏み切ろうと考えていたのです。それで、先日の検査の結果がですね」
「どうやったん?」
「完治はしていませんが、病気の進行が止まっているのが確認されました。医学的には説明が付かないので、主治医は誤診かと思ったようですが、どうも本当に止まったようで。――うわっ」
「おめでとう! いっつも蒼い顔して病院から帰ってくるから、大丈夫なんかなぁって心配しててん。あぁ、良かった。これは、きっと神様からのクリスマス・プレゼントやわ」
「ありがとう。あの、茜さん。嬉しい気持ちは理解できるのですが、そんなに強く抱きつかれると、腕が」
「あぁ、ごめん。リハビリ中なんを忘れてたわ」
「いえいえ。僕が咄嗟に腕を広げれば良かったのです」
「そんなん無理やって。――葉山さん。ちょっと、目ぇ瞑っとってな」
「茜さん?」
「うちが愛の力を送って完治させたるから。せやから、ねっ?」
「茜さん」
*
――うちは芳郎くんやないから、このときのキスの味は、うまいこと譬えられへん。せやけど、すごく心地良かったんは、よぅ覚えてる。それにしても、愛の力とか恥ずかしいことを言うてしもたもんやわぁ。あぁ、そうそう。ごめんね、芽衣ちゃん。葉山さんの唇を奪ってしもて。




