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グレーゾーンな恋人  作者: 久遠夏目
第三章 悪魔はささやいた
24/32

08

「――というわけで、ぼくは未来が視えるっていう黒羽に気に入られちゃったばっかりに、あいつが好みの顔だっていう二十歳になったら死ぬっていう呪いをかけられて、あいつのものになるっていう契約をまんまと結ばされちゃったってわけ」

「は、はあ……」


 今までこの突拍子もない絵空事のような話を、ずっと黙って聞いてくれていた天ヶ原さんが、ようやく口を開いて一言つぶやく。

 しかし、その顔には、話を聞いている間と同じく眉間にシワが寄っていて、何を考えているのかが手にとるようにわかった。こんな話、信じられなくて当然だろう。


「えっと……一応筋は通っているような気がしますが、本当に黒羽さんは悪魔なんですか? そもそも、悪魔なんて本当に存在するのでしょうか」

「はは、普通そう思うよね。ぼくだって未だに信じられないよ。黒羽が悪魔だとか、自分が二十歳になったら死ぬだとか。今まで風邪すら引いたとこがないくらいの健康体なんだよ?」


 乾いた笑いとともに、ずっと思ってきたことを吐露する。きっと彼女以上に今までの話を信じられないのは、ぼくだ。すべてを体験し、呪いをかけられた当事者でもあるはずなのに、ぼくはそれを信じることができない。――いや、きっと信じたくないのだ。

 でも、


「でも、あいつは浮くことができるし、壁をすり抜けることもできる。あとは変な魔術も使えるかな。まあ、それだけで悪魔だとは信じがたいけど、それでもやっぱり悪魔じゃないと言い切ることもできないんだよ」


 さっきも言ったとおり、ぼくの身体は健康そのもので、二十歳になっても突然死ぬとは思えない。だから、あいつは実は悪魔ではないのではないか、という疑問はある。

 だけど、それはぼくが二十歳になってみなければわからない。あいつが悪魔じゃないと完全に断定できるまでは、ぼくは安心などできないのだ。ただ、もし本当にあいつが悪魔ならば、二十歳になった瞬間にぼくは死んでしまうのだけれど。

 だから、ぼくは何とかして寿命を延ばさなければならない。あんな悪魔になんか怯えずに済むように。そして、自分の人生を取り戻すために。

 今、話をして頭が整理できたおかげで、ぼくが改めて固く決意をしている一方、天ヶ原さんはまだ混乱しているのか、こめかみに人さし指を当てて、うーんうーんとうなっていた。結ばれた二つの髪がぴょこぴょことはねている。


「こんなこと急に言われても、信じられないよね」

「あっ、いや、別にそういうわけでは……」

「じゃあ、信じてくれる?」

「え、いや、うーん、そう言われると……」

「はは、天ヶ原さんは正直でいいね」


 あれから六年も経つぼくが未だに半信半疑なんだ、たったの数十分で信じられるものではないだろう。

 でも、信じてもらわなければ困るのだ。何故なら、


「じゃあ、もし黒羽さんが悪魔だと仮定して、どうしてその話をわたしにしたのですか?」

「黒羽が悪魔なら、君は天使だからだよ」

「……はい?」


 黒羽が悪魔であると告げたときと同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上に目を大きく見開く天ヶ原さん。その口も、ぽかーんとしたまま開きっぱなしだ。


「わたしが天使、ですか?」


 かくり、と首をかしげながらようやく発した言葉は、疑念に満ちていた。

 かと思えば、


「いやいやいや、ないですって! わたし、普通の人間ですよ?」


 へらっとした笑みを浮かべながら、手を振って全力で否定する。百面相みたいで面白いな、と場違いな感想を抱いてしまった。


「でも、君は記憶喪失なんだろう? しかも、自分に関する記憶だけ。だから、そうじゃないと完全に否定することはできないよね」

「う、いや、それはそうですけど……」


 何だかまるで相手を洗脳している気分になった。記憶喪失なのをいいことに、ウソの記憶を植えつける。そんな感じだ。

 でも、彼女が天使だというのは、ほぼ百パーセントに近い割合で事実なのだ。


「初めて逢った日、ぼくと黒羽と握手をしたよね。そのとき、電流みたいなのが流れただろう?」

「あれは季節外れの静電気だと思っていたのですが」

「静電気にしては強すぎると思わなかった?」

「言われてみれば確かに……いや、でもそれが何だっていうんです?」

「あれは君の内側からあふれる善性、あるいは君を外側から包む聖性みたいなものだって黒羽は言ってた。ぼくは何ともなかったけど、あのあと黒羽の様子がちょっとおかしかっただろ? あれは、君と黒羽――つまり、天使と悪魔という正反対の存在が触れ合ったせいで、反発みたいなものが起きたからなんだよ」


 それを聞いた天ヶ原さんの顔から困惑が消え、だんだん真面目な顔つきになっていくのがわかった。おそらく、この話に説得力があるということだろう。

 黙ったままこちらに真っ直ぐな視線をよこす彼女を見つめ返し、ぼくは先を続ける。


「しかも、黒羽は悪で、君はそれを正しに来たものだ。だから、黒羽にその善性や聖性が流れこもうとして、黒羽がそれを拒否した結果、君に触れた黒羽の体調がちょっとおかしくなったってわけ」

「……うーん、いまいちよく信じられません。もしわたしが天使だったとしても、わたしは何のためにここにいるのでしょうか?」

「黒羽は言ってたんだ、君は自分を改心させるために神様から遣わされた天使だって」

「神、様……?」


 その単語に反応して、天ヶ原さんの目がはっと見開かれる。先ほどのように驚いているというよりは、何か頭に引っかかることがある、それに覚えがあるといった感じだ。やはり「神様」という言葉が記憶を取り戻す鍵なのだろうか。


「この前もそうだった。君は神様の話に食いついてきたよね? あのときは途中で黒羽に中断されてしまったけど、あれはどうして?」

「神様は、絶対にいます……わたしは、そう思っています」

「そう、君は確かにそう言った。記憶喪失になっても、それは忘れているだけであって、消えてしまったわけじゃない。きっと君の記憶が戻るきっかけは神様なんだよ。ねえ、何か思い出さない? どうして君はそんなにはっきりと神様がいるって断言できたの?」


 たたみかけるように話を続け、どうにか彼女の記憶を思い起こさせようとその顔をのぞきこむ。


「神様……わたし、は、天使なのですか……?」

「そこまでよ」




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