#028「ヘプタゴン」
「しっかし、何だなぁ。親ってモノは厄介なモノだな。居なきゃ居ないで不便だし、居たら居るで面倒なことになるんだもんなぁ」
「わかったようなことを言うんじゃねぇよ、芋洗坂」
「まぁ、今回は茜ちゃんのお手柄だったわね」
「表彰状。茶屋町茜殿。右の者の功績を讃え、ここに賛辞を贈りますってな」
「何だかんだで、葉山の災難を払い除けたんだからな」
「そうね。ご褒美の一つでもあげたいところね。それと、二度と起きないように、玄関に盛り塩でもしておこうかしら」
「厄払いか。御札を逆さ貼って、霊を祓おう。玉葱とか大蒜とか韮とかも吊るしておこう。あと、鰯と柊」
「ナマモノは駄目だ。悪人も寄り付かないが、善人まで逃げてしまう」
「マジナイがノロイに変化してしまうわね」
*
「まぁ。葵様のご両親が、そんな夏虫疑氷なかただとは知りませんでしたわ」
「お父さまが何でも知ってると驕るようになり始めたのは、いまのお母さまが葉山家に来てからですから」
「マナーとは、側にいる人を不快にしないことに本質があるんですのよ。作法を指摘したり、薀蓄を傾けたり、はたまた、そういう相手に既知であることを伝えたりすると、言われた側は辟易するものですわ」
「自慢話を繰り広げたり、説教を垂れたり、昔話に酔ったりするのも、嫌われる元ですね。どれも、ベクトルが己に向いているせいですが」
「これは、放って置けません。わたくしがお父さまに申し上げて、態度を改めるように取り計らってもらいますわ」
「助かります。でも、誇張は控えてくださいね」
「あら。葵様の心痛を鑑みれば、多少の脚色は良いのではなくて?」
「義憤に駆られて興奮しているようですが、何卒、穏便に願います」
「葵様は優しすぎますわ。だから、他人に良いように玩ばれるんですのよ」
「……それは芽衣ちゃんが言えることかなぁ」
「ところで。ご両親がお帰り遊ばしてから、茜さんと手を繋いで見つめ合ってたそうですわね」
「涙を浮かべていたので、慰めてあげただけです」
「本当に、それだけですの?」
「それだけですよ、芽衣ちゃん」
「表情を見る限り、嘘では無さそうですわね。良いこと? 葵様は、わたくしのフィアンセなんですのよ。そのわたくしを差し置いて、接吻の一つでもしてご覧なさい。極刑に処しますから」
「心得ます。首を刎ねられたくは無いですからね」
*
「あれ、蘭ちゃんだけなん? 繭美さんと薫さんは?」
「ついさっき、お暇したトコよ。あたしも一緒に帰ろうかと思たんやけど、二人から、もうちょっと残ったげてって言われてなぁ」
「そうやったんや。見送りの挨拶もせんままになってしもうて、申し訳ないことをしたわぁ」
「構へんって。それより、茜ちゃんも飲みぃよ」
「せっかくやけど、うちは遠慮しとくわ。この前、ヘベレケに酔うてしもて、えらい迷惑を掛けてしもたから」
「ほぅ。そうか。ウワバミが酔うくらいやから、よくよくのことやったんやなぁ」
「東京に来てから、ここんトコ、あれやこれやと立て続けに色んなことがあったモンやから、疲れが溜まってたんかもしれんわ」
「おまけに、昼と夜とで暑なったり寒なったりやからなぁ。エルニーニョの反対で、何て言うたかなぁ。バリニャーニ?」
「ラニーニャ」
「そう、それや。夏に暑さが厳しなって、冬も寒さが厳しなるとか言うてる」
「ほんで、大雪になるかもしれんとか」
「ホワイト・クリスマスと言えば聞こえはえぇかも知れんけど、独り身の会社員には辛い時期やわ」
「さいでんなぁ」
「ほぅでんなぁ」




