#011「静かな家」
「偉そうなことを言うな、藤沢。両親にカミング・アウト出来てないくせに」
「何ですって。もう一度、言ってみなさい!」
「ちょっと、茉莉さん。乱暴は、やめっ、うわぁ!」
*
「アレをしちゃいけない、コレをしてもいけない。禁則事項ばっかりだと、息苦しくなるもんだ。オイラも施設に居た頃は、さんざん窮屈な思いをしてたから、茜の気持ちは、よく分かる。同情するなら、服より米や肉をくれって思ってたからなぁ」
「食べ盛りやもんね。――まぁ、厳しく躾けられた反動で、外で絵を描くんを息抜きにしてたんやけど、まさか、それを仕事にするとは思わへんかったわ」
「将来のことは、未来になってみないと分かんないもんだよな。そうそう。このあいだは、藍助の野郎に一杯食わされてさぁ」
「落研の半蔵門くんやね。今度は何をされたんよ?」
「下駄箱に恋文を仕込まれたんだ。手書きじゃなかったから、呼び出し場所に行くまで気付かなくってさ。あとで読み返したら、縦読みでニセモノ書いてあったんだ」
「まぁまぁ。手の込んだイタズラをするもんやね。――ただいま」
「ホントだよ。すっかり騙された。――ただいま」
「あれ? 誰も居らんのやろうか?」
「おかしいな。どこかへ出掛けるって言ってたっけ?」
「二階に居るんやろうか。――葉山さん、居てる?」
「返事が無いな。留守なのか?」
「どないしたんやろう。変やなぁ」
*
――すぐに二階へ上がって確認するべきやったと、あとあと悔いることになるなんて、このときは思いも寄らんかった。
*
「いくら何でも、そろそろ誰か帰ってくるなり、上から降りてくるなりするもんじゃないか?」
「そうやね。出掛けてるんやったら、連絡の一つくらいありそうなもんやし、二階に居るんやったら、ボチボチ降りてくるころやのに」
「いつもと様子が違いすぎる。確かめに行こう」
「待って。うちも。――あっ、電話や。もしもし? ……そうやけど。えぇ? ……あぁ、いつもの大学病院やね。すぐに芳郎くんと向かうわ」
「誰から? 何で病院から掛かってきたんだ?」
「茉莉さんから。いま三人とも、そこに居るんやって。詳しいことは向こうで話すから、とにかく、こっちに来てって」
「そうか。それじゃあ、急いで行かないといけないな」




