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怖い話_続2026年度読切  作者: 三葉


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5/5

隣の缶コーヒー

その日は、暑かった。


夕方なのに、まだ日差しが強い。


制服の背中に汗が張りついて、最悪だった。


部活もない日だったのに、補習が長引いた。


私は駅のホームで、ぼんやり電車を待っていた。


JRの普通電車。


都会の電車ほど混まない。

でも、本数も多くない。


ホームには、私以外に数人しかいなかった。


電車が来た。


銀色の車体が、熱を持った空気を押しながら入ってくる。


ドアが開く。


中は冷房が効いていた。


私はすぐに、4人がけのボックス席を見つけた。


向かい合わせの席。


窓際が空いていたから、そこに座った。


向かいも空いている。

隣も空いている。

通路側も空いている。


ほとんど貸し切りみたいな車内だった。


私はカバンを膝に置いて、スマホを出した。



【LINE】


16:48 早乙女

電車に乗ったよー


16:48 真帆

おつー


16:49 早乙女

補習だるすぎた


16:49 真帆

生きて帰れ


16:49 早乙女

もう半分死んでる


16:50 真帆

それ高校生の語彙力なの?



私は少し笑った。


窓の外では、駅のホームがゆっくり後ろへ流れていく。


電車は空いていた。


向こうの車両に、おばあさんが一人。

反対側のロングシートに、サラリーマンが一人。


この車両には、ほとんど誰もいない。


だから、次の駅でその男が乗ってきた時。


私はすぐに気づいた。


男は、古いスーツを着ていた。


紺色なのか黒なのか分からない、色の抜けたスーツ。


白いシャツは少し黄ばんでいる。


髪は濡れているように見えた。


雨なんて降っていないのに。


手には、缶コーヒーを持っていた。


茶色い缶。


見たことのないデザイン。


昔の自販機にありそうな、古いロゴ。


男は車内を見回した。


席はいくらでも空いている。


なのに、まっすぐ私の方へ来た。


嫌な予感がした。


人間の勘は、こういう時だけ有能ぶる。

普段のテスト前にも働いてほしい。


男は、私の横で止まった。


そして、何も言わずに。


私の隣へ座った。


ボックス席の、同じ並び。


私は窓際。

男は通路側。


逃げるには、男の前を通らないといけない。


向かいの席は空いているのに。


他の席も空いているのに。


わざわざ、隣。


私はスマホを見るふりをした。


男は、膝の上に缶コーヒーを置いていた。


プルタブは開いていない。


冷たいのか、缶の表面に水滴がついていた。


でも、変だった。


車内は冷房が効いているとはいえ、そこまで冷えていない。


なのに缶から、白い湯気みたいなものが出ている。


冷気だった。



【LINE】


16:57 早乙女

変な人隣座ってきた


16:57 真帆

席空いてないの?


16:58 早乙女

めちゃ空いてる


16:58 真帆

移動しな


16:58 早乙女

隣にいるから出にくいよ


16:59 真帆

やばいやつ?


16:59 早乙女

分からん

雰囲気が無理



男が、ふっと笑った。


私のスマホを見ていたわけではない。


視線は窓の外だった。


でも、タイミングが嫌だった。


「まだ、そういうのやってるんだ」


私は固まった。


男の声は低かった。


かすれていて、喉に水が溜まっているみたいな声だった。


私は返事をしなかった。


知らない人に話しかけられた時、無視するのが正解なのか、軽く返すのが正解なのか。


誰も学校で教えてくれない。


二次関数より先に教えてほしい。


男は、缶コーヒーを指でなぞった。


「友達に言うんだろ」


私はスマホを握りしめた。


「……何をですか」


自分でも驚くくらい、小さい声だった。


男は、こちらを見なかった。


「今日も、笑うんだろ」


「人違いです」


そう言うと、男は初めて私を見た。


目が、変だった。


黒目が大きい。


というより、目の中が暗い。


光が入っていない。


「人違い?」


男はゆっくり繰り返した。


「また、それを言うんだね」


私は、何も言えなかった。



【LINE】


17:01 早乙女

話しかけられた


17:01 真帆

何て?


17:01 早乙女

友達に言うんだろって


17:02 真帆

きも

次の駅で降りな


17:02 早乙女

次まであと5分


17:03 真帆

通話する?


17:03 早乙女

イヤホン出すの怖い


17:03 真帆

画面こっち向けたままにして

ずっと送って



電車は田んぼの間を走っていた。


夕日が窓に反射して、車内がオレンジ色になる。


男の横顔も、その光に照らされた。


でも、男の顔だけ少し暗かった。


影が濃い。


夕日が当たっているのに、暗い。


男は缶コーヒーを私の方へ少し押した。


「飲む?」


「いりません」


「昔は飲んだのに」


「飲んでません」


「甘いやつ、好きだったろ」


「違います」


「嘘ばっかり」


男の声が、少しだけ優しくなった。


それが余計に気持ち悪かった。


怒っている方がまだ分かる。


優しく知らない記憶を押しつけてくるのが、一番無理だった。


「本当に人違いです」


私ははっきり言った。


男は、しばらく私を見た。


それから、にこっと笑った。


笑ったのに、目は暗いままだった。


「じゃあ、名前は?」


「言いません」


「香奈じゃないの?」


知らない名前だった。


私は首を振った。


「違います」


「でも、制服が同じだ」


「高校なんて、似た制服あります」


「髪の長さも」


「違います」


「声も」


「違います」


「降りる駅も」


私は、息を止めた。


降りる駅なんて言っていない。


男は、窓の外を見た。


「次じゃないもんな」


車内アナウンスが流れた。


『次は、南川原。南川原です』


私の降りる駅は、その二つ先だった。


男は、笑った。


「まだ降りないんだろ?」



【LINE】


17:06 早乙女

名前聞かれた

香奈じゃないのって言われた


17:06 真帆

誰それ


17:07 早乙女

知らない


17:07 真帆

次で降りて

乗り換えた方がいい


17:07 早乙女

降りようかな


17:08 真帆

絶対そうして



電車が次の駅に近づいた。


私はカバンを持ち直した。


立つなら今しかない。


男の前を通らないといけない。


でも、通路側に座っている男は、膝を少し前に出していた。


まるで、通せんぼするみたいに。


私は勇気を出して言った。


「すみません。降ります」


男は動かなかった。


「ここじゃないよ」


「降ります」


「香奈は、ここでは降りない」


「私は香奈じゃありません」


「じゃあ、どうして同じ席に座ったの」


その言葉に、ぞくっとした。


同じ席。


私はたまたま座っただけだ。


でも、男の言い方は違った。


まるで、この席には意味があるみたいだった。


電車が駅に停まった。


ドアが開く音。


私は立ち上がった。


その瞬間、男が缶コーヒーを持ち上げた。


「忘れ物」


「いりません」


「昔、忘れていった」


「知りません」


「ずっと持ってた」


男の指が、缶の表面を強く握っていた。


水滴が垂れる。


それが床に落ちた。


ぽた。


水じゃなかった。


黒い液体だった。


コーヒーの匂いがした。


私は男の前を通ろうとした。


すると、男が低い声で言った。


「また置いてくのか」


足が止まった。


自分の意思じゃないみたいに。


ドアの閉まるチャイムが鳴った。


私は焦って通路へ出ようとした。


でも、その瞬間。


車内アナウンスが変わった。


『まもなく、返事待ち前。返事待ち前です』


そんな駅はない。


ドアが閉まった。


電車が動き出した。


ホームが遠ざかっていく。


私は降りられなかった。



【LINE】


17:10 早乙女

降りられなかった


17:10 真帆

なんで!?


17:10 早乙女

変なアナウンスがあって


17:11 真帆

何それ


17:11 早乙女

返事待ち前って


17:11 真帆

そんな駅ない


17:12 早乙女

知ってる


17:12 真帆

車掌のとこ行けない?


17:12 早乙女

男が通路側


17:13 真帆

大声出して


17:13 早乙女

他の人ほぼいない



向かいのロングシートにいたサラリーマンは、いつの間にかいなかった。


おばあさんもいない。


車両には、私と男だけだった。


いや。


奥の方に、一人だけいた。


制服を着た女の人。


私と同じ学校の制服に似ていた。


窓に映っているだけかと思った。


でも違う。


反対側の端の席に座っている。


長い髪。


うつむいた顔。


手には、缶コーヒー。


私が目を凝らすと、その女の人は、すっと立った。


そして、隣の車両へ移っていった。


「香奈」


男がつぶやいた。


私は男を見た。


男の顔が、泣きそうに歪んでいた。


「今、見えたよな」


「見てません」


嘘だった。


男は笑った。


「見えたんだ」


「知りません」


「やっぱり、君は知ってる」


「知らないです」


「ずっと、返事を待ってるんだ」


「私に言われても困ります」


男は缶コーヒーを見た。


「これ、あの日のままなんだよ」


私は何も言わなかった。


「好きな子に渡すのって、変かな」


返事をしてはいけない気がした。


でも、男は続けた。


「夏だった。暑くてさ。あの子、いつも駅の自販機で甘い缶コーヒー買ってた」


男の声は、どんどん近くなる。


体は動いていないのに、声だけが耳元に寄ってくる。


「だから、俺も買った」


「返事、聞こうと思って」


「でも、あの子、友達と笑ってた」


「俺のこと、気持ち悪いって」


男が私を見た。


「君も、そう思った?」


私は答えられなかった。


思った。


最初から思っていた。


でも、それを言ったら何かが終わる気がした。


男は小さく笑った。


「正直でいいよ」


言っていないのに。


男は分かっているみたいだった。



【LINE】


17:17 早乙女

昔の話してる


17:17 真帆

何の


17:18 早乙女

好きな子に缶コーヒー渡そうとしたとか


17:18 真帆

やばいよ絶対

関わらないで


17:18 早乙女

同じ制服の女の人見えた


17:19 真帆

え?


17:19 早乙女

たぶん香奈って人


17:19 真帆

早乙女


17:20 真帆

今乗ってる電車

どこ走ってる?


17:20 早乙女

分からん


17:20 真帆

位置情報

線路から外れてる


17:21 早乙女

は?


17:21 真帆

地図上だと

川の上にいる



窓の外を見た。


田んぼは消えていた。


代わりに、黒い水面が広がっていた。


川だった。


でも、電車が橋を渡っている音はしない。


水の上を、滑るように走っている。


夕日はもう沈みかけていた。


車内だけが、妙に明るい。


男は、缶コーヒーのプルタブに指をかけた。


「開けてもいい?」


「私に聞かないでください」


「前もそう言った」


「違います」


「君はいつも違うって言う」


「私は違う人です」


「じゃあ、返事だけして」


「何の」


「受け取ってくれるか」


男は缶コーヒーを差し出した。


「受け取ってくれたら、降りられるよ」


それは、脅しのようにも聞こえた。


お願いのようにも聞こえた。


私は缶を見た。


古いデザイン。


表面の水滴。


指の跡。


底の方が少しへこんでいる。


受け取ったら、終わりな気がした。


でも、受け取らなくても終わる気がした。


スマホが震えた。



【LINE】


17:24 真帆

絶対受け取るな


17:24 早乙女

なんで分かるの


17:25 真帆

今調べた


17:25 真帆

その路線

昔噂があって


17:25 早乙女


17:26 真帆

失恋した男が

缶コーヒー持ったまま

いなくなったって


17:26 真帆

詳しくは分からん

でもその男

告白する相手をずっと探してるって


17:27 真帆

受け取った子のところに

しばらく出るって



しばらく出る。


その言葉が、一番嫌だった。


一回で終わらない。


今日だけじゃない。


男は、私のスマホを見ていない。


でも、また笑った。


「ひどい言われようだな」


私は声が出なかった。


「霊とか、噂とか」


男は缶コーヒーを胸の前に戻した。


「俺だって、好きでこうしてるわけじゃない」


「……じゃあ、やめればいいじゃないですか」


やっと、それだけ言えた。


男は、目を丸くした。


本当に意外そうだった。


「やめる?」


「はい」


「待ってるだけなのに」


「でも、違う人に話しかけてます」


「似てるから」


「似てても違います」


「制服が」


「違います」


「髪が」


「違います」


「声が」


「違います」


「気持ち悪いって思っただろ」


私は黙った。


男の顔が、少し歪んだ。


「ほら」


「それは」


言いかけて、止まった。


どう言えばいい。


怖いから怖い。

気持ち悪いから気持ち悪い。


でも、それをそのまま言ったら、この人は。


この何かは。


きっと、ずっとここにいる。


私は深く息を吸った。


「あなたのことを知りません」


男が固まった。


「だから、私は返事できません」


「……返事」


「香奈さんに言ってください」


「香奈はもういない」


「でも、私じゃありません」


男は、缶コーヒーを見つめた。


その手が震えていた。


人間みたいに。


「じゃあ、これは」


「私には渡さないでください」


男は俯いた。


電車の揺れが、急に小さくなった。


窓の外の川が消えた。


代わりに、夕方の住宅街が戻っていた。


車内アナウンスが流れる。


『次は、東町。東町です』


私の降りる駅の、ひとつ前だった。


男はまだ隣に座っていた。


でも、さっきより少し遠く感じた。


物理的な距離は変わっていないのに。


「香奈も、そう言った」


男がぽつりと言った。


「私は違うって」


私は何も言わなかった。


男は、笑った。


今度の笑い方は、少しだけ普通だった。


「そうだよな」


缶コーヒーを膝に置く。


そして、ぼそっと言った。


「みんな違うんだよな」


電車が駅に止まった。


ドアが開く。


私は立ち上がった。


今度は、男が足を引いた。


通れる。


私は通路へ出た。


でも、ドアへ向かう前に、男が言った。


「早乙女さん」


私は振り返った。


名前。


言っていない。


男は、缶コーヒーを持ったまま、こちらを見ていた。


「次に乗る時は、窓際に座らない方がいい」


「……どうして」


男は、ゆっくり首を傾けた。


「隣が空くから」


ドアのチャイムが鳴った。


私は逃げるようにホームへ降りた。


ドアが閉まる。


電車が動き出す。


窓の向こう。


さっきまで私が座っていた席に、男がいる。


その向かいに、制服の女の人が座っていた。


長い髪。


うつむいた顔。


膝の上には、缶コーヒー。


男は彼女を見ていない。


彼女も男を見ていない。


二人は向かい合ったまま、動かなかった。


電車は夕日の中へ消えていった。



【LINE】


17:34 早乙女

降りた


17:34 真帆

生きてる!?


17:34 早乙女

生きてる


17:35 真帆

よかった

ほんとよかった


17:35 早乙女

男まだ乗ってた


17:36 真帆

もう乗らんといてその電車


17:36 早乙女

無理だよ。電車で通ってるし

帰れなくなっちゃう


17:37 真帆

次の電車にして

人多い車両乗って


17:37 早乙女

そうする



私は次の電車を待った。


ホームには、少しずつ人が増えてきた。


普通の高校生。

会社員。

買い物帰りのおばさん。


普通の人たちがいるだけで、泣きそうなくらい安心した。


駅の自販機の前に、古い缶コーヒーは売っていなかった。


当たり前だ。


あんなデザイン、見たことがない。


次の電車に乗って、私は無事に家へ帰った。


その日は、親にも何も言えなかった。


言ったところで、疲れてるんじゃない、で終わる。


高校生の怪談体験なんて、だいたい寝不足かスマホの見すぎにされる。

便利な処理である。腹は立つ。


夜、制服を脱いで、カバンの中身を出した。


教科書。

筆箱。

プリント。

イヤホン。


その奥に。


缶コーヒーが入っていた。


茶色い缶。


古いロゴ。


表面には、びっしり水滴がついていた。


私は叫びそうになって、口を押さえた。


触っていない。


受け取っていない。


なのに、カバンの中にある。


スマホが震えた。


真帆からだった。



【LINE】


21:12 真帆

大丈夫?


21:12 早乙女

大丈夫じゃない


21:13 真帆

何かあった?


21:13 早乙女

缶コーヒーがカバンに入ってた


21:13 真帆

は?


21:14 早乙女

受け取ってないのに


21:14 真帆

捨てて


21:14 早乙女

触りたくない


21:15 真帆

親呼んで


21:15 早乙女

言えない


21:16 真帆

じゃあ袋に入れて

外に出して



私はビニール袋を二重にした。


缶コーヒーを直接触らないように、タオルでつかむ。


冷たかった。


冷蔵庫から出したばかりみたいに。


缶の底に、何か貼りついていた。


小さな紙。


古い切符だった。


硬く、黄ばんでいる。


そこには、薄い文字でこう書かれていた。


片道


早乙女


駅名のところは、かすれて読めない。


ただ、降車駅の欄だけは読めた。


返事待ち前


私はその切符も一緒に袋へ入れた。


玄関の外へ出そうとした。


その時。


缶の中で、何かが揺れた。


ちゃぽん。


コーヒーが入っている音。


未開封なのに。


プルタブは開いていないのに。


中から、小さく声がした気がした。


「違うんだよな」


私は袋ごと靴箱の上に置いた。


それ以上、動かせなかった。



次の日。


袋はなくなっていた。


家族は誰も知らないと言った。


ゴミの日でもない。


玄関の鍵も閉まっていた。


でも、靴箱の上には、輪っか状の水滴だけが残っていた。


缶コーヒーの底の形。


その日の登校は、母に車で送ってもらった。


理由は腹痛ということにした。


嘘ではない。


胃はずっと痛かった。


駅には近づきたくなかった。


でも、放課後。


スマホに通知が来た。


知らない番号からのSMSだった。


本文は、短かった。



【SMS】


16:48

今日は窓際じゃないんだね



私はすぐ削除した。


ブロックもした。


でも、その夜。


真帆からLINEが来た。



【LINE】


22:03 真帆

早乙女


22:03 早乙女

なに


22:04 真帆

今日さ


22:04 真帆

駅で缶コーヒー持った男見た気がする


22:04 早乙女

どこの駅


22:05 真帆

うちらの学校の最寄り


22:05 真帆

でも変だった


22:05 早乙女

何が


22:06 真帆

男の人

ホームの向こう側にいたのに


22:06 真帆

目が合った気がした


22:07 真帆

それでさ


22:07 早乙女

うん


22:08 真帆

缶コーヒー

二本持ってた



それを読んでから、私はJRに乗る時、絶対にボックス席には座らない。


窓際にも座らない。


缶コーヒーも買わない。


自販機の前で、茶色い缶を見るだけで息が詰まる。


あの男が本当に霊だったのか。


失恋して、返事を待ったまま消えた人だったのか。


私は知らない。


知りたくもない。


ただ、たまに電車で空いたボックス席を見ると、思う。


向かい合う四人分の席。


そのうち三つが空いている時。


残り一つに座るのは。


本当に、生きている人だけなんだろうか。

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