#025「ハロウィンに向けて」
「さぁて。これで、ジャック・オー・ランタンの完成ね。一度に五つも刳り抜いたら、さすがに腕と肩に響くわ」
「お疲れさまです、茉莉さん」
「こんな硬いものを、登山ナイフ一本で加工するんだからなぁ。大したもんだ」
「葵くんは怪我してるから、ともかく。蒼太くんには、一緒に手伝って欲しいかったわ」
「南瓜なら、まだ倉庫にありますけど」
「俺は、やらねぇよ。――何か怖いから、さっさとナイフを片付けろよ、切り裂きジャック」
「誰がジャックよ。刃毀れが無いか見てただけなのに」
「ジャックとジルに、ジャックと豆の樹」
「医師免許を剥奪された、天才外科医」
「三つ目は関係ないけど、ジャックという名前は多いわね」
「英国ではポピュラーな名前ですから。日本で言うところの、太郎に該当する名前です」
「トムやメアリーと一緒か」
「英語の例文の定番ね。――この足音は、芳郎くんかしら」
「ただいま。あ! もうお化け提灯が出来てる」
「お帰り、芳郎さん」
「お帰り、芋洗坂。早かったな」
「お帰り。提灯じゃなくてランタンよ、芳郎くん」
「でも、中に蝋燭を入れるんだろう?」
「蝋燭とキャンドルとは、原料が違いますよ」
「いいから、先に手を洗って嗽して来い」
「いちいち言われなくたって、わかってるって」
「はいはい。二人してツマラナイことで言い争わないの」
「仲良くしない子には、おやつをあげませんよ?」
「俺は一向に構わないけどな」
「蒼太が良くても、オイラが困る」
*
「そうして、騙し事が得意なジャックは、魂と引き換えに悪魔を銀貨に化けさせて豪遊したり、林檎を採らせた悪魔に樹に刻んだ十字架を見せて、死後に地獄に落ちないように契約させたりしましたが」
「そうは問屋が卸さない、ということだな?」
「黙って最後まで聴けないのか、芋洗坂」
「そう、カッカしないの。――続けて、葵くん」
「フフッ。芳郎さんの言う通りなんです。――騙し事を重ねた悪人を、天国の門番は通すはずがありません。こうしてジャックは、蕪を刳り抜いた中に石炭を入れた灯りを持ち、天国と地獄との道を行ったり来たりしているそうな。おしまい」
「えっ、そこで終わり? 南瓜は?」
「元の話は、南瓜じゃなくて蕪だ」
「米国では、ハロウィンの時期に南瓜がよく収穫できるから、蕪じゃなくて南瓜になったのよ」
「その米国式のハロウィンが、日本に定着してきている訳です」
「でも、マナーの悪さが目に余るってことで、非難も浴びてるんだよなぁ」
「家やパーティー会場の中でドンチャン騒ぎをするだけなら、まだしも。通行人や住民の迷惑を顧みずに、あちこち街中に繰り出しては散らかし放題で帰るから、反対されるんだ」
「本当よねぇ。旅の恥は掻き捨て、とでも言いたいのかしら」
「それでは、あまりにも無責任で無遠慮ですね」
「立つ鳥、跡を濁さず、と言い返してやらないといけないな」
「そうだな、芋洗坂」
「あんまり傍若無人で自己中心的なことばかりやってると、ランタン持って彷徨うことになるわよってね」




