試合の行方
観客は超満員。中にはカメラを小脇に抱えたスカウトマンらしき人物の姿も見える。今か今かと待ちわびる大観衆のなか、整列の合図である主審のホイッスルが吹かれた。
序盤、翔のスパイクが尚斗を中心にした相手ブロッカーにことごとく抑え込まれ、それにひきずられるように調子の出ないT大の各選手は、細かなミスが目立ち1セット目を落とす。
「悪い、みんな。俺が止められてさえいなければ、もっと楽な展開になっていたはずだ」
ビッグマウスの彼が珍しく弱音を吐いた。相手ベンチでは、尚斗がどうだと言わんばかりに、チームメイトに息巻いている。
「キャプテン落ち着いて。次のセットは散らしていくよ」
チームの司令塔である一馬の一言は、翔に向けたものであったが、浮き足立っているメンバー全体を落ち着かせる効果があった。このとき翔は思った。(この男はどんな場面でも冷静でいられる奴だな・・)
続いて2セット目。ようやく調子が上がってきた謙太郎のバックアタック一閃。亨の速攻を織り交ぜ、相手に予想させない一馬のトス回しが冴えわたり、セットカウントを1対1に戻した。
「まだ振り出しに戻しただけやで。気抜いたらあかんで」
ムードメーカーの隼人がチームを鼓舞した。
3セット目、尚斗は亨の速攻に照準を絞った。相手の動きを即座に研究し、すぐさま修正してくるところが尚斗がかねてよりエースキラーと呼ばれてきた所以である。攻守の歯車が嚙み合わず、セットをとられてしまったT大は、ベンチ前でこの日二度目となる円陣が組まれた。詩音はメンバーのタオルを集めながら、一人一人とハイタッチを交わし、コートへ送り出した。
「上げる場所に困ったら、迷わず俺のところに上げてこい。俺がブロックごと打ち砕いてやる」
怖いほど集中力を高めた謙太郎は、一馬にそう言い放った。
大地のエンドラインぎりぎりに決まるサービスエースで始まった4セット目は、これをきっかけに勢いづいたT大が、流れを完全に引き寄せた。一時、尚斗の速攻で逆転を許すが、それを守備職人隼人が華麗なフライングレシーブで上げはじめる。その魅了するプレーで観客さえも味方につけた。こうなれば百戦錬磨のT大はより強くなる。一度引き寄せた流れを、そう簡単に相手には譲らず、最終セットも危なげなく試合をすすめ、セットカウント3対2でT大が勝利した。




