#012「凄腕」
「まったく。大の男が三人も揃ってベランダから落ちるかなぁ、普通?」
「うるせぇ。何にも知らないくせに、わかったような口を聞くな」
「ホンマに、呆れて物が言えんわ。何で、もっと早うに知らせてくれへんかったんよ?」
「ごめんなさいね。アタシたちも、ついさっきまで手当てを受けてたもんだから」
「それで、口論のキッカケは何だったんだよ?」
「芋洗坂には関係ねぇ話だ」
「また、そうやってハミゴにする。骨折者が一人出てるんやで? 説明責任があるんと違うん?」
「そうね。話すべきね。それに、葵くんを巻き込んだのは拙かったと思うわ」
*
「それでは二人から、それぞれの身の上話を聞いたのですね」
「そうなんよ。この際やから、洗い浚い吐いて貰うたわ」
「それなら僕も、包み隠さず、お話しなければいけませんね」
「あっ、いや。葉山さんは、怪我が治ってからでえぇよ。しんどそうやし」
「でも、それでは不公平ではありませんか?」
「えぇから、えぇから。まずは、その右腕を治さんとアカン」
「そうですね。利き手側ではないとはいえ、不自由なものです」
「まぁ、クリスマス前には治るんやから、えぇと思うわな」
「この不運で、別の不幸が免れたのなら良かったのですが」
「分かれへんよ? 人生万事、塞翁が馬やから。――誰やろう?」
「どうぞ」
「失礼します。お加減は、いかがですか? ――あら?」
「こんにちは。――どちらさん?」
「僕の担当編集者ですよ。――彼女が、茜さん」
「まぁ、そうでしたか。お噂は、かねがね。あたしは、茅ヶ崎薫と申します」
「茶屋町です。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。――それで葉山くん。仕事の件なんだけど、日を改めましょうか?」
「お願いします」
「何なら、席を外しますけど?」
「いえ、良いのよ。急ぎじゃないから。それじゃあ、また来ますから。ごゆっくり」
「お手間を、お掛けします。……さて。吉に凶の兆しを見て、禍に福の兆しを見る占い師の話でしたね」
「それよりも、葉山さん。質問したいことがあるんやけど」
「おや? 完治してからにするのではありませんでしたか?」
「前言撤回するわ。薫さんに、うちのことを何て紹介したん?」
「新しい共同生活仲間だと伝えましたよ」
「それだけ?」
「それだけです」
「ホンマかなぁ。もっぺん、こっち向いて言うてみぃ」
「実は、首の調子も悪くてですね」
「嘘言うたらアカン。舌を抜いてまうで?」
「閻魔稼業を代行されては敵いませんね。白状します」




