#036「ゆらゆらと」
「ワイワイやるんもえぇけど、こういうのも趣があってえぇモンやね」
「天井照明を消して、間接照明に替えるだけで、ずいぶんと部屋の印象が変わりますね」
「キャンドルの炎が揺らめくんを見てたら、癒されるわぁ」
「吐息や身体のちょっとした動きだけでも、結構、敏感に反応するものですね。ほら、こうして指を動かしただけでも」
「ホンマや。天井の陰も動いてるわ。ハハッ。面白いモンやね」
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――考えてみたら、葉山さんたちと、ここでこうして一緒に暮らすようになって、もう二ヶ月近くになるねんなぁ。いや、まだ二ヶ月弱しか経ってへんって思うべきなんかなぁ。
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「うちが東京へ来てから、ここ二ヶ月。毎日が思わぬことの連続で、退屈はせんかったけど、落ち着かれへんかったわぁ」
「慣れない土地での新生活は、戸惑いが多かったのではありませんか?」
「そうなんやけど、その分、えぇ刺激になった二ヶ月やったわ」
「そうですか。それは何よりですね」
「せやから、やっとゆっくり出来たなぁと思てな」
「たまには一服しないといけませんね。張り切ったままでは、伸びてしまいますから」
「せやね。ホッと一息吐く時間を設けんとアカンな」
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――満腹まで食べてリラックスしたから、心地よぅなったんやろうな。何やら、眠たなってきてしもた。せやけど、ここで寝てしもたら、葉山さんが全部、片付けてまうやろうから、それだけは何としてでも避けんとなぁ。
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「電球のオレンジっぽい明かりで照らされてると、料理がホカホカしてそうに映るもんやね」
「赤み掛かった柔らかな光だと、暖かそうに見えますね」
「蛍光灯とは、見た目の印象が全然ちゃうね」
「青み掛かった強い光ですからね。昼光色は脳が活性化されて集中力が増す反面、興奮が醒めないので、お食事やお休みには向きません」
「へぇ。やっぱりブルー・ライトは、眼に刺激が強いんやね」
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――アカン。せっかくえぇムードやのに、眠気が我慢できへん。ここにきて、日頃の疲れが出てきたんやろうか? 葉山さんの本心を知る絶好の機会やのに、これを逃すんは惜しいわ。えぇい、ままよ。ちょっと強引やけど、言うてまえ。
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「ねぇ、葉山さん。これまで二ヶ月、ここで一緒に暮らしてきた訳やけどさぁ。葉山さんは、うちのこと、どう思てるん?」
「僕が、茜さんのことを?」
「この際やから、はっきり聞かせて欲しいねん。うちのこと、好き?」
「フフッ。ハハハ」
「ちょっと、葉山さん。何で笑うんよ?」
「まさか、茜さんのほうから切り出されると思わなかったものですから」
「もぅ。他人がせっかく、なけなしの勇気を振り絞って訊いたっていうのに、台無しにせんといてよ。ほんで、どうなん?」
「これは、失礼。それでは、お答えしますね。コホン。……かけがいのない存在だと思っています。誰にも渡したくありません。それくらい、茜さんのことを愛しています」
「そこまで本気なんやったら、もちろん、ゆくゆくのことも考えてるんやろうね?」
「えぇ。……葉山葵は、茶屋町茜を絶対に幸せにします。結婚してください」
「……おおきに。喜んで」




